2022年の中国経済は「見える手」と「見えない手」の結合で浮揚なるか

吉田陽介    2022年1月5日(水) 22時40分

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中国の公式メディアは通年で8%成長になると報じているが、不動産大手の恒大グループの債務問題、コロナ後の世界的物価高の影響を受け、今年も経済の下押し要因が少なからず存在する。写真は広州。

2021年の中国経済は、最初は好調だったが、その後減速した。1〜3月は前年同期比13.8%、4〜6月は7.9%、7〜9月は4.9%だった。中国の公式メディアは通年で8%成長になると報じているが、不動産大手の恒大グループの債務問題、コロナ後の世界的物価高の影響を受け、今年も経済の下押し要因が少なからず存在する。

■中国経済を取り巻く厳しい環境

2022年の中国の経済運営はどうなるかを知る上で重要なのは、2021年12月に開かれた中央経済工作会議だ。「安定」を基調とし、安定成長路線をとり続けることを主張した。

人民日報など公式メディアに発表された報道文は2022年に向けての取り組みについて、「引き続き『六つの安定(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させること)』、『六つの保障(雇用、基本的民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障すること)』に関する活動、特に雇用・民生・市場主体の保障にしっかりと取り組み、経済の動きを合理的な幅に保つことを中心に据えて、マクロコントロールを強化・改善し、マクロ政策の周期をまたぐ調節力を強化し、マクロコントロールの先見性・的確性を高める」と述べた。

ここでは「雇用・民生・市場主体の保障にしっかりと取り組む」と書いてあるが、コロナで影響を受けた人々や中小企業の保障は優先度が高いことを示している。特に、「雇用」は「民生の基本」と位置づけており、社会の安定もつながることから、今後中国政府は雇用に力を入れるだろう。

ただ、その取り組みは一定の経済成長が必要だが、中国を取り巻く環境が厳しいことは、中国政府もわかっており、直面する困難を「三重の圧力」と表現している。それは、「需要の収縮、供給ショック、市場期待の低下」だ。

需要の収縮は内需・外需が同時進行的に回復しなかったことが主な要因と言われているが、これまで中国経済の発展を支えてきた不動産やインフラ投資の減少も一因だ。2021年10月時点で、国内のインフラ投資と不動産投資の単月の前年比伸び率はマイナス5%近くまで落ち込んだ。

「供給ショック」はコロナ禍による生産停止で、サプライチェーンが大きな影響を受けたことであり、「市場期待の低下」は再流行による移動制限などによって、市場マインドが低下することにより、経済成長の「エンジン」の一つである消費にも影響を及ぼしている。

■経済減速は「厳しいマクロ政策」が原因?

中銀国際証券会社チーフエコノミストの徐高氏は12月12日に、中国版ライン「微信(WeChat)」で発表した記事で、こうした文言の変化は、経済工作会議が今年の厳しすぎるマクロ政策の修正を示していると指摘する。2020年の経済工作会議の報道発表文に「主な任務」として記されていた「独占禁止」、「不動産規制」、「ダブルカーボン(CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル)」政策について論じている部分が減少したことがその一例だ。

また同氏は、「厳しすぎるマクロ政策こそが今年の供給ショックの主な原因だった」と指摘する。今年の生産制限政策は経済成長を阻み、インフレを押し上げたとする。その根拠としては、今年の第3四半期の中国の国内総生産(GDP)成長率が4.9%まで低下する一方で、生産者価格指数(PPI)は今年10月に前年同期比13.5%まで上昇したことを挙げる。

中国は市場経済の役割を重視し、企業の自由な経済活動を強調する一方で、政府が指導的役割を果たすことも強調している。中国は改革開放以降、経済が過熱したり、成長が落ち込んだりした時、「マクロコントロール」によって調整してきた。例えば、90年代に中国はインフレに見舞われたが、政府の強力な措置によって沈静化し、2008年のリーマンショック後の経済危機では、4兆元の財政出動を行い、中国経済の大きな落ち込みを回避した。

ここで指摘された「政府の政策の偏り」は、政府のマクロコントロールの方向を転換する必要があることを示している。中国は旧式の生産能力を廃棄して、「環境にやさしい」社会づくりのニーズにマッチした生産体制を整える必要がある。

また、これまで、中国は公共投資による景気浮揚を行ってきたが、民需における発展に転換する必要がある。だが、改革を進めるのは、成長が犠牲となることもあり、一定の成長率を確保するために、再び景気浮揚のアクセルをふかすこともある。

■市場経済と「政府の手」でバランスのとれた成長を促進

中国の経済政策の特徴は「見えざる手」と「見える手」の結合、「バランスの維持」というものだ。

前述のように、中国はマクロコントロールで経済の過熱化、不況に対処する。中国政府が多くの「道具箱」を持っていると言うのはそのためだ。

中国の経済運営は毛沢東時代からバランス重視だ。改革開放は経済発展を推し進めるため、沿海地域を重点的に発展させたことにより、内陸部が立ち遅れたという「副反応」があった。そのため、改革開放は不均衡を前提とした政策だといわれがちだが、基本的構想は「最終的には共同富裕に至る」というものだ。

前出の徐高氏が主張するように、「国内政策の偏り」が経済の減速を招いたなら、今後は是正の方向に向かうだろう。

「安定」を基調とする2022年の経済活動について、中央経済工作会議は「安定を念頭に置き、安定しつつ前進を求め、各地域・各部門はマクロ経済を安定させる責任を担い、各方面は経済の安定にプラスとなる政策を積極的に打ち出し、政策の推進は適切に前に進まなければならない」と述べた。これは各レベルの政府が安定成長政策を進める責任を負い、政策の推進が先行しなければならないことを意味する。

今後の中国経済の発展で重要なのは、「共同富裕」、「重大リスクの防止・解消」、「CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」の問題の処理だろう。

第一に、共同富裕について述べる。周知のように、共同富裕は21年8月に再度強調された概念で、政府だけでなく、企業や慈善団体の寄付による「第三次分配」も重要だといわれた。

会議は「共同富裕の目標を実現するには、まず全国人民の共同奮闘によって『パイ』を大きくし、それから合理的な制度配置を通じて『パイ』を切り分けなければならない」と述べ、さらに「これは長期にわたる歴史的過程だ」と述べた。

共同富裕の目標を追求するなかで、当然のことながら、「パイ」を大きくする必要があり、「切り分ける」ことのみを論じるのでは不十分だ。後者のみを強調すると、「金持ちを殺して貧しい人を救う」ということになる。富裕層から富を奪って、貧困層に配るのは、短期的に効果が出るが、中間層を拡大してみなが豊かに感じられるような社会をつくるのは難しい。

第二に、重大リスクの防止・解消について述べる。会議は「引き続き大局の安定、統一的な計画・調整、分類施策、精確な処理の方針に基づいて、リスク処理作業をしっかりと行う」こと、そして「リスクの解消には十分な資源を持ち、リスクの解消に向けた政策を研究・策定し、幅広く協力し、金融リスクの処理の仕組みを十全化しなければならない」と述べた。中国経済を取り巻く環境は決して楽観材料だけでなく、リスク要因も少なくない。数年前から、中国は最悪な状況を想定した「ボトムライン思考」で事に当たるよう強調しており、リスクに対しても慎重かつ的確に処理する姿勢は変わらないだろう。

第三に、炭素ピークカーボンニュートラルについて述べる。会議は「一挙に成し遂げることはできない」と明確に述べ、「伝統的なエネルギーの逐次的退出は新エネルギーの安全で信頼できる代替基礎の上に成り立つ」とも述べた。

2021年後半に陥った電力不足は、環境保護を目標に掲げる中央政府に、各部門が忖度したように言われるが、その見方は一面的だ。周知のように、中国はこれまでも環境保護への取り組みを強化することを主張してきたが、「責任ある大国」としての姿勢を示す中国は国際的にも排出削減目標の達成を強調しており、政治的要因によって資源節約型への移行が加速したともいえる。

また、中国は新エネルギー車の普及にも力を入れているなど、「環境に優しい社会」づくりを加速している。

このことから、電力不足はエネルギーの消費構造の転換期における「副反応」の一つといえる。これまで中国は資源多消費型の生産が主だったが、これからは省エネ型に本格的に移行するだろう。現在はその過渡期といえる。

以上の問題は、今後の経済運営にとって重要な意味を持っている。現在、中国経済は減速気味であるため、今年は「緩和」の方向に向かうだろう。ただ、中国政府は「バラマキ策」をとらないと公言しており、財政赤字の対GDP比が3%台でおさまるような緩和策をとるだろう。

中国は「ターゲット」を決めた対策をとっており、「見えない手」にすべてを任せるのではなく、政府の「見える手」で必要な対策をピンポイントで行っている。コロナ禍で影響を受けた中小企業への支援などがその例だ。今年も、雇用はもちろんのこと、新エネルギー車の普及や消費の拡大に資する政策などをとるだろう。

前述のように「共同富裕」を実現するには「パイ」の拡大が必要で、5~6%の成長は維持しなければならない。中国政府は市場競争を活性化しつつ、「見える手」で、「分配」「グリーン発展」などに資する政策を今後も打ち出していくだろう。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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