山本勝 2022年7月31日(日) 9時20分
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東京湾に日本の原油の3割、LNGの5割が巨大なタンカーで運ばれてくる。
東京湾に日本の原油の3割、LNGの5割が巨大なタンカーで運ばれてくる。湾内のコンテナの取扱量は全国の4割を占め、首都圏の物流と住民の生活を支える。一日500隻の船が行きかう東京湾は世界一の超過密の海だ。安全のための対策は進んでいるが、自然災害も含めて湾内の海上交通に潜むリスクを認識し、首都圏一極集中の是正に向けた議論に加えるべきである。
東京湾は、三浦半島の剣崎と房総半島洲崎を結ぶ線と神奈川、東京、千葉の陸岸に囲まれた面積で大阪湾とほぼ同じ、伊勢湾より4割ほど小さい内海である。この3つの湾を日本の3大湾と呼ぶが、いずれも背後に大きな人口と経済圏を有し、それを支える複数の港をもつ。
◆人口の1/3、GDPの4割が集中
とりわけ東京湾は、全国の人口の約1/3、GDPの3~4割を占める首都圏都市に囲まれ、沿岸に6つある港湾区域の面積は湾全体の約40%に達する。巨大な生産および消費経済圏の真っただ中に存在するのが東京湾だ。
樽廻船、菱垣廻船の時代から江戸前の海は多数の船でにぎわい、荷下ろしされたコメ、ニシン、昆布や酒はさらに小型の船で運河や河川を使って消費地に運ばれたように大江戸の町は水運によって支えられていた。
現在の東京湾には20万トンを超える大型タンカーが着くバースが湾奥の千葉沖から三浦半島付け根の根岸まで4か所あり、いま各国が輸入量を増やすLNGは袖ケ浦、根岸ほか湾央に5か所に輸入基地がある。なんと日本全体の原油輸入量の約3割、LNG輸入量の約5割が東京湾に入ってくる巨大なタンカーで運ばれてくるのだ。
後背地に各種の生産工場や倉庫を配し、首都圏4000万人を超える人口を抱える一大消費地を控えて、国内外から運び込まれ、国内外に移送、輸出される雑貨、日用品の類は、湾奥から湾内西岸に連なる東京、川崎、横浜のコンテナバースに着岸するコンテナ船を経由する。この3港で取り扱うコンテナ貨物の量は、全国の港湾の約4割に達する。
そのほか湾内には、自動車専用船、セメント運搬船、客船、フェリーボートなど内航、外航の各種の大小船舶が走り回り、湾中央で観測される航行船舶は一日当たり約500隻を数える。
また江戸前の魚をはじめノリなどの海産物の漁がおこなわれ、客を乗せた釣り船などとともに湾内各所に多数の漁船が行き交い、市民のプレジャーボートも走り回る、という超過密の海が東京湾なのだ。
◆浦賀水道、わずか7km幅に船舶多数
東京湾の一番狭いところは、三浦半島の観音崎と千葉の富津岬を結ぶ部分で浦賀水道と呼ばれ、幅は約7km。浦賀水道から南は太平洋につながる比較的広い湾を形成するが、浦賀水道のくびれから北東にひろがる湾(内湾と呼ぶ)内に工業地帯、港のほぼすべてが集中する。
幅7km といえば、広いと思われるかもしれないが、付近には浅瀬が点在し、江戸時代に構築された海堡とよばれる砲台跡(第3海保は2007年撤去された)もあって、大型船の航行できる水域は限られる。内湾は湾奥に向かって全体に水深が浅くなり、大型船は浚渫によって水深を確保された航路を通って湾内各所に散らばる港を行き来する。こうして浦賀水道から内湾にかけて、大型船が航行できる複数の航路が設定され、これらの航路を中心に大小各種の船舶の航行ルールが定められて湾内の航行の安全が図られているのが現状だ。
現在湾内全域をカバーして、航行する船の動向を把握し、航行管制と安全のための航行情報の提供を一元的に行っているのが海上保安庁の海上交通センターだ。船舶輻輳海域の航行の安全のためきわめて重要な役割を果たしている。最近はICT技術を駆使して、船舶から発信される本船情報(本船の向かう港までわかる)が海上交通センターのレーダーで本船の位置とともに把握されて、的確な監視と、情報の提供が双方向で可能となるなど、安全とともに航行の効率化の面でも向上が進んでいるのは頼もしい限りだ。
しかし過去には浦賀水道や内湾の航路が交差する海域などで大型船が衝突し爆発炎上するなどの大事故が発生、現在の航行ルールの制定や航行管制の強化もこうした事故がきっかけで整えられてきた歴史がある。
◆衝突・爆発・座礁事故が頻発
海上交通センターが設置されたあとも1997年大型タンカーが内湾の狭い水路で座礁、原油が流出し、社会に衝撃を与える事故が発生している。以来、幸いなことに世間の耳目を集めるような大事故の発生はないが、漁船や小型船の衝突、台風など強風による走錨などは頻発しており、大事故に至らないまでもヒヤリ、ハットする事案もあとを絶たない。
大事故が起これば、湾内の船舶の航行は著しく制限され、物流を絶たれた首都圏の経済と住民の生活はたちまち大混乱に陥ることになる。
東京大都市圏への一極集中の弊害は、語られて久しいが、東京湾に極度に集中が進む海上交通や港湾の立地のありようについても、そのリスクを認識し、一極集中是正の重要なテーマのひとつとして論議に加えることが必要ではないか。
相模湾付近を震源とする首都直下型地震の発生も予想される現在、東京湾の安全は大災害によっても脅かされることを肝に銘じ、産業立地やサプライチェーンの見直しなどによるリスクの分散を真剣に考えるべき時である。
■筆者プロフィール:山本勝
1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。
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