習近平主席が東南アジアで外交攻勢、20カ国首脳と会談―改革開放、ゼロコロナ緩和もアピール

八牧浩行    2022年11月21日(月) 14時30分

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11月にASEAN関連首脳会議、20カ国首脳会議(G20サミット)及びアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などがカンボジア、インドネシア、タイで開催され、習近平主席が活発な外交活動を展開した。

11月にASEAN関連首脳会議、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)及びアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などがカンボジア、インドネシア、タイで開催された。一連の国際会議に第20回共産党大会で3期目続投を決めた習近平国家主席が出席し、活発な外交活動を展開した。岸田首相、バイデン米大統領をはじめ日米韓仏豪、フィリピン、オランダ、カナダ、南ア、スペイン、セネガル、シンガポール、アルゼンチンなど20カ国以上の首脳と会談した。ベトナムとドイツのトップは事前に訪中、北京で会談した。

また台湾半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)創業者の張忠謀氏とも会談した。同氏は19日タイ・バンコクで記者会見し、台湾代表として参加したAPEC首脳会議で、習主席と18日に会い、10月の共産党大会成功に祝意を伝えたと明かした。習氏は張氏の体調などについて触れ「楽しく、礼儀正しく」やりとりしたという。

◆主役は習近平氏?

一連の会議や会談で習氏は微笑みながら前向きのシグナルを送った。日頃、仏頂面でこわもての印象がある習氏のソフトモードへの「変身」は世界中の耳目を集めた。結果的に中国の存在感が高まり、「今回の国際イベントの陰の主役は習近平氏」(会議筋)との見方も出るほどだった。

習氏は、「各国がより包容的、より包摂的、より粘り強いグローバルな発展を推進すべきで、イデオロギーで線を引き、ブロック政治や陣営間の対立に関与することは、世界を分断し、世界の発展と人類の進歩を阻害するだけだ。分裂と対抗はどちらの利益にもならず、団結と共生こそが正しい選択だ」と訴えた。さらに「グローバル発展イニシアティブ」「デジタルイノベーション協力のための行動計画」「南北国家間デジタルデバイド(格差)の縮小」「一帯一路(海と陸のシルクロード)推進」などを矢継ぎ早に提唱。その上で、「G20は発展途上国の食糧やエネルギー安全保障を考慮し、生産、備蓄、資金、技術などの面で必要な支援を行うべきだ」と呼びかけた。

◆米中首脳会談、「台湾は平和的対応」確認

注目すべきなのは、バイデン氏との3時間半に及ぶ会談。2大国のトップ同士の対面での率直な対話は、世界の安定やグローバルな課題の解決に欠かせず、歓迎すべきである。バイデン氏がこの会談で「競争を衝突に変えないよう責任を持って管理し、意思疎通の手段を維持すべきだ」と呼びかけ、習氏も「世界は中米が関係を適切に処理することを望む」と応じ、閣僚はじめ各レベルでの対話推進で合意したのは大きな成果である。

経済、地球温暖化多くの分野で協力を推進することになったのも建設的だった。焦点の台湾問題でも、米側が「一つの中国」政策の堅持を約束し、「平和的な対応」を両首脳が確認したことは重要である。

米国のハリス副大統領とも19日に、APEC首脳会議開催中のタイ・バンコクで会談した。ホワイトハウスによると、ハリス氏は会談で、米中首脳会談を踏まえ、「米中間の競争を責任を持って管理するため、(両国の)意思疎通を続けられるようにしなければならない」との考えを改めて伝え、習氏は「バイデン氏との会談は戦略的かつ建設的であり、中米関係を次の段階へ導く重要な意義を持つ。双方がさらに相互理解を深め、誤解や誤った判断を減らし、中米関係が健全で安定した軌道に戻るよう共同で推進していきたい」と語ったという。米中首脳会談を経て部門ごとの対話も再開しつつある。米通商代表部(USTR)のタイ代表と中国の王文濤商務相がバンコクで早速会談した。貿易問題を中心に議論し、今後も協議を続けることで一致したという。さらにブリンケン国務長官が訪中して米中協力について具体策を詰めることになった。

上海協力機構BRICSが存在感

G20やAPECなどの枠組みは開発途上国が大半を占める点で、G7(先進7カ国)と大きく異なる。今回会議などでユーラシア大陸を網羅する上海協力機構の存在がクローズアップされた。正式加盟国は、中国、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、ウズベキスタン、インド、パキスタン。オブザーバーは、イラン(2023年から正式加盟が決定)、モンゴル、ベラルーシ、アフガニスタン。対話パートナーとしてスリランカ、トルコ、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、エジプト、カタール、サウジアラビアが参加する。

このユーラシアを網羅する国際的枠組みに、BRICSのブラジルと南アフリカという資源大国が加わる。中国の人民元を基軸とする国際決済システムに繋げる狙いがあり、中長期的に実現すれば、ドルの国際決済システムにおける基軸通貨という地位は脅かされる。

 

こうした中、岸田首相は11月17日夜、訪問先のタイ・バンコクで中国の習近平国家主席と約45分間会談した。両首脳による対面での会談は初めて。日中首脳会談は安倍政権時代の2019年12月以来3年ぶり。会談の結果、建設的かつ安定的な日中関係構築で一致した。日中関係の改善に向け道筋が開けたと言えそうだ。

冒頭、岸田氏と習氏は笑みをたたえながら握手した。習氏がまず「現在世界情勢は激しく変化しているが、両国は隣国として世界とアジアの繁栄重要な責任を負っている。新たな時代に中日関係の発展を構築したい」と呼びかけた。岸田氏は「日中間には大きな可能性と課題がある。平和と繁栄への責任を負っている。双方の努力によって建設的かつ安定的な日中関係を構築したい」と呼応した。

ウクライナ情勢に関し「ロシアは核兵器を使用してはならず、核戦争をしてはならないとの見解で一致。また両国の防衛当局が偶発的な衝突を防ぐために連絡を取り合う「ホットライン」の早期運用開始や、外務・防衛当局の高官による「日中安保対話」などを進めていくことを確認した。閣僚間の対話再開でも一致し、林外相の中国訪問に向けて調整することになった。

このほか両首脳は、環境や省エネを含めた経済分野、医療・介護などの分野での協力を推進するとともに、ハイレベルでの経済対話や人的・文化的交流対話を早期に行うことで合意した。日本は最大の貿易・投資相手国である中国との関係改善に向けた協力を求めた。中国にとっても、米中対立が激化する中で日本との協力を重視している。日中間の課題が山積する中、首脳同士の対話はますます重要になる。今回は国際会議を活用した形だったが、「日中新時代」に向け相互訪問を期待したい。

◆世界企業にエール、各国経済界が安堵

一連の国際会議や二国間首脳会談を通じて、習主席は「改革開放」路線を継続することをアピールした。経済での結びつき強化を約束した。さらに厳しい移動制限や隔離、ロックダウン(都市封鎖)は、中国でのビジネスを予測不可能にしているが、これらゼロコロナ政策の緩和策も示唆した。中国のコロナ死者は累計(19日現在=米ジョンズ・ホプキンズ大学集計)で1万5809人と米国(107万7020人)、ブラジル(68万8907人)、インド(53万0570人)、日本(4万8066人)などに比べ、人口対比で著しく少ないことを説明した上で「効果が出ており目的を達成した」と説明した。これらの言及は、中国との経済的依存度が高い、米欧を含む各国の経済界を安心させた。

エジプトで開かれた国連の気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP)で最終日の20日、温暖化による「損失と被害」を支援する基金の創設が合意された。中国など途上国が長年求めてきた基金の設立は画期的。中国の解振華・気候変動特使の働きかけが奏功した形だ。

インド太平洋地域の国々は米国と中国の対立の激化を望んでおらず、日本の役割は重要である。今年は国交正常化から50年にあたる。首脳同士が関係強化の重要性を確認した意義は大きい。南シナ海の領有権をめぐって東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は2002年に行動宣言を結んで自制と協調を目指した。

◆アジア太平洋諸国は中立と自立性を志向

アジア太平洋諸国は米中の覇権主義的な動きから一線を画し、中立と自立性を確保することを志向している。日中両国は隣国として共存の道を探るとともに、アジアの安定と繁栄に寄与しなければならない。日本が米国と一体化してこの地域に「米国か中国か」と二者択一を迫れば、経済支援、技術支援を地道に積み上げて築いてきた日本への信頼を失う。この地域で培った日本への信頼を土台に、米中双方に対して緊張緩和を呼びかけるなど、日本にしかできない役割を追求すべきである。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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