中国新聞社 2022年10月23日(日) 23時0分
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中国は労働力集約型かつエネルギー浪費型の低コストの製造業で「世界の工場」の地位を獲得したと言われてきた。しかし状況は大きく変化しつつある。例えば中国は、「3060ダブルカーボン」という目標を宣言した。
中国は、労働力集約型かつエネルギー浪費型の低コストの製造業で「世界の工場」の地位を獲得したと言われてきた。しかし状況は大きく変化しつつある。例えば中国は、「3060ダブルカーボン」という目標を宣言した。つまり2030年までに二酸化炭素など地球温暖化物質の排出が減少に転じる「カーボン・ピークアウト」を、2060年までには地球温暖化物質の排出を“差し引きゼロ”にする「カーボン・ニュートラル」を実現させる方針だ。中国はいかにして「3060ダブルカーボン」を達成しようとしているのか。中国人民大学環境学院の龐軍院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、自国の「3060ダブルカーボン」を巡る状況を解説した。以下は龐院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■石炭火力が多い中国で炭素削減には困難も、「市場原理」の導入は有効
中国のエネルギー構造は今も石炭火力の比重が極めて大きく、炭素排出削減には大きな困難がつきまとう。また、先進国は炭素削減計画を発表した時期に基本的に、工業化の後期段階に達していた。そのため、多くの高汚染、高エネルギー消費、高炭素排出産業が発展途上国に移転された。中国は、そのような状態から出発せねばならなかった。
中国は石炭を中心とする基本的国情を踏まえた上で、エネルギー使用効率を大幅に引き上げ、単位GDP当たりの炭素排出量の低減に取り組んでいる。そして新エネルギーや再生可能エネルギーの発展に力を入れた。水力発電、風力発電、太陽光発電の設備規模は世界の上位となり、電気自動車も急増している。これらはいずれも炭素排出の削減に役立っている。
中国の炭素排出の削減の取り組みでは「1+N」と呼ばれる方式を採用したことも特徴だ。「1」とは中央が制定した全体計画、いわゆるグランド・デザインを指す。そして各産業が個別に具体的な日程表や道筋を明確にした。エネルギー関連、工業、都市と農村の建設、交通運輸など各分野がダブルカーボンの実施策を打ち出し、段階的に秩序立てて推進している。
中国の特徴としては西側諸国と比較して、炭素削減に加えて大気汚染の防止にも力を入れていることがある。排出削減の対象とされているのは、窒素酸化物や揮発性有機物、二酸化硫黄などだ。
中国のもう一つの特徴には、世界最大規模の炭素市場を構築したことがある。これは、企業ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠が余った企業と排出枠を超えて排出してしまった企業が市場原理に基づいて「排出枠の取引」をする制度だ。つまり、炭素削減に努力し成果を出した企業は現実的な利益を獲得できるようにすることで、企業努力を誘発する方法だ。1997年に制定された京都メカニズムも、この方式を採用している。
中国は今後、全国統一炭素市場に自主排出量削減(CCER)取引の認証、炭素税、再生可能エネルギー割当量、再生可能エネルギー取引制度、グリーン電力証書取引制度などの措置を導入して、エネルギー消費の多い業界を対象とした効果的な炭素削減手段を形成していく。
■海外の資源に過度に依存すると、エネルギー政策の推進にリスクが生じる
脱炭素の取り組みには、国際情勢も影響する。例えばウクライナ問題が原因で、EC各国はロシア産天然ガスの入手が困難になった。北半球は間もなく、本格的な冬を迎える。エネルギー安全保障は低炭素化やエネルギー転換よりも優先される。冬の暖房などエネルギー需要の問題を解決するため、ドイツやイタリアなどで石炭火力発電を再開したり、石炭火力発電所の閉鎖時期を遅らせたりする可能性がある。これは2030年末までに1990年比で温室効果ガス排出量を55%削減するというEUの目標にも影響を及ぼす可能性がある。
しかし長期的にみれば、各国は低炭素に向かって進むことになるだろう。ウクライナ危機が継続すれば、欧州はエネルギー転換の道筋を再考する可能性がある。まずはロシアへのエネルギー依存度を低下させ、エネルギー供給の多様性を拡大する。さらに太陽エネルギー、水素エネルギーなどのエネルギー開発を加速するなどで、再生可能エネルギーの開発に力を入れることになるかもしれない。
中国のエネルギー転換については、ウクライナ危機の直の影響はさほど顕著ではない。中国のエネルギー構造は石炭火力が中心で、ロシアが供給する天然ガスへの依存度はそう高くないからだ。しかし欧州のエネルギー危機は、中国にも示唆を与えた。つまり海外のエネルギー資源に過度に依存することは、自国のエネルギー安全保障に潜在的なリスクを生じさせるということだ。
■各地域の条件を配慮し、それぞれが納得して実現できる施策の制定を
中国では地域によって産業構造が違うので、炭素排出削減も方向性を個別に設定せねばならない。経済が相対的に発達している東部地区は伝統産業の改造と技術革新をさらに強化し、高付加価値のハイテク産業、デジタル産業などの外向型経済を発展させ、国際競争力を高めなければならない。
中部地区は重化学工業の比率が相対的に高い。そのため産業のモデルチェンジ・アップグレードの推進を加速し、高消費・高排出・低付加価値型の生産を低消費・低排出・高付加価値型に転換し、第三次産業の発展も推進ぜねばならない。西部地域は将来的に中国の新エネルギー産業の重要拠点として、その他の地域に良質なクリーンエネルギーを提供できる。
中国は人口密集地の大気の質を改善するために、大都市周辺の特定分野の工場を移転させた経験を持つ。この場合に重要なのは、汚染物質を多く排出する施設を、そのまま別地域に移転させてはならないことだ。そんなことをしたので、国全体としての改善は実現しない。
炭素削減については、各省に公平さをもたらす施策が必要だ。そのためには、まず炭素排出の空間分布特性を十分に考慮し、各省の炭素排出削減責任を科学的に定義せねばならない。割当量の設定が緩すぎれば、削減に貢献できない。特定の省を締め付けすぎれば、省の産業に大きな影響をもたらす。そうなれば不満が高まってしまう。炭素割当量は適度で、調整の余地を与え、各省がエネルギー構造を段階的に調整する時間を与えねばならない。
中国は現在のところ、世界最大の温室効果ガス排出国だ。炭素排出の削減が、世界全体の排出削減に貢献はすることは疑いない。また、中国が「ダブルカーボン」の理念を実践することを世界に示せば、他国は中国の行動や措置から、経験と参考事例を提供することになる。そして、全世界的に炭素削減の風潮が強まれば、一部の消極的な国に圧力がもたらされる。
さらに中国には、低炭素の推進により、多くのビジネスチャンスがもたらされる。例えば、再生可能エネルギーへの注力や、新エネルギー車の研究開発は、いずれも社会全体のデジタル化に関係する。これは一部企業の新分野でのビジネスチャンス形成を意味し、国の新エネルギー技術革新の加速にも役立ち、さらには世界の新エネルギー技術の発展を促し、経済と生態環境維持に、二重の恩恵がもたらされることになる。
米国は、2007年に「カーボン・ニュートラル」への動きを始めた。目標達成は2050年で、43年をかける計画だ。EUの場合には、スタート時点から目標達成まで70年をかける。中国は、宣言から目標達成までにかける年月はわずか30年間だ。このことからも、中国が「脱炭素」に極めて真剣に取り組む決意を固めたかが分かるだろう。(構成 / 如月隼人)
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Record China
2022/10/21
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