中国のEV車販売台数、日本自動車市場全体を上回る?トヨタ、ホンダは決戦に間に合うか

高野悠介    2022年3月7日(月) 7時30分

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中国では新エネルギー車、自動運転システム、自動車生産がそれぞれ分立している。写真は比亜迪の漢。

日本では、自動車産業とはトヨタホンダ日産など大メーカーが開発、生産、販売を一貫して行う。電気自動車(以下EV車)や自動運転技術も自社開発だ。中国の様相は全く違い、新エネルギー車(ほとんどEV車)、自動運転システム、自動車生産がそれぞれ分立している。その分、参入障壁が低く、乱戦になりやすい。中国のEV車業界を展望してみよう。

■EV車の世界販売台数…2倍に急拡大

2021年、世界のEV車販売は649万5300台、前年比108%増と2倍以上に拡大、シェアも9%に達した。そのうち中国は320万台で、世界のほぼ半分を占める。世界販売トップ10は下記のとおり。

1~5位

テスラ93万6172台

比亜迪BYD)59万3878台

上汽通用五菱45万6123台

フォルクスワーゲン31万9735台

BMW27万6037台

6~10位

メルセデス22万8144台

上海汽車22万6963台

ボルボ18万9115台

アウディ17万1371台

現代15万9343台

さらに11位以下には「造車新勢力」と呼ばれる新興4社がランクインしている。

小鵬汽車9万8155台

蔚来汽車9万1429台

理想汽車9万491台

哪吒汽車6万9674台

中国系は、ボルボ(吉利系)を含めると上位20社中8社に上る。トップのテスラも約半分は上海工場の生産だ。

■国有企業…外資合弁により発展

中国自動車業界は、国有企業と外資によって発展した。研究開発、設計を外資に任せ、資本効率を高め大もうけした。フォックスコンなどの受託生産企業に近い。ただし外資比率は49%までにとどめ、経営権は確保した。例えば、第一汽車(1953年設立)は、フォルクスワーゲン合弁「一汽大衆」、トヨタ合弁「一汽豊田」などがある。広州汽車(1997年設立)は、トヨタ合弁「広汽豊田」、ホンダ合弁「広汽本田」、三菱合弁「広汽三菱」と、見境いもなく日本3社と合弁している。

中国最大の自動車メーカー、上海汽車(1987年設立)は、フォルクスワーゲン合弁「上汽大衆」、GM合弁「上海通用」「上海通用五菱」などを持つ。中でも中国最初の合弁企業「上海大衆」は自動車産業の象徴だ。同社生産のフォルクスワーゲン・サンタナは、20世紀の中国市場を完全に支配していた。EV車は、上海通用五菱で小型商用車、本体で乗用車を手がけ、2つ併せれば、テスラに肉薄する。

■民営企業…吉利と比亜迪(BYD)

民営企業の代表は、吉利と比亜迪(BYD)である。

吉利…1986年設立、冷蔵庫の部品やオートバイからスタートし、1997年に自動車産業へ進出した。中国初の民営自動車企業である。2001年、国家認証を取得。2003年、初輸出に成功。2007年、ウクライナに対しセミ・ノックダウン方式の輸出開始。2009年、オーストラリアの自動変速機メーカーDSIを買収。2010年にボルボ、2013年にロンドンタクシーを買収。2017年、マレーシアのPROTON株49%取得。2019年、百度と自動運転で提携。他社のノウハウを取り込み、中国最大の民営自動車メーカーとなる。EV車はボルボが先行している。

比亜迪…1995年深セン市で設立。自動車、電車、新エネルギー、電子の4大産業の横断を掲げる。特に電池の自主開発に力を入れ、早くも2003年、世界2位の電池生産企業となる。同年、EV車部門の自主研究開発、自社生産、自主ブランド路線をスタート。乗用車、商用車、公共交通、倉庫、港湾、空港、鉱山などあらゆるシチュエーションを想定した商品開発を行った。それが功を奏し、2015~2017年のEV車売り上げ世界ナンバーワンを記録した。2019年、トヨタと提携。昨年、日本の京阪バスが電気バスを4台購入、京都市内路線に投入した。

吉利は買収、比亜迪は電池を中心に自主開発、それぞれ異なったアプローチで成長した。

■造車新勢力…小鵬汽車

新興企業からも1社取り上げたい。トップに立った小鵬汽車である。

小鵬汽車は2014年、広州で設立。翌年末までに、広州汽車、フォード、BMW、テスラなど自動車メーカー、アリババテンセントファーウェイなどIT巨頭から100人の人材を集めた。90%が技術系である。創業者の何小鵬氏は2004年にUC測覧器(ブラウザ、現在はアリババ系)を立ち上げた実績がある。2017年、広東省・肇慶市に工場建設。アリババ出資。2018年、39台のEVを納車、新興企業のトップを切る。2019年にシャオミ出資、2020年に配車アプリ・滴滴出行と合弁。2020年、ニューヨーク市場へ上場した。

このクラスの特徴は、IT巨頭が直接、間接に大きく関わっていることである。

■見通し500万台…決戦の予感

最近2021年の新エネルギー車の車種別売上が発表された。それによると、

1位 五菱宏光MINI 39万5400台 上海通用五菱

2位 比亜迪秦 18万7200台 比亜迪

3位 Model Y 16万9800台 テスラ

4位 Model 3 15万800台 テスラ

5位 比亜迪漢 11万7300台 比亜迪

宏光MINIは日本の軽自動車より一回り小さい2ドア車で50万円から買える。比亜迪秦はハイブリッドの中型セダン、比亜迪漢はスタイリッシュな2ドアクーペ。

テスラ上海(2018年設立)は、初の外資100%の自動車企業だ。テスラのために外資49%ルールを外した。中国のEV界は、外資(テスラ)、国有企業、民営企業、新興企業がバランスよく並ぶ。車種もフルラインである。さらに自動運転技術の開発、採用競争が重なり、市場は沸騰状態にある。

2022年の中国EV車見通しは500万台、42%増だ。これは2021年の日本市場全体(444万8300台)を上回る。2022年1月の売り上げは41万7000台、前年比136%増という驚異的なスタートを切った。今年はシェアが大きく変動する決戦の年となりそうだ。16車種を一気に発表したトヨタ、中国で独自のEV車開発を始めたホンダは、この戦いに間に合うだろうか。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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