長田浩一 2022年7月7日(木) 7時30分
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米CNNによると、米国の探検家ビクター・ベスコボ氏が6月22日、太平洋戦争で沈没した米海軍の駆逐艦「サミュエル・B・ロバーツ」をフィリピン沖約6900メートルの海底で発見した。
米CNNによると、米国の探検家ビクター・ベスコボ氏が6月22日、太平洋戦争で沈没した米海軍の駆逐艦「サミュエル・B・ロバーツ」(通称サミーB)を、フィリピン沖約6900メートルの海底で発見した。実はサミーBは、あの戦艦大和を中心とする日本艦隊と戦い、被弾して沈没した。しかもその戦闘は、大和にとってただ一度だけの敵艦相手の砲撃戦だったという。その意味で今回の発見は、われわれ日本人に大和とは何だったのかを改めて問うものでもある。
◆日本艦隊が米軍を圧倒
ロシアのウクライナ侵攻に関連して、第2次世界大戦中のドイツ軍とソ連軍の戦い(独ソ戦)が注目を集めている。独ソ戦は史上最大の地上戦だった。では、海を舞台にした史上最大の戦いは何かといえば、間違いなく同じ時期の日米戦だろう。その中でも最大の海戦は、1944年10月のレイテ沖海戦(比島沖海戦とも呼ばれる)だ。
レイテ沖海戦は、フィリピンへの上陸を図る米軍と、それを阻止しようとする日本軍の間で約1週間にわたり海と空で展開された戦いの総称。主な戦闘はシブヤン海海戦、スリガオ海峡夜戦、エンガノ岬沖海戦、サマール沖海戦の4つ。このうち大和を中心とする日本海軍の戦艦・巡洋艦部隊と、米海軍の護衛空母部隊が突然遭遇し、発生したのがサマール沖海戦だ。レイテ沖海戦全体では日本軍は敗退するが、サマール沖では米軍を圧倒した。
柳田邦男「零戦燃ゆ・渾身編」(1990年文芸春秋)などによると、日本艦隊は相手が正規空母を中心とする主力艦隊と思い込み、大和をはじめとする戦艦、巡洋艦が猛烈な砲撃を開始。米側は、護衛の駆逐艦が魚雷などで必死に抵抗するが、火力の差はいかんともしがたく、護衛空母1隻と駆逐艦3隻が沈没した。このうちの1隻がサミーBだった。
この海戦で、大和は敵艦めがけ主砲を発射した。サミーBに命中したかは定かではないが、軍艦に搭載された大砲としては世界最大の46センチ砲に狙われた米艦隊にとっては、たとえ命中しなくても生きた心地のしない恐怖体験だったろう。
◆燃料の大量消費がネックに
ここで気になるのが、これが「大和が敵艦に対し主砲を発射した最初で最後の事例」と言われる点だ。当時世界最大の戦艦である大和の役目は、敵艦をその主砲で破壊・沈没させることであるはずだが、これが事実なら、1941年12月の就役以来、3年近く本来の仕事をしてこなかったことになる。一体どういうことか。
大和の初陣は1942年6月のミッドウェー海戦だが、激戦を演じた空母部隊のはるか後方で敗北の報を虚しく聞いただけ。同年夏から翌年初めにかけてのガダルカナル島をめぐる攻防では、他の日本海軍の戦艦が米海軍と激しく砲火を交えたり、米軍の飛行場を艦砲射撃したりしたが、大和は出動しなかった。1944年6月のマリアナ沖海戦でも、米軍機の空襲は受けたが、敵艦には遭遇せず。そして1945年4月にいわば海上特攻隊として沖縄に向け出撃したが、敵艦隊が布陣している海域に到達する前に米軍機による猛攻撃を受け、屋久島西方で沈没した。敵艦隊との砲撃戦を展開したのはサマール沖海戦だけ、ということになる。
歴史に「たられば」は禁物だが、大和がガダルカナル方面に出撃していたら、同島をめぐる戦いはかなり変わっていた可能性がある。もちろん日米両国の経済力の違いから、最終的な勝敗に影響はないだろうが…。
大和の出番が限られた最大の理由は、巨大戦艦ゆえに燃料を大量に消費することから、石油の調達に苦しんだ海軍が作戦への投入に慎重になったためという。海戦の中心が軍艦同士の砲撃戦から空母艦載機による航空戦にシフトした影響もあっただろう。大和が海軍のシンボル的な存在となったため、できるだけ温存したいという意識も働いたかもしれない。いずれにしても、莫大な予算をかけて建造された大和が十分に活躍の場を与えられず、最後は特攻の道具にされたのは残念というほかない。
◆「昭和の三大バカ査定」だった?
そこで思い出されるのが、1987年の大蔵省(現財務省)主計官による「昭和の三大バカ査定」発言だ。整備新幹線の着工に予算をつけるかどうかが政治問題化していた中で、ある主計官が記者へのレクチャーで「昭和の三大バカ査定といわれるものがある。戦艦大和、伊勢湾干拓、青函トンネルだ」と語り、整備新幹線も同様の結果になりかねないとの主張を展開した。私はそのレクチャーには参加していなかったが、この発言は記者の間でかなり話題となり、一部の新聞や週刊誌が記事化したと記憶する。
伊勢湾干拓、青函トンネルが本当に「バカ査定」なのか、私には分からない。大和についても、この言い方はないだろうと思う。とはいえ、コストに見合う形で活用されなかったのは事実だし、「大艦巨砲主義から航空機重点主義」への転換という潮流に乗れなかったのも間違いない。主計官の立場からすれば、先輩たちが大和の予算を認めたことに忸怩たる思いを抱いたのは理解できる。
さて、時代は一気に飛んで今回の参院選。報道各社の候補者アンケートの結果を見る限り、与野党を問わず、財政出動により景気の浮揚を図るべきだとの意見が多いようだ。しかし、5月27日付当欄で指摘したように、バブル崩壊後に莫大な財政支出を続けたにもかかわらず、日本経済は低迷を続け、国際競争力も低下している。この間の財政出動が、十分な効果を上げたとは言えないだろう。参院選後、さらに財政支出を増やすのであれば、少なくとも将来「バカ査定」などと言われることのない、賢く効果的な施策に予算をつけてほしいものだ。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。
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