宇宙空間は主権及ばず、覇権争い激化―衛星攻撃の「キラー衛星」も―宇宙ゴミ1億個、リスク甚大

池上萬奈    2022年8月8日(月) 8時0分

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我々が見上げる空のどこからが宇宙なのだろうか。それは大気圏の外側のことである。

我々が見上げる空のどこからが宇宙なのだろうか。それは大気圏の外側のことである。大気圏は4つの層に分かれていて10km以下の対流圏では100m高くなると約0.65度気温が下がる。それを越える10~50kmの成層圏にはオゾン層があり高くなるほど温度が上昇する。50~80kmは中間圏、約80km以上は熱圏と呼ばれオーロラの現象が起きる高度である。その先約100km以上からが宇宙となる。


この宇宙空間は各国の主権が及ばない、要するに国家による領有はできず、すべての国が自由に使える空間ある。

1957年10月、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、翌年1月、アメリカも人工衛星「エクスプローラー1号」の打ち上げに成功した。こうして始まった宇宙開発競争によって打ち上げられた人工衛星の数は、国連宇宙部(Outer Space Object Index)によれば、2021年12月時点で12000個を超える登録がある。古くなって使われなくなった数を差し引き、現在、宇宙空間にある人工衛星の数は約4000基と言われている。

気象衛星などの観測衛星、インターネットや放送に欠かせない通信・放送衛星、航空機や船舶の測位衛星、軍事施設などの画像収集衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、電波信号などを収集する電波収集衛星や武器システムなどに使われる人工衛星もある。

◆衛星依存拡大で、社会生活混乱リスク増大

さて、このように地球周回軌道に乗っている数多い人工衛星が存在する宇宙空間において現代社会が抱える問題点とは何なのだろうか。主に二つある。一つは、宇宙空間における覇権争いである。特に脅威となるのは、他国の宇宙利用を妨げる技術の開発が存在することである。例えば衛星を破壊する対衛星ミサイルの開発のほか、衛星攻撃衛星いわゆるキラー衛星を接近させ、アームで捕獲するなどして対象となる衛星の機能を奪う技術、さらに衛星と地上局との間の通信などを妨害する電波妨害装置や、対象の衛星を攻撃するレーザー兵器などの開発である。人工衛星の機能を奪われることで社会生活が混乱に陥る危険をどのように回避するかは重要な課題の一つである。

◆衝突回避へ衛星軌道変更も

もう一つは、宇宙ゴミ(debris・デブリ)の存在である。2007年、中国が老朽化した自国の衛星を地上から発射したミサイルで破壊し、それにより発生したデブリが人工衛星の軌道上に飛散し脅威として注目されるようになった。2009年、制御不能になったロシアの衛星が運用中の米商用衛星に衝突し、デブリが増える事態も起きた。同年、インドが行った衛星破壊実験でも多くの破片が発生した。2019年6月現在、デブリの数は10センチ以上のものだけで約2万個、1ミリ以上のものまで含めると1億個以上、秒速7~8km(拳銃の弾丸の10倍以上)で地球を周回し、小さくても人工衛星に衝突すれば故障や破壊を引き起こしてしまうのだ。

日本では、デブリ接近の情報は、米軍連合宇宙運用センター(Combined Space Operations Center:CSpOC)から、つくば市の追跡ネットワーク技術センターに1日400件以上届き、この情報をもとにJAXAが軌道計算を行い、衝突を避けるために衛星の軌道を変えることもある。2018年度に出した警報は163件、実施した軌道変更は6件である。

◆航空自衛隊基地に「宇宙作戦隊」

さて日本政府としては、これらの脅威に対してどのような対策をとっているのだろうか。2020年5月、航空自衛隊府中基地に、防衛大臣直轄部隊として宇宙作戦隊(Space Operations Squadron:SOPS)を20名の隊員で新しく編成した。デブリや不審衛星などを監視する「宇宙状況監視」を任務とし、2023年度からの本格的な「宇宙状況監視」システムの運用開始に向けて、「宇宙領域における部隊運用の検討」「宇宙領域の知見を持つ人材の育成」「米国との連携体制の構築」などを進めていく方針となっている。ようやく始動した感がある。

現状では宇宙における軍事利用に関しての明確な国際的ルールは確立されていないため、宇宙空間の平和利用・軍事利用に関しての議論を深め、国際的なルールづくりの場を日本がリードしていくためにも、日本の技術力を高めておくことが重要であろう。

■筆者プロフィール:池上萬奈

慶應義塾大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)、前・慶應義塾大学法学部非常勤講師 現・立正大学法学部非常勤講師。著書に『エネルギー資源と日本外交—化石燃料政策の変容を通して 1945-2021』(芙蓉書房)等。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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