村上直久 2022年6月10日(金) 7時30分
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これまでウクライナ産穀物の大半はマリウポリやオデーサから船積みされて来たが、戦時下の現在はロシア軍が封鎖しており、輸出が滞る状況が続いている。
ウクライナは肥沃な土地に恵まれ、小麦やトウモロコシなどの穀物生産が盛んで、「欧州の穀倉」と呼ばれ、欧州だけでなく多くのアジア・アフリカ諸国にも輸出された。
しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は様相を一変させた。
これまでウクライナ産穀物の大半はマリウポリやオデーサから船積みされて来たが、戦時下の現在はロシア軍が封鎖しており、輸出が滞る状況が続いている。ウクライナ産の穀物2500万トンが輸出されずにウクライナ国内にとどまっている。一方、ウクライナと欧州諸国は代替ルート探しに躍起になっている。
◆食糧不足に拍車
アフリカで穀物不足が深刻なのは西アフリカと中央アフリカ。穀物供給でウクライナとロシア両国への依存度が高い国は特に厳しい状況に直面している。ロシアもアフリカへの供給大国だ。両国への依存度が高いのはソマリア(100%)、ベナン(100%)、エジプト(82%)、セネガル(66%)などだ。
国連専門機関である世界食糧計画(WFP)によると、アフリカでは主食の価格が過去5年間で40%上昇した国もあった。西アフリカと中央アフリカでは今年、4100万人が食糧不足に追い込まれると予測している。この背景にはロシアのウクライナ侵攻の余波だけではなく、干ばつや洪水、新型コロナウイルスの感染拡大もあるという。それでもウクライナ産穀物のアフリカへの輸出停止がアフリカにおける食糧不足に拍車をかけているという構図に変わりはない。
アフリカ連合(AU)の現議長国セネガルのサル大統領は最近、モスクワを訪れ、プーチン大統領にアフリカの窮状を訴えたが、プーチン氏はウクライナ産穀物輸出問題を対ロシア制裁解除に向け取引材料に使う意向を示唆した。
EUのボレル外交安全保障担当上級代表(外相)は、ロシアは「小麦を武器として使っている」と非難した。
◆海上輸送に利点
ウクライナ産穀物の約95%は昨年、オデ―サとマリウポリから積み出された。しかし、現在はロシアによる封鎖で輸出はストップしている。代替ルートは三つあり、1:ポーランド経由ルート、2:ルーマニア経由ルート、3:ベラルーシ~バルト3国経由ルートだ。
ポーランド・ルートはトラックを使うが、輸送可能数量が限られており、加えて燃料コストもかさむという難点がある。
ルーマニア・ルートは列車やドナウ川のバージ(はしけ)を利用するが、このルートは大量輸送は見込めない。加えてウクライナとEU(ルーマニアはEU加盟国)の線路幅が違うため、国境で台車を使って積み替えなければならないという手間が生じる。
3番目のベラルーシ・ルートは政治問題をはらんでいる。ベラルーシはロシアの”同盟国“であり、EUは同国のルカシェンコ大統領の反政府抗議活動の弾圧を問題視して、制裁を科している。もしベラルーシ側から穀物輸送の許可を得るために、EUが同国に対する制裁を部分的にでも解除することになれば、EU域内で政治問題化しそうだ。
ただ、米紙ニューヨ-ク・タイムズによると、米国とEUの首脳は、飢餓に直面する人々に食糧を提供するのは最優先事項だが、ロシアもしくはベラルーシに褒美を与えることなくいかにしてそれを実現するかについて西側内部で厳しい対立があるという。
米国とウクライナはウクライの軍事侵攻に対するロシアへの制裁の解除には反対しているが、ベラルーシについては取引を行う可能性を排除していない。
こうした中で、ウクライナ産穀物を大量にかつ迅速に輸送するのに最も適したルートはオデ―サやマリウポリからの海上輸送だ。事態を打開するための外交交渉がもし行われるとしても、長く厳しいものとなりそうだ。
◆次の5000万トン
ウクライナの穀物エレベーターには昨年収穫された2500万トンの小麦やトウモロコシが滞留しているが、数カ月後には新たな収穫が控えており、新たに5000万トンが滞留分に加わることになる。
アフリカの人々を飢えさせないだけの十分な穀物があるにもかかわらず、ロシアの海上封鎖によって、飢餓が広がる事態は21世紀の悲劇ではないだろうか。
■筆者プロフィール:村上直久
1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。
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