「史記」は欧米人にとってどのような意義があるのか―米国人研究者が紹介

中国新聞社    2022年9月19日(月) 23時10分

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司馬遷が著した「史記」は中国や日本のその後の文化に大きな影響を与えた。そして現在では欧米でも研究されている。米国人の専門家が、欧米人が「史記」を研究する意義などを語った。

西洋人にとって古い歴史書の代表は、ヘロドトスが書いた「ヒストリアイ」だ。ヒストリアイのギリシャ語の原義は「研究」といった解説もあるが、結局は「歴史」を意味するようになった。英語の「 history (ヒストリー)」の語源でもある。東洋で貴重な古い歴史書の代表は司馬遷(紀元前140年ごろ-同86年ごろ)が著した「史記」だ。「史記」が中国や日本の文化に大きな影響を与えたことは言うまでもないが、現代に生きる欧米人にとって「史記」はどのような意味があるのだろうか。「史記」など中国の古典を研究するウィスコンシン大学マディソン校のウィリアム・ニエンハウザー教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、自らの「史記」との出会いの状況や、米国人として「史記」を研究する意義などを語った。以下はニエンハウザー教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■研究を始めて「史記」の満足できる英訳が存在しないことに気づいた

私は1943年に生まれた。小さいころに祖母が、自分の使った古い歴史の教科書をくれたので、歴史に興味を持つようになった。次には、第二次世界大戦中に中国領内で燃料不足で落下傘降下した米国人パイロットを、中国の民衆が日本軍の捜索から逃れさせて、米国とは同盟関係にあった蒋介石の政府があった重慶まで送り届けた中国の民衆の物語を読んで、中国に関心を持つようになった。

その後、語学学校で中国語を学ぶようになった。私は倪豪士という中国名を持つが、語学学校の先生につけていただいた名だ。さらにインディアナ大学に進学して中国語を学んだ。この時には多くの中国系教師と知り合った。さらにドイツのボン大学に留学した。ボン大学で中国研究の有名な研究者の風格に感化され、私も中国学を専門にすることに決めた。

ボン大学の留学時代には、西洋の中国語研究は「読み書き」に偏っていて文献研究が不十分であることに気づいた。私は1989年に、同級生とともに「史記」の翻訳作業を始めた。自らの実力を高める目的があったが、満足できる完全な英語訳がなかったことに気づいたからでもある。

私は、「史記」の翻訳には中国と欧米の文化交流にとって大きな意義があると考える。まず、中国の歴史を知りたい欧米の学者にとって重要な意味を持つ。また、「史記」は文学作品としても極めて深い。そのため、完全な翻訳版がないと西洋の読者を誤解させてしまう。私は詳細な注釈を備え、できるだけ忠実で、文学的で流暢な全訳を目指した。一般読者だけでなく、学者と専門家にも貢献して、中国の歴史と文化に対する欧米における研究を後押しすることを望む。

私は「史記」を自分だけで研究したり翻訳したりするのではなく、グループ式の討論を通じて作業している。そして、古い中国語を英語に変換するだけでなく、中国の経典を西洋的な思考で読み解いている。先人研究成果や、「漢和大辞典」や「康熙辞典」などの辞書を十分に活用して、一文字一文字の意味をできるだけ正確に理解するように努めている。

■中国人と同様の研究はできないが、西洋人ならではの研究は可能

私と中国の学者では、中国の古典を研究する状況に違いがある。まず、中国の学者は中国の伝統的な著作とその作者をより広くより深く理解している。さらに、彼らの母語は中国語だ。だから古い中国語の文体も容易に理解できる。

私にとって中国古典の研究の出発点は翻訳作業だ。思考し議論したい内容をすべて英語にせねばならない。もちろん、作品の一文字一文字の意味を徹底的に知る必要まではないが、少なくともアウトラインは明確に理解せねばならない。

私は同時に、いくつかの中国の古典作品を理解する際には、西洋的な角度から探求したり、あるいは類似の西洋の文学作品と比較文学の主要による研究をしておる。そのことで、中国文学を更に重層的に考えることができる。

中国の古典を研究することは、私の性格にも大きな影響を及ぼした。私は、忍耐力を持つことと、古い伝統を尊重することを徐々に学んだ。また、中国や欧州で生活した経験から、異郷にいる感覚を理解した。そのため、米国に来て勉強する中国人学生には、忍耐力と細心の注意をもって接するようにしている。また、学生の出身国に関係なく、中国の古典文学に対する私の愛情を伝えようとしてきた。

私は中国と西洋の文化認識の違いを深く体得した。中国の古典をいくら研究しても、私が本物の中国人になることはできない。しかし中国の古典を研究していくうちに、西洋人に適した方法で中国の文学や歴史を研究し、西洋人の考え方で読み解くことができるようになったと思う。これは、私にとって非常にうれしいことだ。

■中国人には簡単に理解できても欧米人には困難なことも、だからこそ研究したい

以前の普通の米国人は中国の伝統文化をよく知らなかった。しかし時間の経過とともに、ますます多くの米国人が中国の古典に興味を持つようになった。しかし、米国人のほとんどは、中国語原書を直接読むことが不可能又は困難だ。だから翻訳は、重要な役割を果たす。

東西の文化は異なるので、中国人にとっては説明しなくてもわかる道理でも、欧米人には非常に理解しにくい場合もあるだろう。そのため、私にとっては、中国の古典を正確に翻訳し注釈をつけることで、東西の文化交流の懸け橋を築きたい。私の周囲の多くの人に、中国文化の古典に興味を持ってもらうことが可能ではないかと考えている。

私の学生が、私と共に中国の古典を学習し、研究する道を選んだのは、中国に強い興味を持っているからだ。彼らは5000年も連綿と続いてきた、古い文明国をもっと理解したいと望んでいるのだ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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