池上萬奈 2022年6月8日(水) 7時30分
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国連憲章にはいまだに旧敵国条項が記載されている。写真は国際連合ウィーン事務局。
◆日本政府、国連改革の優先事項に
国連憲章にはいまだに旧敵国条項が記載されている。この旧敵国条項の削除は、日本政府が目指す国連構想改革の優先事項の一つとなっている。
1945年10月に設立された国際連合には、第二次世界大戦で連合軍と戦った国を敵国としてみなす条項が、国連憲章第53条、第77条及び第107条に掲げられている。該当する国である日本、ドイツ、イタリア、フィンランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニアの国が、軍事侵攻を行えば、国連安保理決議を通さなくても、これらの国に対しての軍事制裁が正当化されるのである。
日本では、戦後20年ごろからこの旧敵国条項はあまりにも不平等ではないかという声があがり、戦後25年、国連拠出金第3位となった1970年の第25回 国連総会 において、佐藤栄作内閣の一員である愛知揆一外務大臣は「旧敵国条項は、今日全くその存続の意味を失なった」としてこの条項の削除を訴えた。しかし、国際社会を動かすだけの力はなかった。それから25年経った戦後50年、今度はドイツと手を組んで旧敵国条項削除のために動いた結果、1995年9月の国連総会決議で「旧敵国条項」が既に死文化したとの認識を示す決議が、全ての常任理事国を含む155カ国の賛成によって採択された。しかし、それ以後目立った進展がないため2005年9月の国連首脳会合で、国連憲章上の「敵国」への言及を削除するという全加盟国首脳の決意を示す成果文書が採択された。ではその削除に向けた行動が進展しているのかと言えば、それはノーである。
◆「敵国条項削除」には国連憲章改正が必要
実際に削除となるには国連憲章改正ということになり、それには総会を構成する国の3分の2の多数で採択され、かつ、安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されて初めて可能となる。さらに改正の動きに対して、旧敵国条項削除だけではなく安保理改革も必要という声が上がっている。特に、ロシアによるウクライナ侵略を受け、安保理改革について何とかしなければならないというのは国際的な世論として大きな声となっている。そうなれば、ハードルがますます高くなる。
今まで国連憲章改正は4回あり、一つは同じ条項の2回の改正である。まず1、1965年の改正によって、安全保障理事会の理事国が11カ国から15カ国に増え(第23条)、その決定に必要な賛成票は、手続き事項以外の重要事項に関しては、5常任理事国の賛成票を含む7票から9票に増やされた(第27条)。2、1965年、経済社会理事会の理事国を18カ国から27カ国に増やす改正が行われ、さらに3、1973年には理事国数が54カ国となった(第61条)。4、1968年の改正によって、国連憲章を再審議する国連加盟国の全体会議を開催するために安全保障理事会が必要とする賛成票は7票から9票に増加した(第109条)。以上である。
◆日本政府、正面から改正を目指すがメド立たず
旧敵国条項は死文化されているといえども、2012年国連の場で中国の楊外相が尖閣列島は中国の領土であり日本が盗んだと主張し、旧敵国条項をにおわせる発言をしたことで、これが死文化だと言えるのかという議論が湧きおこり、改めて旧敵国条項削除の動きに注目が集まるようになったのである。
日本政府としては、それぞれの国に誠意を持って説得をし、特にこの旧敵国条項のところはコンセンサスを得られているのであるから、地道に説得を重ねて、支持国を増やして、正面から改正を目指す方向で働きかけているとしているが、いつになったら実現できるのか見当もつかないのが現状である。
■筆者プロフィール:池上萬奈
慶應義塾大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)、前・慶應義塾大学法学部非常勤講師 現・立正大学法学部非常勤講師。著書に『エネルギー資源と日本外交—化石燃料政策の変容を通して 1945-2021』(芙蓉書房)等。
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