北方領土を返せ、と「駐日ソ連大使館」前―「シンゾーの配慮」から「不法占拠」に戻した岸田政権

アジアの窓    2022年3月28日(月) 6時30分

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時期としては1964年東京五輪から1968年プラハの春の間の出来事だったと思われます。写真はクレムリン。

これが右翼団体による東京狸穴の「ソ連大使館」前での街宣活動であるならば、たとえあったとしても当たり前すぎてここで取り上げる必要もないのですが、実はメーデーの行進が大使館前に差しかかった時に、ある職場グループの女性が叫んだのでした。「北方領土を返せ」

時期としては1964年東京五輪から1968年プラハの春の間の出来事だったと思われます。ご存知のようにメーデーというのは働く者の祭典。働くものの総元締めが、「ソ連」と思われていた時代もあったようで、メーデーの行進が狸穴の「ソ連大使館」に向かうということはあくまでも友好、親善、連帯を確認し合うセレモニーという位置付けだと思われます。

ということは相手の嫌がることはやらない言わないという暗黙の了解が成立しているはずなのでした。

この女性は毎日新聞出版局エコノミスト編集部に所属する経理の女性で、ごく普通の中年のおねえさまおばさまであり、 右も左もあったもんじゃありません。メーデーだって労働者の権利が連帯がどうしたこうしたというよりもさそわれるままに合法的に職場を離れることができる日ぐらいの意識です。

実はこの話、この行進に参加した、学生時代は1960年安保闘争も体験している男性の編集部員から 聞いたものです。60年安保に 参加しているぐらいですからメーデーの行進が狸穴「ソ連大使館」前ではどういう振り付けで臨まなければならないのかについてはよく承知しているかたでしたので、これにはかなりビックリしはっきり記憶に残り、その後はるか後輩である私に、とっておきの話として伝えてくれたものでした。

多分、狸穴「ソ連大使館」員ないしは「ソ連大使」は何という聞き分けのいい日本人労働者たちだろう、言っていいことと悪いことを自主的にわきまえている、お行儀がいい。オーチンハラショー!これが想定されたお約束の展開ですよね。

その女性が退職した後、お話する機会がありまして、メーデーの時にソ連大使館の前で北方領土を返せと大声で叫んだって伝えられてますけど、本当ですか。その頃はもうおばあさまでしたけど、若き血が戻ってきたかのように、「言ったわよ、だっておかしいじゃないの。言うことはきちんと言わないとね」

その時のお姉さまの叫び声が後続の行進に伝わって次から次へと北方領土を返せの連呼が「ソ連大使館」を包み込むということが起きたとなれば、当時、当然新聞かなんかに出ていたんではないかと思われるのですが、そうはなりませんでした。

最近でもこの現象はみられましたよね。ウラジミールとシンゾーがカケアイをはじめて。2019年2月7日の「北方領土の日」。北海道根室市での大会は、「返せ北方領土」「北方領土は日本の領土」の文句は消え「領土問題を解決しよう」となったとマスコミには出てましたよね。ウラジミールのご機嫌を損ねないようというシンゾーの配慮だったんでしょうか。

岸田文雄首相がこのたび、北方領土は「不法占拠」されていると、「不法占拠」を復活させたと報じられましたね。産経新聞(2022.3.22電子版)によると、政府は1952年に「不法占拠」を初めて使ったが、2009年麻生太郎首相が「不法占拠」と言って以来、次の民主党政権はその表現を使わず「法的根拠のない占拠」と改められ、政権交代の安倍第2次内閣は民主党を踏襲してきたとのことです。悪夢の民主党ではあるが、ウラジミールを不法占拠者呼ばわりしなかったところ大変優れていた、私もそれに習ったと、シンゾーがきちんと自己分析し説明していたならば、私もシンゾーを見直していたんですけどもね。

ロシアが北方領土交渉中断と言ってきたそうですが、 西方面が忙しければ東方面にそうかまってはいられないでしょう。

今でもメーデーの行進は「ロシア大使館」に行くのでしょうか。もし行くとするならば労働者同士の友好と連帯はその通りですが、当然「ウクライナから手を引け」「北方領土を返せ」と、きちんと言う事は言うようにしたいものです。今から半世紀前に、勇気あるおばさまが、やっていたんですから。

■著者プロフィール:高谷尚志「アジアの窓」編集委員

1946年中国・大連生まれ。早稲田大理工学部工業経営学科卒。毎日新聞入社、静岡支局、経済部記者、「週刊エコノミスト」編集長などを歴任。2004年千葉科学大学危機管理学部危機管理システム学科教授。2015年4月よりフリー。

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