<米中対立パラドックス>米企業「中国ビジネス」急拡大=相互依存強まり、米経済界にブーメラン

八牧浩行    2022年1月16日(日) 8時0分

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米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大。米政権は、日本など同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認している。写真は中国国際輸入博覧会。

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米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大している。中国・上海で2021年11月に開催された「中国国際輸入博覧会(輸入博)」では世界最大の中国市場の成長を取り込もうと多くの外国企業が最新の商品や技術を披露した。特に目立ったのは米国の出展企業で、過去最多となり熱気に包まれた。トランプ政権から続く米国の「対中デカップリング(切り離し)」は進展しておらず、逆に「相互依存関係」が強化されている。

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この輸入博における米国の企業・団体の参加数は200超で過去最多となった。ゼネラル・モーターズ(GM)、マイクロソフト、アップル、ナイキをはじめ従来からの進出企業の多くは派手な巨大ディスプレイで会場を圧倒。メガ企業のアマゾンなど初出展の企業も目立ち、米中対立が続く中でも中国市場のビジネスチャンスを重視する姿勢が際立った。

中国税関総署によると、2021年の対米貿易総額は過去最大となった。対米貿易総額は前年比29%増の7556億ドル(約86兆円)で、3年ぶりに最高を更新。20~21年はいずれも対米輸出の増加額が輸入の増加額を上回り、貿易黒字は拡大した。21年は25%増の3965億ドルと過去最大を記録した。米中間の貿易は拡大を続けており、貿易での相互依存はむしろ強まっている。

輸出は米個人消費の回復でパソコンや玩具の出荷が好調だった。20年2月に発効した米中貿易協議の第1段階合意で、中国は米国から輸入するモノやサービスを20~21年に17年比で2000億ドル増やすと約束。この合意に基づき、農産品だけでなくの輸入も増加した。中国人民大学は21年12月に公表した研究リポートで「米国が仕掛けた貿易戦争は失敗に終わった」と指摘した。

◆世界貿易に占めるシェア、米国を凌駕

中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して、21年12月で20年を迎えた。この間に貿易総額は9倍に拡大、世界貿易に占めるシェアは01年の4%から20年には13%に達した。13年には米国を追い抜き、日本を含む多くの国にとって最大の貿易相手国になった。

中国は安い人件費を武器に「世界の工場」として輸出を急拡大する一方、段階的な関税の引き下げで輸入も増やした。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、20年の輸出は2001年の9.7倍、輸入は同8.4倍となった。

中国の貿易総額は同じ期間に9.1倍に膨らみ、2.8倍だった世界貿易の拡大ペースを大きく上回った。輸出品目をみると、加盟当初は労働集約的な衣料品などが主力だったが、最近ではパソコンやスマートフォンの出荷も伸びている。

米国がインド太平洋地域での自由貿易協定(FTA)の枠組みに慎重な姿勢をとる中で、中国は参加を積極化。世界最大の包括的経済連携(RCEP)は22年1月に発効した。21年9月には自由化の水準がより高い環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟も申請した。

テスラの急成長、中国市場が支える

電気自動車(EV)大手テスラは中国市場で成功した米企業の典型と言える。2021年7~9月期決算は売上高と利益がともに過去最高を更新し、時価総額は1兆ドル(約110兆円)を突破。その驚異的な成長は中国事業が支えている。

湖南省長沙市のテスラストア

1~9月のテスラの中国販売台数は前年同期実績の約3.5倍に拡大。テスラの中国の販売台数は4~6月から米国を安定的に上回るようになり、7~9月には全体の50%に達した。2年前に稼働した上海工場の生産台数は米国工場を上回った。中国からテスラや中国企業がEVを世界中に輸出し急増している。時価総額で世界1、2位のマイクロソフトとアップルは中国事業のウエイトが大きいが、テスラも2社の中国重視戦略を追いかけている。

人口14億人を擁する世界最大の消費市場を掴もうと米企業は必死である。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と半導体メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の事実上の禁輸リストに指定されているにもかかわらず、米国内の両社のサプライヤーがかなりの額の製品・技術の輸出許可を米商務省から取得していた事実が判明した。昨年11月から今年4月までの期間に、ファーウェイ向けの計610億ドル(約7兆円)の製品・技術の販売について計113件の輸出許可が付与され、SMICには420億ドル近い製品・技術を販売するために188件の許可が与えられた。許可は4年間有効で、SMICの米サプライヤーによる輸出許可申請の90%強が承認され、ファーウェイの米サプライヤーによる申請は89%に許可が下りたという。

北京のファーウェイ ショップ

脱炭素で、中国は脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀中頃までに実施すると宣言しているが、米企業は保有ライセンスを前面に、中国企業への売り込みに血道をあげている。米国金融業界は中国で日本より多くのビジネス上の特権を持ちさらに拡大している。米中間の官民やの対話・交流は頻繁に行われており、中国に行くと米国人や米ブランドショップが目立ち、GMなどアメリカ車の多さに驚く。

◆米中覇権争いの中、米中のしたたか戦略

米中の世界覇権を巡る争いは表向き激化しているが、米国内では最近の経済安全保障に名を借りた対中強硬策への反発も経済・金融界を中心に根強い。米シンクタンク幹部は「トランプ政権以来の保護主義政策は結果的に世界最大の消費市場・中国でのビジネスチャンスを奪い、米国の経済力を衰退させる」と警鐘を鳴らす。米中経済の相互依存が強まる中で、米政府主導のデカプリング(対中切り離し)は進展しておらず、「米中対立パラドックス(逆説)」とまで言われている。

ニューヨーク・マンハッタンにある世界の金融の中心地、ウォール街

ウォール街や米産業界にとってビジネス上の中国の重要性はむしろ増大するばかり。米政府は中国とのビジネスをやめるよう圧力をかけておらず、逆に前述したように、ファーウェイなどへの輸出を容認するケースも散見される。グローバルな市場経済下で、成長の機会を求める米経済界が中国市場を重視するのは当然と言える。中国政府による市場開放のチャンスを米企業がつかまなければ、欧州や他の地域の企業に横取りされるとの懸念も根強い。

米国では対中貿易規制の長期化により中国からの輸入品に高い関税がかけられているため、昨年暮れのクリスマス商戦を前に物価が上昇、消費者の不満が高まった。中国との投資や貿易取引が多大な米金融経済界や農業界から米中対立の緩和を求めるロビー活動も活発化している。昨年11月の米中首脳会談(リモート)もバイデン大統領から旧知の習主席に要請した。

米半導体大手インテルは中国・新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう部品メーカーに通達したことについて、昨年12月23日に中国側に謝罪した。中国の国民感情に配慮することで同社製品の不買運動などに発展するのを避ける狙いだ。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」の公式アカウントに中国語で「尊敬する中国の顧客、パートナー、国民に迷惑をかけたことを謝罪する」「信頼のおける技術パートナーとなり、中国との共同開発を加速する」などと恭順の意を示した。20年に同社の売上高の26%が中国本土と香港に依存しており、この傾向は多くの米企業にとって同様だ。インテルの「謝罪」は米経済界の中国依存を象徴する出来事と言える。

◆中国有力企業は香港上場ブーム、米証券界は収益源失う

こうした中、中国企業の米国市場における新規株式公開(IPO)が急減速。米中対立が中国企業の米国におけるIPOに影響したためで、ニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック市場の収益を脅かしている。機密情報の取り扱いを巡り米中双方が非難の応酬を繰り広げ、中国政府が大規模民間企業に対し締め付けを強化していることも背景になっている。

米中双方の規制当局の介入リスクを懸念し、最近中国保険大手・FWDグループ(富衛集団)が米国上場計画を撤回。中国の配車アプリ最大手・滴滴出行(ディディ)はニューヨーク証券取引所での上場廃止を12月に発表した。2021年に実施されたIPOの中で有数の規模となった上場からわずか5カ月での廃止である。

米国市場で他の国企業で中国企業の穴を埋めることは難しい。米証取が他の国の有力候補の呼び込みに躍起になっているが困難視されている。企業価値が200億ドルに上るインドネシアの宅配企業J&Tは香港市場での上場を準備中とされるなど、香港上場を計画する企業が相次いでいる。

香港証券取引所

◆経産相「海外市場における日本ビジネスを全面支援」

米国以上に対中依存が高いのが、低成長が続き対外貿易に依拠する日本である。20年11月10日、経団連や安全保障貿易情報センター(CISTEC)など10団体が「中国及び米国の域外適用規制について」の要請書を経済産業省に提出。20年12月1日施行の中国輸出管理法や関係法令の懸念点(法規の域外適用、産業政策的の実施、報復措置等)のほか、従来からファーウェイなど向けに実施されている米国の再輸出規制の懸念点について触れ、政府ベースでの対応を要請した。

20年12月、梶山経産相(当時)は産業界に対して経産省としての3点の考えを表明した。(1)企業各社は海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをして頂きたい(2)他国企業と同等の競争条件を確保することが重要であり、過度に萎縮する必要は全くない(3)仮にサプライチェーンの分断が不当に求められるようなことがあれば、経産省は前面に立って支援をしていきたい―などである。経済安全保障に名を借りた企業活動制限の動きをけん制したと受け止められている。

最近になって、岸田首相は対中関係で「したたかな外交を行う」との言辞を繰り返しているが、米国バイデン政権が「米経済界に根強くある、国益を優先し攻撃一辺倒でない、したたかな外交をすべきだとの声に押されて(米経済界に配慮した)ダブルスタンダード(二重基準)政策を展開していることに触発されたため」(外務省筋)とみられている。経団連幹部によると、米政権は、日本など同盟国に経済安全保障など厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認しているという。

中国トップの超高層ビルから上海の街並を眺める

中国の経済パワーは日米だけでなく欧州、アジア、アフリカ、中南米にも及んでいる。日米の一部政治家による表向き威勢の良い攻撃的な言説が目立つが、その裏で着々と進行する「不都合な真実」を注視すべきである。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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