山本勝 2022年5月13日(金) 8時0分
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船と鉄道はトラックに比べて格段に環境にやさしい輸送手段だ。一方、トラックドライバーの不足問題はますます深刻さを増す。
船と鉄道はトラックに比べて格段に環境にやさしい輸送手段だ。一方、トラックドライバーの不足問題はますます深刻さを増す。CO2削減、省力化を命題に国内雑貨輸送をトラックから船、鉄道に転換を促す「モーダルシフト」が政府の肝いりで進められている。成否は、国の本気度に懸っている。
最近、高速道路を走っていてもトラックの多いのに驚かされる。
現在国内貨物輸送の主役はトラックと船。2018年の数字で輸送トンベースでは91.6%がトラックで7.5%が船。輸送距離を掛け合わせたトンキロベースでは51.3%のトラックに対し48.7%が船と拮抗する。これは、小口短距離輸送主体のトラックと、大量長距離輸送に向いた船の輸送モードの違いによるものだが、輸送距離だけでみると100km未満では97.3%がトラックに対し、1000km以上では79.9%が船、両者が拮抗するのは300~500kmとそれぞれの強みと弱みがよくわかる。
いまトラック業界では、2024年問題なるものが話題になっている。これは政府の「働き方改革関連法」が2024年4月からトラックドライバーにも適用され、時間外労働時間が年間960時間に制限されることになる。いまでさえ騒がれているトラックドライバー不足問題の深刻化が懸念されるためだ。
一方、環境規制にかかわるCO2排出問題がある。2019年国内のCO2総排出量11億800万トンのうち運輸部門は18.6%、2億600万トンを占め、そのうち49.3%がトラック、5.0%が船からの排出だ。輸送トンキロベースでトラックと船のエネルギー消費を比較すると船はトラックの7分の1という数字があり、CO2排出はエネルギー消費に比例するので、船はトラックにくらべて格段に環境にやさしい輸送手段といえる。
こうした観点から現在、物流分野の労働力不足に対応するとともに、温室効果ガスの排出削減のため、国内貨物輸送をトラックから船・鉄道に転換する「モーダルシフト」が政府の肝いりで推進されている。
そもそもこの「モーダルシフト」は1980年代から経済低迷にともなう省エネ対策の一環として登場した経緯があり、1991年には当時の運輸省がこれを推進すべく提言を行っている。今回の動きは、喫緊の課題となった脱炭素社会への対応と省力化、効率化という命題を背景に、総合的な物流改革の一環として政策的に「モーダルシフト」を誘導しようというところに特色がある。
輸送手段にはトラック、船、鉄道、飛行機があり、貨物の種類(Valueをふくむ)と量そして輸送距離をファクターとして、最適の輸送手段が組み合わせもふくめて選択されることになる。貨物の種類でいうと、石油製品、セメント、大型金属機械などの重量・大宗貨物、そして距離でいえば750km以上の輸送はもっぱら船、小口の雑貨で300km以内となると圧倒的にトラックの出番となる。したがって「モーダルシフト」で誘導をうながす対象は、その中間、軽工業品、農水産物、その他の通常トラックで運ばれる貨物で、輸送距離はどちらの選択肢もありうる350km~700kmあたりとなる。
国交省がかかげる「モーダルシフト」推進事業の一例はこうだ。
群馬の製品工場から九州各地の受注者へ、すべてトラックでおこなっていた輸送を、清水港から大分港の区間(約760km)をRORO船に切り替える。また両端のトラック輸送区間は大型トレーラーに切り替えて1台当たりの輸送量を増やす。これにより全体でCO2排出量が78%削減され、トラックドライバーの運転時間が67%削減できる。こうした転換をおこなった業者に補助金など政府の支援がなされる、というもの。
政府は、具体的目標として、2020年度に対象貨物(雑貨)の輸送トンキロを、船は367億トンキロ、鉄道は221億トンキロ、2030年度には船410.4億トンキロ、鉄道256.4億トンキロに増加させることをかかげている。
船の場合を見ると、2018年度の実績で351億キロトンとほぼ目標に沿った増加で推移しているものの、2017~18年は横ばいでその後の数字は未確定ながら伸び悩んでいるとみられる。
一方の鉄道は、2015年度までは順調に増加したが、2018年度輸送トンキロそのものが大きく落ち込んだこともあり、目標の達成は困難な状況だ。
「モーダルシフト」の成否は、貨物の種類・量と輸送距離をベースのファクターに、トラック、船、鉄道と異なる輸送モードの最適な組み合わせを、顧客のニーズに合わせてトータルに構築し、提言して、実際のサービスに結びつけられるかどうかにかかっている。
船にせよトラックにせよ、中小の規模の業者に負うところが多い現状のなかで、「モーダルシフト」の意義を浸透させるには困難がともなうが、政策的にモデル事業を立ち上げて具体的成果を示していくいまのやり方が早道であり、これをいかに業界全体に周知させていくかが重要だ。最終的には民間の力で、あたらしい輸送サービスの一つとして拡大させていくことが目標となる。国の本気度が試されている。
■筆者プロフィール:山本勝
1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。
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