米バイデン政権、中間選挙控え「ウクライナ戦争方針」大転換へ=「軍事」より「外交解決」を重視

山崎真二    2022年6月15日(水) 7時30分

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今秋の米中間選挙が近づくにつれバイデン政権は国内問題に傾注せざるを得なくなり、ウクライナ戦争への対応でも軍事から外交解決へと大幅転換を図る可能性がある。写真はバイデン米大統領。

今秋の米中間選挙が近づくにつれバイデン政権は国内問題に傾注せざるを得なくなり、ウクライナ戦争への対応でも軍事から外交解決へと大幅転換を図る可能性がある。

◆無党派層の支持率が急減 

11月8日の中間選挙まで半年を切った今、バイデン政権を取り巻く国内情勢は厳しい。米国の政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」(RCP)によれば、バイデン大統領の各種世論調査の平均支持率(5月18日 ~6月9日)は39.4%で、不支持率は54.9%だった。ロイター通信の調査(6月6日-同7日)によると、支持率は41%、不支持率は56%となっている。政権発足当初55%を超えるときもあった同大統領の支持率はその後ほぼ一貫して下降し、昨年8月以降、不支持率が支持率を上回る傾向が続いている。民主党支持者の間ではバイデン大統領の支持率は依然、高いものの、無党派層からの支持が急減している。

この支持率低迷について米有力メディアは異口同音に最大の要因が物価上昇による市民生活へのマイナス影響と指摘する。米経済は新型コロナウイルスによる打撃から基本的には順調な回復基調にあるものの、需要の急増とサプライチェーン(供給網)の混乱によって急激な物価高を招いていたところに、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油や食料などの価格が急騰し、記録的インフレが続いている。ガソリンやパンなどの値上がりに加え家賃の上昇が低所得層を直撃しているもようだ。バイデン大統領の経済対策への不満は強い。最新のRCPの調査で大統領の経済政策に関して「支持しない」が60%にも上っていることからも、そのことが裏付けられる。バイデン大統領が看板政策に掲げた環境・社会保障の大型歳出法案も、民主党内をまとめることができず、いまだ成立していない。

◆中間選挙の結果次第では“レームダック”化

こうした状況から米メディアの中には中間選挙でバイデン大統領率いる民主党の惨敗を予想するところも出てきた。周知の通り、今回の中間選挙では連邦上院(定数100)の約3分の1、連邦下院(同435)のすべての議席がそれぞれ改選される。上院では民主党と共和党の現有議席は50対50で同数。下院は民主が220議席、共和が208議席(欠員7、5月末現在)。

米国の国政選挙の分析や予測で定評のあるウエブサイト「270to Win 」の中間選挙見通しによれば、上院では共和党が49議席を確保、民主党の47議席を上回り、残りの4議席のいくつかも獲得する可能性がある。一方、下院は10年に1回の国勢調査に基づく選挙区割り見直しが行われたこともあり、約60の選挙区の動向が不透明であるため、正確な予測が難しいとされているが、全般的に民主党が厳しい選挙戦を余儀なくされている。民主党が上院あるいは下院のどちらかでも多数派を失えば、バイデン政権は重要な政策の実現に大きな支障をきたすのは確実となり、早期の“レームダック”化を回避できなくなる。

中間選挙に向け民主、共和両党の予備選が本格化する中、民主党にとってもう一つ気になるのは、トランプ前大統領の存在感が以前ほどではないにせよ、決して衰えていないことだろう。両党の支持が拮抗する「スイング・ステート」とされる東部ペンシルベニア州の共和党上院候補を選ぶ予備選が5月中旬に行われ、トランプ氏の支持する候補が勝利した。同じく「スイング・ステート」の中西部オハイオ州の上院予備選でもトランプ氏の支持を得た候補が激戦を制した。共和党がトランプ人気の復活で勢いづくようだと、民主党の劣勢傾向が一層強まるとの予測もある。

◆国民の関心は「ウクライナ」より「経済」

米国の各種世論調査によると、中間選挙を控えた国民の最大の関心事項は「経済」がおおむね30%前後で、「犯罪・汚職」が10%台、「医療」が10%前後、ウクライナ戦争を含め「国際紛争」は3%程度となっている。このような国民の関心とは裏腹にバイデン政権がウクライナへの軍事支援に多額の予算を計上することへの批判や不満の声が渦巻く。米CNNテレビによると、バイデン政権内でもウクライナ戦争への対応をめぐり、軍事支援から外交的決着に重点を移すべきだとの意見が台頭しているという。

これに関しては、米紙「ニューヨーク・タイムズ」(5月31日付)に掲載されたバイデン大統領の寄稿文が注目されている。大統領はこの中でウクライナ戦争について、米国がロシア軍を攻撃するなどの直接関与を改めて否定するとともに、この戦争を長引かせる考えがないと断言、外交的解決の必要性を力説している。米有力シンクタンクの複数の外交問題専門家は、バイデン大統領がここに来てウクライナ戦争の外交的解決を言い出した点を重視し、軍事支援より和平実現へと大きくカジを切ろうとしているのではないかとみている。今後の中間選挙の情勢次第では米国の対ウクライナ政策の大幅転換は十分可能性があると言えそうだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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