<北京冬季五輪>仏独伊露韓印など80カ国「外交ボイコット」追従せず=日本は米中両国に配慮

八牧浩行    2021年12月25日(土) 10時20分

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2022年2月4日の開幕まであと40日余りとなった北京冬季五輪。バイデン米政権が中国の人権状況を理由に外交ボイコットを発表して以降、英国、豪州、カナダが同調したが、圧倒的多数の国は追従しない見通しだ。

2022年2月4日の開幕まであと40日余りとなった北京冬季オリンピック・パラリンピック。バイデン米政権が中国の人権状況を理由に閣僚や官僚など政府代表を送らないと発表して以降、英国オーストラリア、カナダが同調した。ところがこうした「外交ボイコット」に追従しない国が相次ぎ、参加国の9割超の80カ国以上が外交団を派遣する見通し。「米国のメンツは丸つぶれ」(IOC関係者)となっている。

日本は東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長(参院議員)、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長、日本パラリンピック委員会の森和之会長らを派遣する。来年に国交正常化50年の節目を迎える中国との関係を安定させる必要性を考慮し、岸田文雄首相が発表する形は取らず、「外交ボイコット」との表現も見送った。

松野博一官房長官は24日の記者会見で「日本として五輪、パラリンピックの趣旨、精神にのっとり平和の祭典として開催されることを期待している」と述べた。

同盟国である米国に歩調を合わせつつ、中国を過度に刺激しないよう配慮する思惑から、岸田首相はこの問題に関して21日の記者会見で「適切な時期に五輪・パラリンピックの趣旨や精神、外交の観点を勘案して国益に照らして判断をしていく方針で臨みたい」と語っていた。

◆IOC、「五輪とスポーツの政治化に断固反対」

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は12月14日、「外交ボイコット」にほとんどの国は追随しないとの見通しをドイツ公共放送ZDFに語った。バッハ氏は「90の国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)が北京五輪に参加するとして、80を超える国は外交ボイコットを表明していない」と明言した。

IOCは21年12月11日、五輪サミットで「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」との共同宣言をまとめた。また米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)のスザンヌ・ライオンズ会長らが12月17日、米国が北京冬季五輪に外交ボイコットを決めた状況下でも選手への支援を約束した。会長は「選手が肉体的にも精神的にも必要な支援を受けられると、自信を持っている」と述べている。

本来はアスリートが主役の「平和の祭典」である五輪だが、過去に米ソ両陣営の対立から一部選手が参加できない大会があり禍根を残した。1980年のモスクワ五輪で日本を含む西側諸国がボイコット。1984年のロサンゼルス五輪ではソ連をはじめとする東欧圏諸国の報復ボイコットがあった。

今回の北京冬季五輪で外交ボイコットを表明した国も、不参加を政府関係者のみにとどめる方針である。米中の覇権争いをこれ以上、五輪の場に持ち込み、「分断の祭典」にすることは避けるべきだろう。

肝要なのは冷静で主体的な判断と行動である。フランスのフィリップ・セトン駐日大使は12月12日、日本記者クラブで記者会見し、来年2月の北京冬季五輪への対応について「外交ボイコットは一切視野に入れていない」と否定した。同大使は現在外交ボイコットを表明している国は米英豪などアングロサクソン英語圏にとどまっていることを念頭に、「(世界には)英語圏以外の国も多数あり、排他的であってはならない」と不満を表明した。フランスは24年の五輪を主催することもあって、マクロン大統領は外交ボイコットを繰り返し否定しており、大使発言はこれを受けた形だ。

◆北京五輪で南北首脳会談開催か

欧州連合(EU)ではドイツ、イタリア、ハンガリーなども「外交ボイコット」を否定。その後も慎重な姿勢を示す加盟国が相次いだ。13日のEU外相理事会に参加した各国の外相らが次々に表明した。オーストリアのシャレンベルク外相は記者団に「五輪を政治的なイベントにするのは有益ではない」と慎重な見解を示した。ドイツのベーアボック外相も気候変動問題などで「中国は重要なパートナーだ」と述べ、過度な関係悪化は望ましくないとの考えを明らかにした。

このほかロシア、韓国、インドなども米国の呼びかけに追従しない方針だ。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領はオンラインで会談し、プーチン氏は北京冬季五輪の開会式に出席すると表明した。プーチン大統領は23日の年末の記者会見で「米国の決定は中国の発展を妨げようとする試みの一環」とした上で、「彼らは中国の成長を抑えられない。それに気づくべきだ」と批判した。

韓国の文在寅大統領は「北京冬季五輪に招待された」と明かし、出席について慎重に検討する考えを示している。外交ボイコットについては「米国をはじめとするどの国からも(ボイコットに)参加するよう勧誘を受けたことはない」としている。

朝鮮半島情勢に詳しい小針進静岡県立大学教授によると、北朝鮮は次の韓国政権が現政権の流れをくむ進歩派政権になることを望んでおり、3月の韓国大統領選で文氏の後継候補が有利になるように仕掛けてくる可能性がある。2019年以降南北首脳会談が開催されていないため、韓国の進歩勢力としても、実績を作っておきたいとみられ、22年2月の北京五輪で南北首脳会談が実現する可能性もあるという。最近の韓国世論調査では、7割以上が南北首脳会談と終戦協定締結を支持している。

◆日本の国益に合致した「落とし処」

日本政府は「外交ボイコット」との表現を控え「玉虫色」決着となったが、経団連幹部は「「外交ボイコットに踏み切れば少なからぬ日本国民に実害のリスクがあったので妥当な落とし処」と評価する。中国は日本の貿易総額の24%(2020年財務省統計)を占める最大の貿易相手国。中国には、3万2887社の日系企業(19年ジェトロ統計)や11万1769人の日本人(20年外務省統計)がいる。ウイグルでの人権状況が明確に検証されていない中で、日本が対中強硬策を取れば不利益を招いても不思議ではないという。

12月中旬に実施された朝日新聞の全国世論調査で、北京冬季五輪に、政府当局者を派遣しない「外交ボイコット」について、日本の対応を聞いたところ、外交ボイコットを「するべきだ」は35%にとどまり、「するべきではない」の43%が上回った。北京五輪が近づくにつれ、日本国民の多くも米中両国への配慮を求めているようだ。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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