中国新聞社 2022年8月29日(月) 1時0分
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中国では自国の法律の外国語訳が積極的に進められている。中国の法律を熟知することは中国関連ビジネスを進めるためにも欠かせない。写真は英語に翻訳された中華人民共和国合同法(契約法)。
一国の法制定は、基本的にはその国の内政問題であるはずだ。しかし国外で「的はずれの批判」が発生したのでは、その国にとって「損」だ。そのため自国の法が外部から誤解されないように、国際的に広く使われる英語などに訳出することは、国益にかなった作業だ。長らく中国の法律の英語訳などに携わってきた西南政法大学外国語学院の朱元慶氏は、このほど中国メディアである中国新聞社の取材に応じて、中国における法律の訳出作業について解説した。以下は朱元副院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■中国人による中国人と外国人のための法律の翻訳
中国の法律の外国語訳の第一段階は明代(1368-1644年)から清朝(1644-1911年)中期にかけてだ。作業に携わったのは、中国に滞在する外国人の外交官や学者、宣教師で、体系的な作業ではなかった。清朝中期以降には体系的な翻訳が出現したが、翻訳者は依然として主に欧米人であり、自国のための翻訳だった。結果として、たとえ意図しなかったとしても曲解や誤訳が発生した。
1919年に発生した五四運動以降は、中国当局による翻訳作業が始まった。新たに定められた法律の訳出作業も手掛けられた。1949年に中華人民共和国が成立すると、新たな法が大量に作られた。これらの法の外国語訳も行われた。改革開放が始まると、中国と国外との人の往来や貿易が飛躍的に増大した。中国はさらに積極的に自国の法を英訳した。外国人に中国の法体系を理解してもらい、不要な摩擦を避けるために必要だからだ。
2012年の中国共産党第18回代表大会以降は、中国の法律の英語訳がさらに熱心に進められるようになった。中国が法治国家であり、中国の法律にはさまざまな経験が盛り込まれていることを紹介することは、国の文化的ソフトパワーを強化することに結びつく。また、中国人が自国の進む道や文化、制度についての自信を強めたことも、自国の法律を外国に積極的に紹介することにつながった。
■法律文章の翻訳は高度な専門性を必要とする作業
法律の翻訳をするにあたっては、法律の条文とその背後にある政治的理念を正確に理解せねばならない。同時に、訳出する言語を使用する国についての十分な知識と十分な理解を持っていなければならない。中国では近代化が始まった当初から、有識者は「法律の翻訳が最も難しい」と認識していた。
比較的新しい例を紹介しよう。南西政法大学の法律外国語チームが英訳した「中華人民共和国民法典」だ。中国語原文に「民事主体」という言葉がある。従来は「civil subjects(日本語直訳=民事主体)」と訳されることが多かったが、外国の法学者には「ピンとこない」訳語だと分かった。そこで、多方面にわたる検証作業を行い、外国人専門家への問い合わせもした上で、「parties to civil legal affairs(日本語直訳=民事法律作業の当事者)」の訳語を仮採用した。
また、法律は必然的にイデオロギーの色彩を伴うものだ。これは中国だけのことではない。米国の法律には米国の価値観が、日本の法律には日本の価値観が強く反映されている。中国の法律を外国語に翻訳する際には、翻訳者は「中国の立場」をしっかりと踏まえて、訳文が歪められたり変形されることを避けねばならない。法律の文章は最も専門的であり、最も「ハードコア」な文章だ。言語に精通してこそ、原文をしっかりと咀嚼(そしゃく)した上で外国語に正確に訳出して、中国語原文の精神を再現することができる。
■中国の法律を熟知することは対中ビジネスの利益に合致する
中国の法律の近代化が始まったのは清代末期だが、「中国は外国の法律の追随者」の状況が長く続いた。そのため、外国の法律の中国語訳の分量が、中国の法律の外国語訳よりも多い状態が続いた。しかし、関連組織による2011年の統計では初めて、「中国の法律の外国語訳」の方が多くなった。中国の法律の外国語訳が増えたことは、法治建設の現状を直接に反映するものだ。
「どの国も法治が必要」は、国際社会や国際交流における共通認識だ。中国にとって法律の訳出作業は、中国の法治が国際的な認知を得るための懸け橋だ。現状では、中国語や中国の法律に精通した外国人翻訳者が極端に不足している。そのため、中国の法律の外国翻訳は中国人が自ら果たさねばならない責務となっている。
中国の法律の外国語訳は、中国と外国の法律交流において、次のような役割を果たすことができる。まずは、中国の立法ひいては法治建設の分野全体の現状と発展の情勢を提示できる。すなわち国際社会に「中国の法律とはどのようなものか」を直接に知らせることができる。
次に、典型的な事例や法律にかかわるニュース報道などを翻訳することで、国際社会に「中国では法律がどのように運用されているか」を理解してもらえるようになる。さらには、「中華学術外国語訳」などの重要なプロジェクトの一環として、中国における法学の最新の成果を翻訳して紹介すれば、国際社会に「中国の法律がどこに向かって発展していくのか」を示すことができる。
中国政府は国外に出た中国人や中国企業に対して、現地国の法律を順守するよう強く求めている。もちろんその逆に、中国国内にいる外国人や外国系企業には中国の法律を順守するよう求めている。そして、中国の法律で認められている権利と利益は保障すると宣言している。いわゆる「合法的な権益の保護」だ。
つまり中国に進出した外資系企業などにとって、中国の法律を熟知することは、自らの利益に直結する。従って、中国の法律の外国語訳をしっかり推進すれば、中国の法律を理解する外国人や外国の法人が増えていくことになる。
中国はまた、外国語訳する法律関連文書の範囲を広げていかねばならない。法律法規の文章そのものの「プロ向けの正確な翻訳」だけでなく、多くの非専門家を対象に、実際のニーズや考え方、言語習慣に寄りそって、中国の法治建設の現状を紹介せねばならない。
異なる国家や民族間の文明の交流と相互参考は止められない潮流だ。専門的な翻訳やそれに対する評論や批判は、法律の外国語訳の質と認知を向上させ、範囲を広げることに結びつく。より多くの翻訳者が法律法規や司法判断の事例などの中国の法律関連文章の外国訳に力を入れ、中国の法律文化の世界への伝播を後押しすることを希望する。(構成 / 如月隼人)
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