anomado 2022年6月27日(月) 10時30分
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東京都内で内モンゴルを舞台とする映画「ハルウ」の試写会が行われた。大草原に生きるモンゴル族と彼らの馬に対する感情、さらに変動する社会によってもたらされた悲劇も盛り込んだ作品だ。
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■理想的な大草原でロケ敢行、感動的な画面は大きな魅力
同作品のロケ地は内モンゴル自治区のシリンゴル盟(「盟」は内モンゴル特有の行政区画名)などだ。シリンゴル盟は、内モンゴルでも最も美しい草原地帯であることで知られる。人と馬の感情を扱った映画として、まさにぴったりの舞台だ。ちなみに、日本でよく知られるモンゴル民話の「スーホの白い馬」の舞台も、現在の行政区画で言えばシリンゴル盟だ。
作品名の「ハルウ」は、物語の中心となる黒い馬の名だ。モンゴル語の「ハル」は「黒」の意で、「ハルフ」または「ハルウ」などとすれば、男性の名になる。草原地帯で祖父と暮らす少年は、子馬の「ハルウ」の面倒を見る。少年と「ハルウ」が戯れる様子も紹介される。そして、見渡すかぎり「草の海」の大自然の光景は感動的だ。
少年が学校に上がる年齢になったので、街に住む両親が男の子を引き取りに来る。少年は大好きだった祖父とハルウに別れを告げる。草原には老人とハルウが残される。
■馬と再会した老人の心、単純に喜んだのではなかった
ところが悲劇が訪れる。街に暮らす少年の父、つまり老人の息子は実業家から借りた金を返せなくなった。ハルウを含めて草原にいる家畜は、借金の担保になっていた。老人は全てを取り上げられてしまった。
本当に昔ながらの遊牧生活ならば、大きな借金を抱え込むことはそれほどない。しかし大きく変化しつつある今は、そうもいかないことがある。事業を起こすために、大きな借金をする場合もある。そして成功する人も失敗する人も出る。老人は自分の息子を責めなかった。自分の運命に、ただ耐えるだけだった。
売られた先で粗末に扱われたハルウは大けがをしてしまう。飼い主らはハルウはもう働けないと考え、食肉用に売ることにした。しかしハルウは逃げることができた。
その後、ハルウは「楽しいこと」にも「悲しいこと」にも巡り合ったが、最後には老人のもとに戻って来た。老人は単純に喜んだのではなかった。ハルウの前にひざまずき謝罪した。ハルウがとてつもない苦労をしたであろうことはよく分かる。それでも戻ってきてくれた。そしてハルウの帰還は大自然が示した魔法でもあった。老人は大自然に対する畏敬の念も込めてハルウの前にひれ伏した。
■現地住人の文化を最大限に尊重、だからこそよりリアルに
この作品の大きな特徴の一つは、モンゴル民族の文化や考え方をとても丁寧に扱っていることだ。まず全編を通じてモンゴル語が使われている。中国ではいわゆる少数民族を描いた映画やテレビの作品でも、中国語が使われることが珍しくない。中国人の観客を念頭に置いた作品である以上、さらに多くの観客によりよく理解してもらう必要がある以上、中国の共通語である普通話(標準中国語)を使う方法が浸透しているが、日本人が鑑賞する場合には、やはり現地の人々が使う言語である方が自然に感じる。
もう一つは、モンゴル民族の馬に対する感情をしっかりと表現していることだ。草原地帯で暮らす彼らは、馬を心から愛し、敬意をもって馬に接している。実際に「馬は賢いから人の言うことを理解できる。羊はダメだね。馬鹿だから」と口にする人もいるほどだ。
またこの作品では、ハルウが遠い場所から老人のところに戻って来た。馬は、まるで奇跡のような帰巣本能を示す場合がある。実例として、「ベトナムから戻って来た馬の話」がある。現在のモンゴル国はベトナム戦争中、モンゴル人民共和国という社会主義国だった。そのため同じ東側陣営の北ベトナムを支援するために、馬を提供した。そのうちの一頭が、戦場だったベトナムから元の飼い主のところまで戻って来たことがあった。このニュースが広まると、多くの遊牧民が大喜びし、さらには感動のあまり涙を流す人もいたという。
やむをえず手放した馬が自分のところに戻って来た。そんな場合に飼い主が感じる思いを、この映画はそのまま反映させている。
同作品は中国映画だが、制作を手掛けたのは東京都中央区に本社を置くAARON CULTUREだ。同社代表であり「ハルウ」のプロデューサーも務めた邱金城氏は、1992年に大学を卒業し、中国を代表する中国電信(チャイナ・テレコム)に入社した。ビジネスマンとして活躍した経験が、組織やプロジェクトを運営する能力として結実したという。邱氏は2005年以来、上海市政府関連の技術畑の仕事や不動産などの仕事を幅広く手掛けてきた。日本でAARON CULTUREを設立したことには、中国の伝統劇その他の舞台、書道、絵画、彫刻などの造形芸術や、さらに映画製作など文化芸術や付随する事業を通じて、国籍や民族を超えた文化交流や新たな世界共通の価値観の創造につながる作品やサービスを提供していくという理念が込められているという。(構成 / 如月隼人)
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