米国最高裁に孔子像があった―「どうして?」の声に米国人専門家が答える

中国新聞社    2022年10月15日(土) 16時30分

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米国最高裁の建物には孔子の彫像がある(写真)。なぜなのか。米国人専門家が疑問に答え、さらに現在の国際関係について孔子から学ぶべき知恵を語った。

中国では、中国外交部で長らく報道官を務めてきた華春瑩次官補による最近のツイッターへの投稿が、ちょっとした話題になった。彼女は米国最高裁の建物の、日本風に言うならば破風の部分に中国、ユダヤ、ギリシャの古代聖人3人、すなわち孔子、モーゼ、ソロンの彫像があると紹介し、彫像は米国の「多様性、開放性、包括性の宣言」を示したものと論じ、「(米国は)今、国際的に逆のことをしている」と皮肉ったのだ。

ここで気になるのは、なぜ孔子の彫像があるのかだ。米国の成り立ちを考えるなら、キリスト教と深い関係があるユダヤの人物や、西洋思想に大きな影響を与えたギリシャの人物なら分かる。しかしなぜ、中国の孔子が加えられたのか。中国哲学の研究者である米バーサ大学のブリアン・W・ファン・ノーデン(中国語名は「万百安」)教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、米国最高裁に孔子の彫像が設けられた経緯や、現代社会にとっての意義を紹介した。以下はノーデン教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。


■米国建国の立役者は、孔子を「受け継ぐべき東洋文明の象徴」と見なした

米国最高裁建物の西側入り口の破風の部分には、中央に正義の女神の彫像があり、左右にはその他の象徴的な像がいくつかある。東側の破風には、左から孔子、モーゼ、ソロンの像がある。ソロンは古代ギリシャで立法の先駆者だった。ただし東側は正面入口ではないので、人の目に触れることはあまりなく、それほど有名ではない。

この像の設計者であるマクニールは、最高裁建設委員会に宛てた書簡で、「法律は文明の一要素であり、米国の法律は自然なこととして、それ以前の文明を受け継ぎ、あるいはそれ以前の文明から生まれてきた。最高裁判所庁舎の東側破風の肖像群には、東洋に由来する基本的な法律や戒律を参考にする意味を込めた」と説明した。

建国初期の米国では現代的民主と現代科学が国づくりの基礎と考えられた。そして米国建国の立役者となったトーマス・ジェファーソン、ベンジャミン・フランクリン、ジェームズ・マディソン、トーマス・ペイン、ジョン・アダムスらは欧州の啓蒙思想の影響を強く受けた。孔子は啓蒙的な思想家と考えられていたため、人々は孔子に関心を持ち、肯定的に評価していた。

米国最高裁の建物はまずニューヨークに建てられ、フィラデルフィア、ワシントンの順に移転した。現在のワシントンの建物は20世紀初頭に建てられたものだ。歴代の建物には現在に至るまで、孔子の彫像を採用した。このことは、孔子が米国建国の父らに与えた影響の大きさを示していると思う。

ただ、中国人からすれば、孔子を立法府に結びつけることは奇妙に思えるかもしれない。孔子は法の権威を説いた法家ではなく、素晴らしい心を持ち、その心の在り方を行為に反映させることを強調した儒家に属する人物だからだ。ただ、米国人は孔子を尊敬していても、法家と儒家の違いまでは分からなかった。だから、中国文明を象徴しようとした際に、なじみがあったのは孔子だけだった。そして、孔子を道徳の手本と考え、世界の伝統の一部を代表する人物として選んだわけだ。

■かつてと異なり、今では中国の伝統を見下す人が冷えた

米国では建国の父らをはじめとして、多くの知識人は中国の伝統を尊重し、中国人に好感を抱いてきた。しかし現状を見れば、米国人の中国や中国文化に対する態度は非常に複雑だ。中国の伝統を見下し、中国人を尊重しない人も多い。

私の考えでは、大多数の米国国民あるいはアメリカ社会の主流は、中国の哲学思想を誤解している。孔子やその他の中国の哲学者の言葉を借りるが、自分の主張を補強するためにだけ使っている場合が多い。米最高裁の故アントニン・スカリア判事は、中国哲学に対する米国人の一般的な誤解を、「フォーチュン・クッキーの中の神秘的な格言」とみなしていると述べた。

フォーチュン・クッキーとは米国生まれの中国菓子で、中に「おみくじ」が入っている。中国では古くからの含蓄がある言い回しが尊重されてきた。それらは中国哲学の分かりやすい表現と言ってよい。実際には説得力に富む論証と精緻な分析を示す文言なのだが、米国人の多くは理解できずに、単なる神秘的な文句と思っている。

高等教育機関における中国哲学の扱いも不足している。哲学博士を養成する米国の大学100校のうち、中国哲学に関するカリキュラムを設けている大学は約13%にすぎない。私は、この状況が少しでも変わることを願っている。

希望はある。というのは、古い世代のアメリカの哲学者は中国哲学について非常に狭い見方をしがちだが、私は博士課程の学生であれ助教授であれ、若い世代の哲学者の方がはるかに開放的な考えを持っていることに気づいたのだ。だから未来については楽観している。人々が中国哲学に触れる機会は、もっと多くなるはずだ。

■多くの米国人はギリシャの哲人が「個人主義」でなかったことを忘れ中国を誤解

西洋の政治哲学では、個人主義の影響が大きく、人が持つ「利己的」な動機が強調される。しかし、さらに古いプラトンやアリストテレスのような西洋哲学者は、人間が社会の一部であることを強調した。この方向性は儒教に近い。問題は、現代西洋の政治哲学が、自らの古い時代の哲学を無視していることだ。中国人は問題解決のための人と人の協調を重視する。しかし米国人は、このことを理解していない。だから誤解が生じる。

中国において、儒家思想は伝統文化における重要な構成要素だ。米国は中国文化と儒家思想をもっと理解すべきだ。米国と中国は世界の二大大国であり、将来的に長期にわたる実り多い成果を獲得するためには、互いに理解しあう必要があるからだ。

中国人の多くは、米国文化をある程度までは知っている。しかし米国人は今も、中国文化について極めて無知だ。米国前大統領が4年間にわたり中国に対して否定的な態度を取り続けたため、中国語を学ぶ米国人は減少してしまった。

もし、現在の米中関係の構築について、孔子の言葉の中でわれわれに教えてくれるものを一つ選べと私に問うならば、私の答えは「おのれの欲せざるところを、人に施すなかれ」だ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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