吉田陽介 2021年12月25日(土) 8時20分
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2021年後半より、中国の不動産大手恒大グループの債務危機が露呈したことで、中国の金融機関は不動産業界のリスクをより意識するようになった。写真は北京。
2021年後半より、中国の不動産大手恒大グループの債務危機が露呈したことで、中国の金融機関は不動産業界のリスクをより意識するようになった。このことは、不動産企業の資金調達の全般的縮小を招き、不動産業界全体の流動性リスクを高めている。
■国民生活に関わる不動産分野の取り組みを重視する中国政府
2020年秋に始まった不動産規制は、不動産企業の資産負債比率と銀行の信用供与に対するもので、中国政府が不動産市場に対して行った最も厳しい規制だ。北京や上海の大都市では、不動産価格が高く、一般市民にとって自分の家を購入することは「夢のまた夢」だ。こうした人々にとって、不動産は切実な問題で、国民生活に関わる問題の一つといってよい。
ただ、「中国経済発展の原動力は不動産」と言われているように、とくに地方政府にとって、土地使用権収入は重要な収入源の一つだ。また、中国の土地財政は土地を売却した「土地譲渡金」で財政ニーズを満たしていた。そのため、不動産は経済発展に一定程度寄与した。
それだけでなく、不動産は投機の対象になり、必要な人に行き渡らなくなった。このことは、国民生活の改善を重視する中国政府にとって、見過ごすことができない問題だ。
それを受けて、中国政府は不動産価格を抑える措置を講じた。習近平国家主席の「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」という言葉が象徴しているように、高すぎる価格を抑制するための措置をとった。
2020年8月20日、住宅都市農村建設部と中国人民銀行は重点住宅企業座談会を開き、不動産金融プルーデンス管理制度を実施し、不動産企業融資の市場化・規則化・透明性を強化することを述べるとともに、住宅企業融資の「3つのレッドライン」も発表した。それは、(1)仮受金を除いた資産負債率が70%を超える、(2)純負債比率が100%を超える、(3)現金短債比率が1倍以下、というものだ。この「レッドライン」を超えた企業は規制の対象となった。
政府の厳しい措置により、不動産業界には以前のような勢いがなくなったことは確かだ。販売不振などの要因により、不動産企業の債務不履行率が急激に上昇した。これを受けて、多くの専門家は「現行の規制政策の大幅な調整がなければ、今後数カ月で債務不履行率の急激な上昇や、より大きな金融リスクを引き起こす恐れがある」と警告した。
■政府の厳しい不動産規制の緩和で資金調達に変化が起こる
その後、中国政府の厳しい措置が緩和され、金融機関が「不動産業界の合理的な資金ニーズを満たす」ことを呼びかけた。その後、不動産業界の資金調達状況に好転の兆しが見られた。
11月24日付の「中国ネット」の不動産関連の記事は、不動産業界の研究機関中指研究院のデータを引用して、「11月23日時点で、同月の不動産企業の融資総額は617億5000万元に達し、前期比で10月総額の69.2%を超え、単月の融資規模は前期比で3カ月連続減少した後、上昇の勢いを見せた」と述べた。
また、同記事は、不動産企業の信用債(政府以外の主体が発行する債券)発行規模は425億元に達し、主な融資手段となっていると指摘した。
不動産情報サービスの克而瑞の統計によると、11月10日から21日までの間に、不動産企業と都市投資企業(地方政府とその部門が財政支出、土地や株式などの資産を投じて設立した会社)25社が銀行間市場での資金調達を発表し、総額は288億元に達した。一部企業の融資はいち早く認可された。例えば、ある中規模不動産企業「小商品城」は11月10日、10億元の超短期融計画を実施すると発表し、11月15日に発行が完了した。
克而瑞の専門家は「多くの企業による中短期債の資金調達計画が実現したことは、現在の銀行間債券市場における資金調達の突破口が開いたことを示し、市場の信頼感を持たせた」と述べた。
一部の企業は社債発行に乗り出した。不動産大手の保利発展と中国海外発展は11月22日、それぞれ98億元以下、29億元以下の社債を発行すると発表した。一部メディアは、保利発展の100億元近くに上る社債発行計画の規模が市場への「カンフル剤」となったと報じた。
■資金調達が活発なのは国有企業、今後は民間企業の活性化がカギ
だが、今回の信用債発行は国有企業が中心だ。メディアの統計によると、20社余りの信用債の発行体(発行者)のうち、民間企業は1社だけで、残りはすべて中央企業か地方国有企業だ。
中指研究院は、「現在、不動産業界は依然として下降期にあり、業界全体のリスク抵抗力は顕著に低下しており、中央企業と地方国有企業は金融機関に好まれている」との見方を示した。
克而瑞が11月21日に発表した研究報告書によると、国有企業の資金調達はすでに回復し始めており、今後、債務発行主体が国有企業から他のタイプの企業に拡大できるかどうかはまだ今後の推移を見守る必要があるという。
民間不動産企業の状況は依然厳しい。公開資料によると、11月以降、多くの民間企業が自助努力による資金調達を行っており、資産売却や株主からの借り入れ、債務期間の延長などによって負債を減らしている。
申万宏源証券集団股分有限公司が11月22日に発表した研究報告書によると、現在、市場の不動産債に対する投資自信は依然として比較的脆弱であり、今回の住宅企業の融資は適度に「緩和」されたが、目的は安定を維持し、不動産企業の債務危機の無秩序な拡張によるリスク拡大を避けることにある。同報告書は、「融資緩和は短期的に民間企業には波及しない可能性が高い」と分析する。
「公有制を主体とし、多種類の所有制経済を発展させる」のは中国の基本的方針だ。国民経済の命脈に関わる部分を国有企業が担うことは中国の社会主義市場経済の重要な原則だ。国有企業の利益の一定程度が国家財政に繰り入れられるため、国有企業の発展は中国経済にとって重要だ。そのため、国有の不動産企業の資金調達状況が改善を見たのも、中国経済の発展で重要な役割を果たす国有企業の発展を促すためだ。
ただ、中国は民間企業も経済発展のための重要なファクターとしており、国有企業の発展がソ連式の社会主義モデルに戻るということは考えにくい。民間企業はまだ国有企業に比べ、融資などの面で不利な状態にあるため、民間企業、とくに中小の民間企業の資金調達へのサポートが今後重要となってくるだろう。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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