「星の王子様」が人類の危険な未来を暗示?―中国人哲学者が世界認識を披露

中国新聞社    2022年12月17日(土) 23時0分

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中国人哲学者である劉梁剣は、80年前に書かれた「星の王子様」に登場するバオバブは、今の人類を滅ぼしかねない脅威をも象徴していると語る。なお、バオバブはアフリカで実際に生えている木だ(写真)。

フランス人作家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900-1942年)が著した「星の王子様」をお読みになったことがあるだろうか。この物語は中国でも、小中学生に読ませるべき本に指定されているなどで、かなり有名だ。華東師範大学(本校所在地・上海市)人文学科群哲学科の劉梁剣教授は、今から約80年前に発表された「星の王子様」には、現在の人類の危険な状態を暗示するエピソードがあると語る。いったい何のことなのか。以下は、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、現代社会についての見方を語った劉教授の言葉に、若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■すぐに見つけて除去しないと世界は破滅する

哲学は、書斎の中だけの学問ではない。誠実な哲学者は、常に現在の生活世界に向き合い、時代の脈拍を実感し、時代の主要な矛盾を把握し、さらに哲学の主張を練り上げなければならない。中国の古人は「君子、時中す」と言った。これは儒教の経典である「中庸」に書かれている言葉で、「時中」とは、その時その時の状況に応じて過不足ない言動を行うということだ。世の中の状況に無反応なのでは明らかに「不足」しており、それでは立派な人物とは言えないことになる。

われわれは今の時代にあって、人類文明全体の進化の脈絡の中で自分がどのような「時」にいるかを理解し、人類文明がどこへ向かうのかを考える必要がある。世界の秩序は新旧交代の大変局に直面している。世界は思いもかけなかったほど急変しつつあり、波乱に満ちている。

サン=テグジュペリが「星の王子様」を描いたのは、第二次世界大戦中だった。この書物は童話に分類されることもあるが、人の根源的な境遇を見抜いている面がある。例えば、王子様が暮らすB 612という小惑星はとても小さく、王子様はバオバブという木が芽生えていないか、いつも調べている。バオバブはすぐに巨大になるので、バオバブの芽があったら引き抜いておかないと、バオバブの根が星を裂いてしまうのだ。実際にバオバブを放置していたために、破壊されてしまった星もあるという。

このエピソードは作者による挿絵も添えられている。作者は、「この絵に特に力を入れて描いたのは、友人らにこのような危険が存在していることを思い出させるためだ。彼らも私のように、身の回りに潜んでいた危険に気づいていなかった」と話している。

このバオバブの木は、ファシズムを象徴するとの意見がある。たしかにそうかもしれないが、私はもっと広く理解してよいと思う。人類は今、あまりにも強力になった。現在の人類にとって地球は、星の王子様が暮らしていた惑星と同様に、とても小さくなってしまったと言ってよい。一方で、われわれの存在をおびやかす物事は、いつ出現するか分からない。少しでも油断して放置すれば、驚くべき速度で巨大化する。そして制御不能になり、われわれに破滅をもたらす。

私は、人類の存在の脅かす現象の一つは、文明の衝突と考えている。そして文明の衝突が発生する大きな原因は「文明の普遍主義」だ。すなわち、自らの文明が持つ発想や方式を「普遍的に通用する」と考える。それでは、他の文明と衝突するのは必然だ。「文明の普遍主義」は克服せねばならない。

民族本位や国家本位、さらに文明本位という考え方がある。そのような考え方が全面的に悪いとは言わない。しかし今や、そのような従来型の考え方を乗り越えて、世界の前途を念頭に置く共通の価値観を確立することが急務だ。古い考えは打破せねばならない。

ここで説明を追加しておこう。「普遍」と「共通」は異なるということだ。「普遍」とはデディクト、すなわち「言に従った概念」だ。つまり「文明の普遍性」などと言う場合には、その実質はある文明が持つ価値感を抽象的概念に変えて先行させ、さらに別の文明に当てはめることだ。自らが編み出した抽象的概念で他の文明を評価することになる。

一方の「共通価値」とはデファクト、すなわち事実に即して思考することだ。多様な文明が存在する事実から出発して、文明と文明の交流、共存と共生という実情に照らし合わせ、皆が受け入れられる価値を見いだすことに努めることだ。中国が提唱する人類運命共同体はまさに、全人類が共通して受け入れるべき価値観としての提唱だ。

■「文明の衝突」を回避するための発想の転換とは

よく言われる「文明の衝突」だが、もし現実のものになれば、人類に明るい未来が訪れないことは、はっきりしている。

「文明の衝突」は、米国人政治学者のサミュエル・ハンチントン氏が1996年に著した国際政治学の著作で注目され、極めて大きな影響力を持つようになった。ただ、われわれはハンチントン氏の主張をやや誤解しているかもしれない。例えば、「文明の衝突」という著作の原題は「The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order(文明の衝突と世界秩序の再構築)」だ。しかし「文明の衝突」の言い回しだけが特別に注目されるようになった。

ハンチントン氏は、「文明の衝突」について「問題や仮説を提起しようとしたものだった」、「書名が持つ問題は一般的に無視された」と論じている。突き詰めてみると、ハンチントン氏は文明の衝突の現実と潜在的な脅威を強調しているだけで、文明の衝突を鼓舞しているわけではない。「文明衝突論」の主旨は、米国に代表される西側の普遍主義を放棄して、文明の衝突を避けることにある。彼は、「到来しつつある時代において、文明の衝突は世界平和に対する最大の脅威であり、多文明に基づく国際秩序は世界大戦を防ぐための最も確実な保障だ」とも書いている。文明の衝突を避けるための鍵は、文明が共存するためには特定の文明の特徴を普遍的なものとして他の文明に広めていくのではなく、大多数の文明の共通点を求めることだ。多くの文明が存在する世界において建設的な道は、普遍主義を退け、多様性を受け入れることと共通性を求めることだ。

人類は巨大な力を持つようになった。争いや衝突、さらには戦争によって一国だけの利益を図ることは、仮に当初は規模が小さく「目立たないバオバブ」であったとしても、すぐに引っこ抜かないと大変なことになる。(構成 / 如月隼人

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