田村彰 2022年2月8日(火) 5時0分
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金融業務ほどにIT活用が有用とみられる業界はさほどないようにみられるが、ITを抜本的に活用していくとの意識は乏しく、いつまでも従来型の発想しか持てなかったように窺われることはいかにも残念である。
1989年(平成元年)の世界企業の時価総額ランキングをみると、上位20社のうち14社を日本の企業が占め、都市銀行・長信銀行のうち5行がベスト10入りするなどわが国企業がわが世の春を謳歌していた。しかしながら、トップ20企業はこの30年で大きく入れ替わり、トップ10には30年前には姿も形もなかった企業が名を連ねている。
アマゾンなど2000年前後に設立された企業、IT系企業が幅を利かせるようになった。ちなみに、2021年(令和3年)12月末現在の上位7社はアップル(米)、マイクロソフト(米)、アルファベット(米)、サウジアラムコ(サウジ)、アマゾン(米)、テスラ(米)、メタ(フェースブックが改称、米)で、10位に台湾のTSMC、11位に中国のテンセント、15位に韓国のサムスンが入っており、わが国ではトップのトヨタ自動車でも43位である。邦銀は昔日の輝きを失い、見る影もない。
◆銀行店舗やATMを経由しない個人金融サービス拡大
この間における金融ビジネス面の変化をみると、元来金融を主業とはしていなかった企業を含めてのデジタル、クラウド技術を活用してのグローバルな金融サービスの提供やビッグデータを活用したAI技術を活かしてのスマホやPCを通じる個人サービスの展開が目覚ましく発展している。今や銀行店舗やATMを経由せずに個人金融サービスが大々的に提供される時代になっており、その担い手としては、商流、物流を主業とするアマゾン、テンセント、アリババ(中国)、ゴジェック(インドネシア)などが優位に立ってきている。
わが国金融機関がこうした変化に大きく立ち遅れてしまった感があるのは否めない。その大きな原因がITマインドの乏しさであることは否めまい。ITを活用し、銀行が有する豊富な顧客データを活用し、広範に業務を展開していくというマインドが不足していたのである。かつての護送船団方式の下での居心地のよさに安住してきたのに加え、急速なAI技術進歩下での新たなビジネススタイル、ビジネスチャンスの発掘についての感度の低さが致命的に響いたといえよう。
◆IT人材の割合は欧米金融機関の1割程度
ちなみに、わが国金融機関におけるIT人材の割合は欧米金融機関の1割程度に過ぎないといわれ、IT感度の鈍さが表われている。また、三菱UFJ銀行を例外として、頭取など経営トップにシステム部長経験者などITに通じた人物が付くこともない。銀行経営・運営全般にITオリエンテッドな発想が行きわたらないのも必然と言えよう。
こうした一方で、金融機関の監督官庁や周辺官庁側の過度の権限意識、縄張り意識の強さが裏目に出たことも間違いあるまい。わが国金融機関がまだ強大であった時期に従来の金融業務を超えた業務分野への進出を認めるとの姿勢があったならば、その後の様相は違ったものになっていた可能性があろう。
しかしながら、所管官庁も金融周辺分野を所管する他官庁の縄張り意識からくる抵抗を忖度しすぎたのか、あるいは自らの権限にしがみつき続けすぎたのかのように窺われる。金融機関ばかりでなく、官庁側も萌芽期の頃からITやデータの活用の重要性に敏感でなかったのではないだろうか。金融業務ほどにIT活用が有用とみられる業界はさほどないようにみられるが、ITを抜本的に活用していくとの意識は乏しく、いつまでも従来型の発想しか持てなかったように窺われることはいかにも残念である。
でも、まだ取り返しができる。官庁間でもデジタル庁が発足してまたもや周辺官庁との縄張り争いを激化しているようにみられるが、このような従来からの権限意識丸出しの姿勢は反省してもらいたい。中国、韓国はもとより、アイスランドやエストニア(ほか北欧諸国)のような小国や後進国でもIT立国面での成果を大きく挙げているのを参考にして、官民一致して真のデジタル立国を図るように努めてほしいものである。
■筆者プロフィール:田村彰
東京大法学部卒、元日本銀行システム情報局長、元綜合警備保障(株)(ALSOK)代表取締役専務執行役員、現加賀電子(株)社外取締役等。
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