山本勝 2022年4月26日(火) 8時20分
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日本外航商船隊に乗り組む船員の96%が外国人である。海上輸送に頼らざるを得ないわが国の安全保障の観点から、ナショナルミニマムとしての日本人船員論もある。
わが国の外航海運日本人船員は2200人規模に減少している。厳しい国際競争を生き抜くなかで見出した企業ミニマムともいえる人材で、役割もかつてと大きく様変わりしている。海上輸送に頼らざるを得ないわが国の安全保障の観点から、ナショナルミニマムとしての日本人船員論もある。いずれにしても、平和の海を確保することが最大の国益にかなう。
わが国で船員という職業に就く日本人の数は約64000人だ。その内訳は、外航船員が2200人、内航船員が28600人、漁船員が16900人、その他(タグボート、はしけ、官公庁船)船員が16400人である。(いずれも2020年現在国交省統計による)
貨物、人の輸送にあたる外航、内航部門の船員数は、ほぼピーク時の1974年と比べると、外航船員は96%、内航船員は60%減少している。内航船の船員減少の原因は、貨物輸送量が漸減するなかで進められた船舶の大型化による隻数の減少と、ハイテク技術導入による船の省力化によるものだ。
◆内航海運、海外からの事業参入制限
外航海運の船員の大幅減少は、まったく様相が異なる。内航海運は国の経済安全保障の観点から海外からの事業参入が厳しく制限され、船は日の丸を掲げ、日本人船員の乗船が義務付けられるが、外航海運は日本籍船であっても、条件を満たせば外国人の乗船が可能になる制度がある。また船を海外に置籍するか、外国船を用船して、日本の関係法令の適用を受けない形で実質支配下に置くことにより、当該国の法令の範囲内で、外国人を選択的に起用することができるからだ。
外航海運の世界は、そもそも激しい国際競争のもとで事業が行なわれ、国際間の競争条件をできるだけ同じにすべく、事業者、国、国際機関・組織で調整と対応がなされてきた歴史がある。
内航海運の海外企業参入制限は,カボタージュとよばれ、ほとんどの国が同様のルールを定めており、外航海運のありようも良し悪しにかかわらず、いまやグローバルスタンダードとしてこうしたルールで事業がおこなわれているのが現実だ。そして結果として、日本外航商船隊に乗り組む船員の96%が外国人に置き換わったのだ。
内航海運の日本人船員は、若者の海離れもあって近年不足が深刻化したが、最近は新人の採用も増加傾向にあり、依然高齢化の問題はあるものの、供給はなんとか確保できる状況にある。
◆日本人船員費高騰が外国人船員急増に
外航海運の外国人船員への転換の最大の転機は、1985年のプラザ合意により大幅な円高が進行し、ドルベースでみた日本人船員費が高騰したことにあるが、以来40年近く経た現在、2200人規模となった外航日本人船員をどうとらえるべきか、いくつかの見方と議論がある。
日本の外航商船隊は、世界全体のほぼ1割の輸送を担う規模にあることはすでにこのコラムで取りあげた。これに乗り組む約56000人の船員の3.5%に過ぎない日本人船員の役割は、今やいわゆる船員から海事技術者(海技者とも呼ぶ)に転換している。すなわち、運航船全体の安全管理者であり、乗り組む外国人船員の教育・訓練の指導者であり、環境対策やあらたな運航技術開発にかかわる専門技術者、さらには顧客から貨物を獲得するためのセールスエンジニアであるのが彼らの役割なのだ。もちろん乗組員として超大型船やエネルギー運搬船といったハイリスク船を任されるケースもあるが、かれらが乗船する目的の多くは、こうした海事技術者としてベースとなる現場の知識と技術そして経験を蓄えるためとなる。
確かに船員数は激減したものの、2005年以来、2200人規模を維持し、最近では若干ながら増加の傾向もみられる。これが私企業としての海運会社がきびしい国際競争を生き抜くなかで見出した一種の企業ミニマムともいえる日本人船員の数なのだ。
こうした高度の技術者、管理者としての人材確保のため、伝統的な商船系教育機関だけでなく、一般大学卒業生を企業の負担で海技免除を取得、船員(海技者)に育て上げる動きもすでに始まっており、外航海運に限っては、船員という職業についての従来の見方は大きく変える必要がありそうだ。
◆「平和の海」確保が最大の国益に
一方、輸出入貨物のほとんどを海上輸送に頼らざるを得ないわが国にあって、生命線ともいえる外航商船隊の船員が、ほとんど外国人船員に占められる現状を国の安全保障の面から憂える議論もある。いわゆる外航海運船員のナショナルミニマム論である。
これはこれまでも政府レベルで検討されたことがあり、国民生活に最低限必要な物資の輸送船隊規模を想定し、すべて日本人で運航することを前提に割り出された5500人を外航日本人船員としてミニマム確保すべしというもの。先の湾岸戦争で、日本商船隊に乗り組む外国人船員の危険海域就航拒否があった経験や、昨今の有事の際のシーレーン確保の議論もあり、ナショナルミニマム論はこんごも議論と展開が予想される。
いずれにせよ、わが国の外航海運が外国人船員に頼らざるをえない現状を踏まえれば、国際間の紛争を外交努力によって解決し、平和な海を確保することが、わが国の最大の国益にかなうということを肝に銘ずべし、である。
■筆者プロフィール:山本勝
1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。
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