インドは中国に代わって「世界の工場」になるか

吉田陽介    2023年1月31日(火) 6時0分

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中国ビジネスを語る場合、中国の体制やその他の要因からくる「チャイナリスク」論がよく聞かれる。その際、「次はインドの時代だ」という声がある。

中国ビジネスを語る場合、中国の体制やその他の要因からくる「チャイナリスク」論がよく聞かれる。その際、「次はインドの時代だ」という声がある。中国とインドは、人口大国で、急速な経済発展を実現したという共通点があるのがその一因だ。

中国はこれまで「世界の工場」といわれ、世界の有名企業の製品を加工して輸出してきたが、賃金コストの上昇などにより、インドに取って代わられる可能性が指摘されている。

1月8日に中国の「呉暁波チャンネル」というアカウントに掲載された「中国を『パクる』、ベトナムは皮、インドは根をまねする」という記事は、インドが中国に代わって「世界の工場」になる可能性について、経済面、産業面から論じた。

まず経済について、記事は、インドの国内総生産(GDP)の伸びに注目した。2022年の同国の1~3月期のGDPは前年同期比7.7%増で、世界10大経済国の中で第1位だったのに対し、中国はコロナ禍の影響もあって3%だった。国際通貨基金(IMF)の予測によると、2022年のインドのGDP成長率は7.4%に達し、世界平均を大きく上回るパフォーマンスだった。

12月12日に『参考消息』に発表された記事は、S&Pの予測がインドの名目GDP成長率が今後2030年までの年間平均6.3%に達すると試算し、モルガン・スタンレーは2031年までに同国のGDPが現在の2倍以上に増加すると予測していることから、「インドは日本とドイツを抜き、世界第3位の経済大国になる」と見られるとした。

次に、産業について、「呉暁波チャンネル」記事は、インドの自動車産業と電子製造産業に注目し、自動車販売台数は過去2年連続で2ケタ増となり、世界1位となっていることと、電子製造産業も存在感を高めていると指摘した。

アップルはそのケースの一つだ。中国のコロナ対策によってiPhoneの生産能力が低下したことを受け、最新のiPhone14の生産ラインの一部をインドにシフトした。

記事は、現在のインドにおけるiPhoneの実質生産能力は約5%と指摘し、2025年までにインドで生産されるiPhoneは世界での生産の約25%を占めるというJPモルガンの予測を紹介した上で、今後5年間でこの数字が35~40%に上昇するという予測を示した。

このように、インドは経済面と産業面で、中国に代わって「世界の工場」になるという勢いがあると見られるが、その要因は経済発展戦略にもある。

「自国の製造業を発展させよ」 インドのとった輸入代替戦略

2014年からモディ政権は、「メード・イン・インディア」を掲げ、国内製造業の振興に力を入れた。国内産業の保護のため、外国製品に高い関税をかけた。それは「内向き」の経済政策といえるが、外国企業の誘致にも熱心で、国内生産を行う外国企業には優遇措置が取られた。この政策は輸入代替を目指すものだ。

輸入代替戦略が後発国のインドにもたらすのは、自国の巨大市場を引き換えにした技術の獲得、または企業の合併・買収(M&A)などによって輸入品の大規模な現地生産を完結すること、サプライチェーン分野の誕生というメリットだ。

ハイテク企業の工場が自国に拠点を置いていれば、雇用の創出だけでなく、その国のサプライチェーンの高度化にもつながる。

「呉暁波チャンネル」記事は、アップルの例を引いてインドの輸入代替戦略について述べた。記事はこう述べる。

アップルは世界1位の科学技術企業だが、同社の産業チェーンの一員になるためには、まずサプライヤーが業界TOP5を達成しなければならず、またアップルの厳しい技術的要求をクリアしなければならず、一部の要求は業界トップの量産技術の水準を上回ることもある。次に、アップルはサプライヤーとともにデバイスを研究開発しており、両者間の多くの特許には「クロスライセンス」が存在する。アップルの指導と厳格な要求のもと、現地のデバイスメーカーは、巨大なイノベーションの可能性を探ることによって、細分化された分野の輸入代替を完成させることができる。

高度な技術を持つ企業を自国のサプライチェーンに組み入れることによって、自国産業の高度化が促進され、一部製品の生産は輸入に頼る必要がなくなる。

「呉暁波チャンネル」記事は、インドは中国の成功体験に学んでいるような面もあると指摘する。

京東方科技集団(BOEテクノロジーグループ)はこれまでOLEDパネル(有機EL)で独占的地位にあったサムスンを猛追して、「独占状態」を打破し、世界の液晶パネル市場の4分の1を占めるようになった。

また、サプライヤーの製造能力と研究開発能力の進歩により、中国の新興科学技術企業はハイエンド製品の設計・ルートおよびコア技術の研究開発に専念する力を持つようになった。例えば、シャオミ(小米)のエコチェーンにあるスマートブレスレットや空気清浄機、DJIのドローンなど、製品に含まれる質の高い部品の多くはアップルの産業チェーンにあるメーカーからのものだ。

2014年にインドは「段階的製造プログラム(PMP)」を打ち出し、完成品の輸入ではなく、国内生産を促すために、各種部品の関税率を段階的に引き上げた。この政策は、外国企業がインドに工場を段階的に移転せざるを得ないような状況をつくり出すことを目的とするものだ。PMPはまず携帯電話産業で用いられ、その後、家電やカメラなどの分野にも広がった。

PMP実施後、インドの電子産業の生産額は、2016年には371億ドルだったのが、2020年には750億ドルに倍増し、上昇傾向にある。そのため、インドは、アップルが中国から生産能力の一部をシフトする機会を逃すことはないだろう。

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