山崎真二 2022年1月30日(日) 8時0分
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中国が北朝鮮の選手団を受け入れれば開会式に金与正氏が代表として出席し、文大統領と会う場面が再現され、南北関係改善の急進展が可能になるというシナリオが一時ささやかれた。写真は北朝鮮。
昨年秋から伝えられていた韓国と北朝鮮の“雪解け”ムードは進展せず、当分、南北関係の停滞は不可避のようだ。
◆一時は北朝鮮も「終戦宣言」提案に肯定的
韓国メディアなどの間で南北関係改善への動きが取り沙汰されたのは昨年秋以降。昨年10月に韓国と北朝鮮の南北通信線を利用した連絡が再開されてからだ。
北朝鮮は一昨年、南北共同連絡事務所の連絡チャンネルや軍当局間の通信線を一方的に遮断した。その後、紆余曲折はあったものの、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記が昨年9月末の最高人民会議で断絶状態の通信線の復旧方針を示唆、その予告通り再開となった。
これについて当時、韓国は「朝鮮半島情勢の安定と南北関係復元のための土台が整えられた」(同国統一省)と評価するなど、冷却化していた南北関係好転への期待を膨らませたのも事実。実は、南北関係改善の兆しは通信線復旧前の双方のやり取りから予想されていた。
それは、金正恩総書記の妹、金与正党副部長が、昨年9月に韓国の文在寅大統領によって新たに提案された朝鮮戦争の「終戦宣言」に関し肯定的な発言をしていたためだ。同提案に対し金与正副部長は「興味ある提案であり、良い発想だ」と述べ、これまでの韓国罵倒姿勢を一転させる発言を行った。さらに金副部長は、自らが破壊を指示した南北共同事務所の再設置や南北首脳会談の可能性にも触れるなど、対韓関係に前向きと受け取れる発言を繰り返していた。
◆平昌冬季五輪のシナリオ再現狙った文大統領
南北関係好転説に拍車をかけたのが、文在寅大統領の動向に関する情報だ。2月に北京で開催される冬季五輪に向け積極的な外交を展開する動きを示しているとの報道が伝えられた。2018年の平昌冬季五輪のように、北京五輪開会式をきっかけとした南北和解を進めようと、文大統領が画策しているという見方である。
平昌冬季五輪の際には文政権が金与正氏の訪韓を実現させ、その後南北・米朝首脳会談へと進展させたことはまだ、記憶に新しい。
国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪への不参加を理由に北朝鮮の資格停止処分を決めたため、北朝鮮が国として北京五輪に参加するのは難しい状況にあったのは確か。それでも、文大統領はIOCに対し処分の撤回を求める方策を検討したほか、それができない場合には北朝鮮の選手を個人の資格で参加させることを中国に強く働きかける意向だとの情報が流れた。
中国が北朝鮮の選手団を受け入れれば開会式に再び金与正氏が代表として出席し、文大統領と会う場面が再現され、南北関係改善の急進展が可能になるというシナリオがささやかれた。だが、今年1月7日、北朝鮮が中国当局に対し、新型コロナウイルスの流行などを理由に正式に不参加を表明したことでこのシナリオは立ち消えとなった。
◆再び軍事強硬姿勢の北朝鮮
一方、北朝鮮も北京五輪不参加表明とタイミングを合わせるかのように軍事的威嚇を強める動きを示しており、南北関係好転の兆しは消えてしまった格好だ。北朝鮮は1月5日の「極超音速ミサイル」の発射実験以来、本稿執筆の現時点までに計6回ミサイルを発射した。
同19日に開催された朝鮮労働党の中央委員会政治局会議では、2018年4月から凍結していた核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射の再開が示唆されるなど軍事強硬姿勢が前面に打ち出されている。これはバイデン政権へのけん制が主な狙いとみられるが、「韓国との関係でも柔軟に対応する様子は全く見られない」(駐ソウル外交筋)との見方が有力。ソウルでは「北朝鮮は南北関係に関しては3月9日の韓国大統領選の結果が出るまでは様子見だろう」(韓国の複数の有力紙記者)との声が多く聞かれる。
また、北朝鮮は2月16日に金正恩総書記の父、故金正日氏の生誕80周年、4月15日に同書記の祖父、故金日成主席の生誕110周年という大イベントを控えており、これに合わせ軍事的成果を示す行動に出る可能性も指摘されている。ここしばらく、南北関係の進展はないとみるべきだろう。
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
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