【特別寄稿】中米台3者が共に反対したペロシ訪台

岡田充    2022年8月5日(金) 11時0分

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ペロシ米下院議長の台湾訪問は、米中両政府が反対しただけではない。写真は蔡其昌氏のFacebookアカウントより。

岡田充(たかし)共同通信客員論説委員

ペロシ米下院議長の台湾訪問は、米中両政府が反対しただけではない。実は台湾当局も招待撤回に傾いたにもかかわらず、ペロシ氏は自己のレガシー(歴史的評価)を満たすために、押し切った結果だった。

日本の大手メディアは「米国は台湾見捨てない」(8月4日付「朝日」)など、中国のどう喝に屈せず訪問を断行した同氏を好意的に扱う。だが台湾紙「中国時報」(電子版 8月2日)によると、バイデン政権高官は、訪問予定が明らかになった7月18日以降、連日のようにペロシ氏に訪台延期を進言・説得に当たった。

バイデン大統領は20日「米軍は今は(訪台は)良くないと考えている」と述べ、訪問を強くけん制した。この発言を聞いたペロシ氏は、台湾の駐米代表の簫美琴氏に電話し、8月3日訪台の意向を伝えた。この時ペロシ氏は初めて、台湾側も招待撤回に傾いていたことを知ったという。

28日の米中首脳協議で習氏は、ペロシ訪台を念頭に「火遊びをすれば身を焼く」と述べ、訪台は「容認できない一線」のレッドラインを踏むことになる、と強く警告した。

にもかかわらず訪台を断行した理由について「中国時報」は、同氏が82歳と高齢の上、米中間選挙(11月)後に、退任の可能性が高いため「個人的レガシー(歴史的評価)の追求を堅持した」と書く。

そういえば、蔡英文総統はこの間ペロシ訪台に期待する発言は一切せず「低調」な姿勢を見せてきた。3日の会見で蔡氏は「台湾の最も強力な友人」とペロシ氏を持ち上げたが、米高官訪台の際に使ってきた「台米関係の突破」という表現は使わなかった。

台湾にとって、訪問が「痛しかゆし」だったことがうかがえる。中国の軍事威嚇や経済制裁にさらされれば、台湾にとって何の利益もない。中国の軍事演習に伴う台湾海空域の封鎖で、台湾経済活動に影響が出ると、批判の矛先は米国と一緒に対中強硬政策を取ってきた蔡政権にも向きかねない。

蔡氏にとっていま最も気懸かりなのは、施政への「満足度」が36%と4割を切ったことだ。(22年6月TVBS調査)。台湾では11月に統一地方選が行われる。4年前の前回選挙では政権与党が惨敗、一時は蔡再選に赤信号がともった過去もある。

英紙「ガーディアン(電子版)」は2日、台湾紙の調査を引用してペロシ訪問について「約3分の2の台湾人が、訪問は状況を不安定化させる」と、否定的反応をしたと報じた。個人のエゴを満足させるため、台湾海峡の緊張が激化する結果をもたらしたのは、ペロシ氏自身と蔡氏にある。物事の因果関係を曖昧にしてはならない。

対中敵視路線や親米政策が度を越すと、台湾では民意という「振り子」が逆に振れ、絶妙のバランスを取ろうとする。そんな例は過去に幾つもあった。蔡政権は民意のしっぺ返しを受けるかもしれない。

■筆者プロフィール:岡田充

1948年北海道生まれ。72年慶應義塾大学法学部卒業後、共同通信社入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員、拓殖大学客員教授、桜美林大学非常勤講師を経て、2008年から共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中新冷戦の落とし穴」。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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