Record China 2021年12月23日(木) 8時50分
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今後のファーウェイの営業戦略や日本企業との連携などについて、ファーウェイ・ジャパンの林嘯渉外・広報本部長に聞いた。
2019年の米商務省による「エンティティ・リスト」への記載や2020年9月の輸出規制強化で中国通信機器最大手のファーウェイは厳しい経営が続く。今年1月から9月期の売り上げは前年比約32%の減収となった。2020年11月には低価格ブランド「オナー」を売却、半導体の輸出規制によってファーウェイ・ブランドの高性能スマートフォンも低調である。一方で中国国内向けの5G基地局ビジネスやグローバルでの法人向け事業は安定しており、自動運転自動車のシステムを市場投入するなど、光も見え始めた。
日本企業とは部品の調達などで密接な関係にある。今後のファーウェイの営業戦略や日本企業との連携などについて7日、ファーウェイ・ジャパンの林嘯(りん・しょう)渉外・広報本部長に聞いた。林嘯本部長は2004年にファーウェイに入社、アフリカのマリ、チャド、モロッコのCEOを歴任した。英語とフランス語に堪能な国際派である。(インタビュアー:科学ジャーナリスト・倉澤治雄)
――カナダで拘束されていた孟晩舟副会長が9月に釈放され帰国しました。10月25日には深センの本社に3年ぶりに業務復帰したと伝えられています。社内の雰囲気はどのように変わりましたか?
会社にとってはとても士気が上がる出来事でした。米国とカナダは法に則って進めていると信じています。
――中国メディアの報道などを見ると孟さんはすでに英雄です。任正非CEOの後継者になるのではないかとの観測も出始めています。2019年に私たちが任CEOにインタビューしたときは否定していましたが、孟副会長が後継者となる可能性はあるでしょうか?
ファーウェイの後継指導者を選ぶうえで重要なのは、ファーウェイの文化の継承だと思います。
――米国の制裁によりスマートフォンを中心としたコンシューマー・ビジネスは大きな影響を受けました。今年度9月までの売上高は確かに減少しましたが、まだきちんと利益を出しているところがファーウェイのすごさだと思います。いま力を入れている分野について教えてください。
まずスマートフォンビジネスがなくなったわけではありません。一部は売却しましたが、まだスマホのシリーズも継続しています。他にもイヤフォンやパソコン、それにスマートホームなどコンシューマー向けの製品があります。利益を出している分野はソフトウェア関連です。すべてのビジネスに散らばっています。また法人向けビジネスも成長しています。
――5Gの基地局についてはいかがですか?米国のファーウェイ排除に追随する国も出ています。日本も事実上排除しています。一方、中国国内ではすでに100万局を超えたと報道されています。中国国内でのシェアも気になるところです。
まず中国国内ですが、シェアは50%を超えています。基地局展開はピークを迎えています。海外ではアジア・太平洋、ラテンアメリカなどでは好調です。フランス、ドイツ、英国などの主要国も目標を達成しています。東欧では一部の国が排除していますが、大きな影響は受けていません。
ファーウェイは2Gの時は中国市場でシェアがありませんでした。3Gになるとグローバルで主要なサプライヤーとなりました。4Gの時代にはリーダーになりました。5Gでは基地局だけでなく、多くの製品がネットワークを支えています。
現在は4Gのネットワークの上にありますが、スタンド・アローンが実現するとスピードが上がり、容量が格段に増強されます。技術が成熟すれば新しいビジネスができるようになり、それがまたネットワークを進化させます。例えば個人ユーザーがAR/VRなどを使うようになるでしょう。
――5Gは世界統一規格です。すでにBeyond5Gや6Gの議論が始まっています。今後モバイル通信ネットワークは再びデカップリングが進んで複数の技術規格が併存することになるのでしょうか?
人為的に6Gが二つ以上の技術規格になることに消費者は同意しないでしょう。通信事業者も同様です。ファーウェイもすでに6Gの研究は始めています。5Gではエッジ・コンピューティングが進んでいます。6Gではさらに進むでしょう。また日本は光技術が進んでいます。オプティクスとエレクトロニクスの融合です。私たちも6Gを開発する上でぜひ日本の企業と連携していきたいと思っています。
――日本での調達についてうかがいます。米国の輸出規制でピーク時の1兆1000億円から8800億円台へと減少しています。今後の見通しとファーウェイ・ジャパンの戦略について教えてください。
ファーウェイは日本のサプライヤー90社以上と10年以上、良好な関係を構築しています。戦略的なパートナーです。ほとんどの日本企業は独自に技術開発を行っているので、米国の制裁の影響はありませんが、米国はキーとなる部品にフォーカスして許可しないやり方をとっています。例えばカメラセンサーです。
では米国はファーウェイに製品を売らないかというとそんなことはありません。先日のニュースでは米国企業113社、約7兆円分の輸出許可を承認しています。こうした輸出規制や制裁を政治的に利用することはアンフェアです。とくに日本企業に影響を与えないように希望しています。
2020年11月には日本の経団連や商工会議所など業界10団体が経済産業省に「中国及び米国の域外適用規制について」という要請文書を出しました。内容は中国の輸出管理法に対する懸念と当時に、米国のエンティティ・リストに掲載された企業との取引が、突然断ち切られるなど、ビジネスに大きな影響を与えている点を指摘しています。要請文では米国の再輸出規制について「予見可能性、法的安定性が著しく欠けた状態」にあると指摘しています。
法律やルールを遵守する前提で、日本の状況に合わせて萎縮せずに供給してほしいと思います。当時の梶山経産相も日本企業は過剰にルールを深読みすることはやめようと語ったと言われています。ファーウェイはオープンです。日本企業が販売してくれる限り、私たちは調達を増やし続けます。
――問題は半導体です。半導体の製造プロセスや材料、部品、製造装置のサプライチェーンはきわめて複雑で、国際的なエコシステムの構築は必然です。米国は自分たちが作ってきたエコシステムをまさに破壊しようとしています。中国はとくに製造部門(ファウンドリー)で露光装置などの製造装置を米国に抑えられていることから、かなり長期間にわたって独自で開発するのは困難な状況です。ファーウェイにとっても高性能半導体は極めて重要ですが、今後、半導体の調達や自主開発についてはどのように考えていますか?
ファーウェイは半導体の製造にはタッチしてきませんでした。製造技術の確立には数十年蓄積が必要ですので、ファーウェイだけでは解決できません。われわれが購入しているのは汎用品なのです。中国政府も半導体産業には力を入れています。デカップリングは逆に孤立を招くことになるでしょう。
日本は技術と貿易の二本柱で国の発展を支えています。日本はグローバル・サプライチェーンの恩恵を受けています。米国と中国がデカップリングするのであれば、中国も追いかけざるを得ません。競争はビジネスにとっては良いことです。しかしそれにはルールが必要です。
――日本にはまだまだ素晴らしい技術がたくさんあります。また中国は技術をビジネスに生かして事業化する能力が極めて高いと思います。その意味で日本と中国は補完関係にあると思います。今後、ファーウェイ・ジャパンは日本企業との協業について、どのように考えていますか。
おっしゃる通り、日本と中国は補完関係にあります。日本の長所は物理や化学です。日本は上流の技術で蓄積があります。一方、ファーウェイは数学や応用技術に強みがあります。ファーウェイは特許を重視しており、勝手の他の領域に入ることはしません。パートナーの権利を常に尊重しています。日本の世論は誤って誘導されていると思います。中国企業と提携すると技術が盗まれると。私たちファーウェイのポリシーは良い商品を買うことです。
特許やアイデアは有効期間がとても短く、2、3年で商品化しなければなりません。中国と欧米が緊密になるほど、日本にとってはいい状況になると思います。ファーウェイは今、医療・ヘルスケア分野にも力を入れています。健康とスポーツです。コロナが収束したら、ぜひ日本の記者の皆さんを深センのヘルスラボにお連れしたいと思います。
【倉澤治雄氏プロフィール】
1952年千葉県生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。フランス国立ボルドー大学第三課程博士号取得(物理化学専攻)。日本テレビ入社後、北京支局長、経済部長、政治部長、メディア戦略局次長、報道局解説主幹などを歴任。2012年科学技術振興機構中国総合研究センター・フェロー、2017年科学ジャーナリストとして独立。著作に『原発爆発』(高文研)『原発ゴミはどこへ行く?』(リベルタ出版)など。
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