中国のスマートシティ本格化へ、アリババとテンセントがけん引、日本の民間企業と力の差?

高野悠介    2022年4月3日(日) 15時0分

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デジタル時代に入り、中国のスマートシティが本格化している。写真は杭州市。

かつて中国に進出した日本企業は、役所に苦労させられた。登記や届け出、許可申請など、いつ終わるのかさっぱりわからない。ところが有力者の口添えで状況が一変する、ホンモノの人脈社会だった。それがデジタル時代に入り、劇的に変化している。スマートシティ化の進展だ。

野村総合研究所によれば、スマートシティとは「都市内に張り巡らせたセンサー・カメラ、スマートフォン等を通じて環境データ、設備稼働データ・消費者属性・行動データ等の様々なデータを収集・統合してAIで分析し、更に必要に応じて設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの」である。これが中国で本格的な展開を見せている。

■スマートシティ…国家AIプロジェクト

中国当局は、2014年、「スマートシティ健康発展促進指導意見」を公布、2016年にはデジタル社会建設の指針「国家情報化発展戦略綱要」が示された。翌2017年11月には、「国家4大AIプロジェクト」を発表。その第二プロジェクトが、アリババクラウドコンピューティング子会社、阿里雲のスマートシティ「城市大脳」だった。モデル都市は、アリババの本拠地、浙江省・杭州市。時間を置かず多都市展開すると伝えられた。

以後、主にPATH(平安、アリババ、テンセントファーウェイ)を中心、地方政府との提携合戦が繰り返されていく。以下、アリババとテンセントを見ていこう。

■阿里雲の城市大脳…CPUを設置

アリババは2年後の2019年、恒例の開発者大会「雲栖大会」で、城市大脳3年間の取組みを発表した。すでに、杭州から、北京、上海西安成都武漢シンガポールなど世界23都市に拡大。交通、城管(治安維持)、文化・旅行、衛生・健康など11分野48シーンで利用されている。さらに2020年4月、ホームタウン杭州市において、まるで宇宙艦隊司令部のような城市大脳指令部を公開した

その2020年、城市大脳は、新しい段階に達した。コアシステムがグレードアップされ、これは「都市にCPU(中央演算処理装置)が設置された」に等しいという。各部門は今後、元のデータ構造を変えることなく、独自のアプリケーションを設計し、アクセスすることが可能だ。コアシステムは、これらを調整する協調メカニズムとして働く。そして以下18の中心課題に取り組む。

1都市交通治理、2智慧旅游出行、3智慧交通運輸総合、4智慧停車総合、5智慧城管、6智慧応急総合、7産業大脳、8、企業誠信(信用)、9智慧監管、10智慧医療、11政務数据中台、12城市工業智能、13阿里雲AI畜牧養殖業、14城市治理社区、15智慧党建総合、16智慧環保解決方案、17社会治理総合、18デジタル計画総合

ついに党組織の建設(15)まで、AIが担う時代になった。

■テンセントのWe City…武漢で活躍

ライバルのテンセントも負けてはいない。2017年5月の段階で、すでに国内14省市、50都市とスマートシティの提携関係を結んでいた。

そして2019年、「We City未来城市」の理念を発表した。これは、テンセントのスマートシティのブランド名とそのソリューションである。同社の持つ、技術プラットフォーム、5G、ビッグデータ、IOT、人工智能等の能力を整合、新しいデジタル基盤を構築し、行政サービス、協同、監督管理、政策決定、治安、産業のグレードアップ、刷新を図る。「We City未来城市」の第一歩は、湖南省・長沙市「長沙城市超級大脳1.0」との戦略提携である。同大脳は2021年までに、AI中枢能力187項目、行政情報356システム、137億の市政ビッグデータを集約、スマートシティ運営の基礎が整備された。

2020年の新型肺炎による武漢市封鎖時には、防疫の指揮をとる国民的英雄・鐘南山氏のチームと提携、ビッグデータ、人工智能の連合実験室を開設、制圧の最前線で活躍した。その貢献をバネに、武漢市のスマートシティ推進に参画。デジタル行政、スマート教育、スマート交通、AI、セキュリティの5分野で連携した。また湖北省政府のスマートシティ計画にも食い込んだ。

■日中の差…民間企業に力の差

平安、ファーウェイも本拠地の広東省を中心に活動している。中国のスマートシティが普段階入りしたのは、こうした民間IT企業の力が大きい。例えばアリババ、テンセントは2020年3月の武漢閉鎖後、たった2~3週間で、接触者追跡の健康コードアプリを開発、社会実装を果たしている。一方日本は接種証明アプリも、接触者警告アプリも何だかうやむやになり定着しなかった。

日本ではデジタル庁はできたものの、スマートシティは、まだ地方都市の行政改革にとどまる。日中最大の違いは、日本にはPATHのような有力企業がないことだ。中小ベンチャーの提案はあっても、将来の汎用性や互換性には不安が残る。地方都市では、判断がつかない。

「城市大脳」や「We City未来都市」と提携すれば手っ取り早い。しかしメインシステムとするには抵抗がある。ただし、情報収集や、テーマごとの協力なら可能だろう。まず各分野のソリューション提案から見てみたい。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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