<ウクライナ危機>奪還は55%のみ―市民生活を破壊する「エネルギー・テロ」の残酷さ

村上直久    2023年1月1日(日) 9時0分

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ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以来10カ月、”消耗戦“の様相を呈してきた。

ウクライナ戦争は”消耗戦“の様相を呈してきた。ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以来10カ月。最近では南部の要衝ヘルソンを奪回するなどウクライナ軍の反転攻勢が目立つようになったが、ロシアが侵攻開始以来、占領した地域の55%しかウクライナ側は取り戻していない。言い換えれば、ロシアは東部、南部を中心にウクライナ国土の約5分の1を依然として支配下に置いている。こうした中で、ロシア軍は10月以来、発電所と変電施設を中心とするインフラ関連設備をミサイルやイラン製ドローンで波状的に攻撃。計画停電や緊急停電などの実施に追い込み、市民生活を混乱させている。

◆激しい砲撃

領土をめぐる攻防で中心的な役割を果たしているのは大砲だ。ウクライナ戦争における砲弾の使用量はすさまじい。米紙ニューヨーク・タイムズによると、ウクライナ軍は1日当たり数千発を発射、これは米軍を中心とする北大西洋条約機構(NATO)軍がかつてアフガニスタンで記録した1日当たり約300発を大幅に上回る。欧州外交評議会の軍事専門家は、「ウクライナでの1日分は、アフガニスタンでの1カ月分、場合によっては数カ月分に相当する」と指摘した。NATO関係者によれば、今年の夏には東部ドンバス地方でウクライナ軍は1日当たり6000~7000発、ロシア軍は4万~5万発を発射していた。

米国における1カ月当たりの砲弾生産能力は1万5000発にしか過ぎず、NATO関係者の間ではウクライナが使用に慣れている旧ソ連製の大砲・砲弾の調達にウクライナは躍起になっているという。こうした中で、NATOではチェコやスロバキア、ブルガリアにある老朽工場を再稼働させ、旧ソ連モデルの砲弾をウクライナ向けに製造する構想も議論されている。

◆600万人に影響

ロシアはウクライナの電力施設などエネルギー関連インフラへのミサイルやドローンなどを使用した攻撃で、大規模な停電を引き起こし、冬が到来しつつあるウクライナの約600万人の市民から電気と暖房を奪い、寒さと闇の中に追いやっている。ロシアは”冬を武器化“しようとしている。ロシア軍はウクライナの上下水道施設もターゲットにしている。

ロシア軍の攻撃は執拗で、同一施設に対して5回も6回も攻撃しているとされている。修復作業が進行中の施設を狙うこともあるという。

ロシアはこれまでウクライナのエネルギー・インフラの約40%を破壊したという。ウクライナのゼレンスキー大統領は国連安全保障理事会の緊急会合へのビデオメッセージで、ロシアの攻撃を「エネルギーテロ」として非難。西側の法律専門家は、これは「戦争犯罪だ」と決め付けている。

ウクライナ政府は国内の約4000カ所で発電機などを備えた施設を整備し、市民が暖と明かりを取ることができるようにしている。

ロシアはウクライナ国民を厳冬期に惨めな状態に追いやり、厭戦ムードを醸成しようとしているが、ウクライナ国民の戦意が減退した様子はみられないようだ。

◆戦争の終わり方

米国のミリー統合参謀本部議長は、「ロシア―ウクライナ戦争に軍事的解決はなく、戦争を終わらせるには外交的解決が必要だ」と発言。従来、「和平の条件を打ち出し、もしあるとすれば、いつ協議の用意があるか決めるのはウクライナである」との方針を堅持してきたバイデン政権をあわてさせた。

ミリー氏の発言の背景には、ウクライナでは大規模な軍事行動が続いているが、ウクライナ国境近くのポーランドの村に11月15日、ミサイルが着弾し、2人が死亡したことを受けて、NATO内に緊張が走ったことがある。ウクライナで大規模な軍事行動が続く中で、ポーランドでの出来事は、ウクライナで戦争の偶発的なエスカレーションが起きて核兵器の打ち合いとなり、第三次世界大戦が勃発する危険が現前することを改めて認識させることとなった。

ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領はプーチン氏に対する不信感が強く、プーチン政権とは交渉しないと明言している。

今後のシナリオとして、米ブルームバーグ通信のコラムニスト、レオニード・バーシドスキー(Leonid Bershidsky)氏は、1:ウクライナの軍事的勝利、2:プーチン体制の終焉、3:ロシアにウクライナ占領地の一部保持を認める裏取引、4:ロシアにウクライナ東部、南部の併合と、ウクライナに傀儡(かいらい)政権の樹立を認める、ロシアの軍事的勝利、5:西側に対するロシアの”戦略的敗北”(これにはロシアの一部占領、非プーチン化、非ナチ化を含む)の5通りを挙げている。

同氏は、NATOの介入がない限り、戦争を早急に終わらせる現実的な方法はないとみている。このことはウクライナとロシアの兵士が1000人単位で戦死し続けることを意味する。

バーシドスキー氏は、NATO軍の介入があってもロシア指導部は必ずしも核の使用に踏み切らないだろうとの楽観的な見方を表明している。

ウクライナ戦争は越年し、消耗戦が当分続くことは確実とみられる。

■筆者プロフィール:村上直久

1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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