コロナ禍で多くの船員が、世界の海にとり残されている=乗下船に支障―物流・雇用にも大ダメージ

山本勝    2022年1月18日(火) 7時50分

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多くの船員たちが長期の乗船で世界の海にとり残され、苦境に陥っていることをご存じだろうか?

多くの船員たちが長期の乗船で世界の海にとり残され、苦境に陥っていることをご存じだろうか?

新型コロナウイルスの感染拡大に端を発し、この防止を目的に世界各国が国内、各国間の人の移動を厳しく制限してきているが、国際的な物流の大動脈をになう海運においても現場ではたらく船員の交代が、これによりままならなくなっているのが原因である。

外航海運の世界では船員のグローバル化は早くから進み、世界の船員のソースはかつての欧州、日本などの海運先進国からいまや多くがフィリピン、インド、中国等のアジアの船員に置き換わり、世界最大の海運国である日本でも支配船隊の約75%をフィリピン人が占め、ほかインド、東欧諸国、その他のアジアの国々がつづいて、日本人船員は4~5%を数えるに過ぎない。

船員はいったん乗船すると通常4~6か月船上で勤務したあと下船、自国に帰って休暇を過ごしてふたたび乗船するということをくりかえすが、乗船地、下船地は本人の契約期間、寄港のスケジュール等で世界の各地になることが通常である。新型コロナウイルスの感染が世界に拡大し、各国が入出国時の検査の厳格化、隔離や待機の義務化を決め、なかには入国を認めないなどの強い処置にでるケースもあって、予定した港で船員の交代ができず、下船の機会をのがした船員が長期乗船を強いられ精神的な苦痛を訴えたり体調を崩したりするケースも発生している。

船員の雇用は原則乗船期間ごとの契約で行われるのが一般であるので、乗船できずに自国に待機している船員はその間の雇用の機会が奪われて経済的な損失を被ることにもなり、こうなっては船員にとって大きなダメージだ。

◆船員40万人が帰国できず

一方、船を運航する海運会社にとっても、船員の労務管理上の問題のみならず、乗下船時の待機、隔離期間中の滞在費や高額の交通費などの出費、制限された条件下での乗下船にともなう時間のロス、そしてなによりも船員の交代のために本来のスケジュールを変更して寄港させるなど本船の運航効率の著しい低下など、物流企業として深刻な影響をもたらしている。

コロナ下であっても巣ごもり需要の拡大等により国際海上貨物は増加の傾向にあり、他方コロナ禍での人手不足などにより陸上で生じている物流の混乱が世界の主要港湾における大規模な滞船をまねいているとの指摘もあるが、船員の交代問題に発する本船のスケジュールの乱れ、運航効率の低下が一因にもなっている事実を重く認識すべきである。

 

IMO(国際海事機関)によれば昨年初めで40万人の船員が契約期間を超えて帰国できずに海上に残されているという。その多くを占めるアジアの船員が苦境に陥っているということだ。

ワクチン優先接種、乗下船時特別処置が必要

国際機関、労働団体、関係海事団体は世界の物流の8割を支える船員を医療従事者などと同様「エッセンシャルワーカー」として位置づけたうえで、コロナワクチンの優先接種、乗下船時の移動にたいする特別処置などの対応をとるよう各国政府にはたらきかけ、その成果は徐々ながら上がりつつある。

家族や友人のもとを離れて長期間を海上ですごす船員たちにとって十分な休暇の確保は、労働の再生産のためのみならず人間の尊厳維持のために不可欠である。

何よりもこの問題の本質が弱い立場にある船員の人権にかかわることを忘れてはいけない。

■筆者プロフィール:山本勝

1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。

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