高野悠介 2022年5月7日(土) 8時50分
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配車アプリ最大手「滴滴出行」の赤字額が日本円で1兆円近くにも膨らんだ。日本で展開しているDiDi Foodのサービスが5月末で終了することも発表された。
2021年、配車アプリ(ライドシェア)最大手「滴滴出行」の赤字額が、日本円で1兆円近くにも膨らんだ。MaaS(Mobility as a Service)を推進する代表企業だが、この1年はかつてない激動の連続に見舞われた。その近未来について見通してみよう。
■日本事業…トヨタと提携
まず日本との関わりである。滴滴出行(以下DiDi)にはソフトバンクが出資している。2018年1月、DiDiはトヨタの自動運転車「e-Palette」で提携関係を結んだ。同年5月、中国のトヨタ販売店がライドシェア車両の貸出しを開始した。11月、ソフトバンクとトヨタが戦略提携を結ぶと、トヨタとDiDiの提携もアップグレードしていく。翌2019年には、中国の生産会社「広汽豊田」とDiDiで作る自動運転合弁会社に6億ドルを出資した。DiDiへの出資について、中国メディアはソフトバンクの差し金と推測している。
また、日本法人DiDiモビリティジャパンを設立し、2019年4月に東京と京都からタクシー配車アプリの運用を始めた。さらに2020年5月には、フードデリバリーのDiDi Foodをスタートした。しかし2022年4月、そのDiDi Foodのサービスを2022年5月末をもって中止すると発表した。2年の命だった。
配車アプリも厳しい。DiDiアプリを中国から日本と、訪日客にシームレスで利用してもらう試みは、コロナ禍により絶たれた。中国人観光客で溢れていた京都では、その不在のすきを突いたDeNA系Mobility Technologies社の「GO」アプリが市場をほぼ固めた。
■DiDi…創業者はアリババ出身
次にDiDiの歴史をたどってみよう。創業者の程維氏は1983年、広西省生まれ。北京化工大学卒業。アリババに入社し、B2B部門のエリア運営管理と支付宝(Alipay)B2C業務を体験した。アリババには8年在籍し辞職。2012年6月、29歳の時に「滴滴出行」を創業した。アリババの成功を当事者として体験した。DiDiにはそのDNAが組み込まれていると言ってよい。
2012年8月、程氏は最初に協力してくれたタクシー会社のドライバー100人を前に、配車アプリの構想を語った。しかしこの時、スマホを所持していたドライバーは20人だけだった。翌9月、「滴滴打車」アプリは500台のタクシードライバーに装備され、スタートを切った。ところが、実際に正しく稼働したのは16台に過ぎなかった。しかし、ここからあっという間に世界的配車アプリに成長していく。それは目もくらむスピードだった。現在では1300万人のドライバーを抱えている。
2014年7月、もう1人の看板スター、現総裁の柳青氏が入社した。中国を代表する財界人、レノボの創業者・柳傳志氏の娘で、「富二代」にふさわしい華やかな経歴だ。1978年生まれ、2000年に北京大学計算機系を卒業、ハーバード大学研究生となる。同大で修士を取得後、ゴールドマンサックスに入社。2008年、同社アジア・太平洋地区の執行役員に昇進した。その6年後、最高執行責任者(COO)としてDiDiに入社した。2016年8月、強力なライバルになりそうだった優歩中国(Uber China)の買収工作にその能力を発揮した。
■収益構造…赤字体質続く
収益構造を見ていこう。2021年の売り上げは前年比22.7%増の1738億2700万元(約3兆3600億円)だった。さまざまな逆風の下、健闘しているといってよい。しかし、赤字額は前年比376.2%増の500億元近くに上った。DiDiはもともと赤字体質で、2020年までの累計損失は1000億元に達するという。それにしても昨年の赤字は突出している。以下は3つの事業分野データだ。(売り上げ/構成比)
1.配車アプリ業務 1605億2000万元 92.36%
2.国際業務 36億2000万元 2.08%
3.その他業務 96億8000万元 5.56%
DiDiの国際業務は売り上げ全体の2%に過ぎず、DiDiモビリティジャパンがいくら赤字を計上しても取るに足りない。赤字の根源はどこにあるのだろうか。
■ナスダック上場…上場益を得られず
2021年6月30日、DiDiは米国ナスダック市場へ上場した。すると2日後、国家網絡安全審査辯公室が、DiDiのデータセキュリティーに問題があると指摘。さらに7月4日、DiDiアプリの新規ダウンロード禁止処分を受けた。DiDi傘下のアプリも同様である。そして強力な監査を受けた。12月には、ナスダック市場からの上場廃止、香港市場へ上場代えが報道された。実際にこの件は2022年5月末に株主総会で決議されるという。この間、上場初日に18ドルを付けた株価は、だだ下がりを続け、現在は2ドル近辺に低迷している。株式インセンティブなどの株式管理費が急増し、上場益どころではなく、想定外の赤字が発生した。
しかし最大の赤字源は、その他業務である。社区団購の「橙心優先」への投資損失は206億元が確認されている。業界全体が過当競争に陥った結果、橙心優先は大惨敗を喫した。また、シェアサイクルの「青桔単車」も少なからぬ赤字を出した。
こんな状況にもかかわらず、研究開発投資に前年比49%増の94億1500万元も投入している。これも赤字要因だ。
■豊富なキャッシュ…問題は解決可能
DiDiが大丈夫かどうかについて、あるメディアは問題なしと結論付けている。株式に関わる損失、投資失敗に係る損失は一時的なものだ。DiDiには日々1300万のドライバーから20%以上の手数料が入る。そのためキャッシュフローは昨年末で434億元に達している。赤字でありながら金持ちなのだ。効率の悪いドライバーを整理すれば、収益は容易に改善するだろう。つまり打つ手はいくらでもあり、あとは実際にそれらをやるかどうかだ。今年は何に手をつけるだろうか。DiDiモビリティジャパンの運命は不透明と言うしかない。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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