中国の海外直販アパレルSHEIN驚異的成長続く、ZARA、ユニクロを上回り世界一目前に

高野悠介    2022年10月7日(金) 8時0分

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SHEINとは2009年設立の新型アパレル企業である。海外市場へ的を絞った、いわゆる越境Eコマースだ。このところコロナ禍を味方に付け、大爆発を続けている。

SHEIN(シーイン)とは2009年設立の新型アパレル企業である。海外市場へ的を絞った、いわゆる越境Eコマースだ。このところコロナ禍を味方に付け、大爆発を続けている。その急成長の秘密に迫ろう。

■売上世界一…ZARA超えへ

SHEINの2020年売上は、世界的な巣ごもり需要を追い風に前年比4倍増と爆発、100億ドルの大台を超えた。この時点で世界アパレルランキング6位に上昇した。2021年の売上はさらに2倍増の200億ドル、2022年上半期は160億ドルに達した。現在の企業価値は、1000億ドルと見積もられ、これはイーロン・マスク率いるSpaceX社と同等だ。

2021年の世界専門店アパレルランキング(ファッション流通ブログ)によれば、1位、インデックス(ZARA)2兆5659億円、2位、H&M、2兆4341億円、3位、ファーストリテイリング(ユニクロ)2兆1329億円、4位、GAP、1兆9278億円である(2022年1月の1ドル=115円の為替レート)。するとSHEINの200億ドルは、2兆3000億円になり、3位のユニクロを上回る。上半期の成長ペースが続けば、2022年にZARAを抜き去るのは、確実だ。

■巨大海外市場…越境Eコマースを起業

SHEIN創業者の許仰天氏は1984年山東省・淄博市の生まれ。バイトダンス・張一鳴氏、快手・宿華氏、滴滴出行・程維氏ら、新世代のIT創業者らとほぼ同年である。ただし恵まれた出自の彼らと違い、貧困家庭の出である。3Kのきついアルバイトに追われ、苦学して青島科技大学を2007年に卒業した。そして江蘇省の南京奥道公司に就職、SEO関連の仕事に就く。同社は越境Eコマースも手掛けていて、許仰天氏は、ここで広大な海外市場を垣間見る。中国で数百元のウエディングドレスが、海外では数千ドルに化けるのだ。そこで翌2008年、友人2人と起業、自ら越境ECに乗り出す。米国に独自通販サイトをオープン、PinterestやFaceBook、YouTubeなど、勃興中の新メディアを宣伝に利用しながら、着実にユーザーを獲得していった。現在は世界150以上の国と地域に展開、主力の米国ではショッピングアプリのダウンロード数でアマゾンを上回った。人気の秘密は、ファッション性と安さの両立にある。

■品質にはバラつきも…買って損はない

そして最大の特徴はそのスピードだ。ビッグデータによるトレンド分析、デザイン起こしから、製造、出荷までをわずか10~15日で行う。その結果、先進のファッション性のある、極めて安価な商品が、1週当たり4万~5万アイテムもアップロードされていく。これが、米国の若者、特に18歳~35歳の女性に受け入れられた。「品質にばらつきあってもSHEINを買って損はない。米国より数倍お得だ」という評価だ。

許仰天氏はあまりマスコミに登場せず、さまざまな臆測を呼んでいる。それはSHEIN本体も同じである。各国で「SHEINって大丈夫?」などの投稿は多いが、SHEINは、これをKOC(Key Opinion Consumer)として利用している。コストのかかる網紅(Key Opinion Leader)に頼る必要もなく、結果として、費用対効果に優れたマーケティングを行なっている。

■スピード生産…縫製工場をネットワーク化

生産は主に広東省で行なう。ユニクロなど従来アパレルは、労働工賃上昇の著しい広東省を避け、中国内陸部や東南アジアへ産地シフトを進めた。SHEINはその空いた生産キャパを新たにネットワーク化した。本部のある広州市番禺区南村鎮は、300~400カ所の中核縫製工場と1000カ所もの下請け小工場が集積している。しかし、SHEINのサプライヤー管理は、比類のないほど厳しい。多数のSKUについて、迅速な対応と、それらやりとりのエビデンス保全が求められる。例えば、トライアル生産100枚を3日で納品しなければならない。昼夜兼行は当たり前だ。縫製工場はS、A、B、C、Dの5段階で評価され、Dランク評価のうち30%は、契約を打ち切られる。

某工場は、従業員120人、月産キャパ16万枚。SHEIN製品の1着当たり平均コストは10元、利益として残るのは1~5元。また別の工場では、年間売上1億2000万元(2021年)だが、1着当たり利益は、1元に過ぎない。ただし、支払いサイトが短く、安定しているのが魅力だ。SHEIN本体の利益率は5~10%、平均売価68元(10ドル)に対し、3.4~6.8元という。

■ユニクロの対極…繊維業界を革新

現在はレディースウエア以外も強化し、コスメ、アクセサリー、靴、カバン、メンズや子供、家庭用品など、18部門に増加した。日本版サイトはWOMEN、MEN、 KIDS、 BEAUTY、 HOME+PETS、PLUS SIZEの六つに大別される。筆者は、メンズカジュアルシャツとスマホケースを2回に分けて注文してみた。支払いはクレジットカードかコンビニ決済を選ぶ。1回目は、月曜日の午後3時ごろコンビニ入金をすると、ただちに3~5日後に着く、とメールが入り、実際4日目の木曜日に配達された。2回目は、火曜日の午後2時ごろクレカ決済すると、5日目の日曜日の朝に配達された。宅配業者は佐川とヤマトだったが、荷物にはSHEINの表示はなく、一瞬、何だったかな?と戸惑うが、とにかくスピードも品質も、評判通りであった。

ユニクロは、素材の研究開発を志向、大ロット生産をすることで、高品質とコストダウンを両立させ、一時はアパレル株式時価総額世界一まで上り詰めた。業界の常識ではSHEINの多品種小ロット生産は、通常コストアップ要因でしかない。それをごくありふれた素材を使用し、次から次へと発注することでコストアップを抑えた。ユニクロとは真逆の発想で繊維業界を革新し、そして見事なまでの成果を上げている。この勢いは、もうしばらく続きそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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