中国人は2000年以上前に「空気汚染防止策」を実用化―専門家が証拠の出土品を紹介

中国新聞社    2023年2月11日(土) 23時0分

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古い時代の人々は、夜間に室内に明かりを得るために、油に芯を浸して点灯した。出て来る煙は空気を汚濁した。中国では紀元前から、煙の出る量を減らして室内の空気の清浄さを保つ照明器具(写真)が使われていた。

現代人は、大気汚染が健康被害をもたらすことを知っている。外気だけではなくて室内の空気が汚染されていても、病気の原因になる場合がある。いずれにせよ、「どのような場所でも空気はできるだけ清浄に」は現代人とって常識だ。しかし中国では2000年以上に前から、室内の空気の汚濁を防止する照明器具が使われていたという。河北博物院学術研究部研究館の范徳偉研究員はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、自らも研究に携わる河北省の満城漢墓で出土した照明器具などを例に、当時の状況を紹介した。以下は范研究院の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

審美の基準が大きく変化、室内の空気の汚染防止にも知恵

この長信宮灯と呼ばれる照明器具は、今から2000年以上前の前漢(紀元前202年-紀元8年)の初期に作られたものだ。中山靖王だった劉勝(紀元前159年ごろ-同113年)の墓である河北省保定市満城県の満城漢墓で出土した。劉勝の妻を埋葬した際の副葬品と考えられている。本体に「長信」という文字が刻まれているために「長信宮灯」と呼ばれるようになった。

素材は青銅で、金メッキが施されている。全体の形は若い宮女がひざまずいて、燈明の容器を掲げている様子を示している。それまでの青銅製の器具の形態は神秘的で重厚だったが、長信宮灯は一転して軽やかで華やかな作風だ。優美であり同時に素朴でもあり、美術品としての価値も極めて高い。

この照明器具の高さは48センチだ。当時の中国人は、椅子に座る現代中国人とは違い、床の上に座り、その高さに合わせた低い机を用いていた。この照明器具は当時の机の上に置けば、明かりを得るのにちょうどよい高さになる。また、火を灯す部分が円筒形の筒の中にあり、その扉を開閉することで明るさを調整することもできる。この照明器具の製作水準は、漢代の照明器具の中で最高だ。

最大の特徴は、ランプ部分にカバーと、それにつながる煙導管が取り付けれていることだ。煙は宮女の体をした容器の内部に導かれ、すすとなってこびりつく。しかし全体を簡単に分解することができるので、掃除は容易だ。そして、煙が煤(すす)となって容器の内部にこびりついた分だけ、部屋の空気の汚染は減少することになる。

ダ・ビンチの同様のアイデア品より千数百年も先行

当時はロウソクがまだ発明されておらず、動植物性の油を皿に入れ、芯を浸して火をつけていた。そのため、明かりを得ようとすれば多くの煙が出た。この照明器具は、煙による室内の空気の汚染を軽減することを意識し、それを実現したものだ。2000年以上も前の照明器具であることを考えれば、発想もその仕組みも実に先進的た。

西洋では15世紀になり、レオナルド・ダ・ビンチが同様の考え方による、煙を誘導して室内の空気汚染を軽減する照明器具を発明した。中国の長信宮灯はダ・ビンチの発明に千数百年も先行していた。

米国キッシンジャー元国務長官は河北博物館を訪れて長信宮灯を見た際に、なかばジョーク風ではあったが「中国人は大したものだ。2000年以上前に、環境保護意識を持っていた」と、この長信宮灯を絶賛した。

この長信宮灯の「運命」については、今も不明な部分が多い。「満城漢墓発掘報告」は、最初は陽信夷侯だった劉彰の家で用いられたとの見解を示した。劉彰家の息子は漢の初期に発生した大規模な反乱の呉楚七国の乱に関連して失脚した。そのため財産は没収された。その中に含まれていた長信宮灯は、巡り巡って劉勝の妻の持ち物になったとの見方だ。しかし、この説に同意しない専門家もいる。

つまり、この長信宮灯を巡る物語は現在のところ、人々の想像力をかき立てるミステリーだ。だが、研究が進み新たな考古学上の証拠が追加されることにより、われわれは真実に迫ることができるだろう。

紀元前から室内の空気汚染を防ぐ照明器具が盛んに使われていた

漢代は、古代中国の中でも、大いなる繁栄と発展が実現した時期の一つだ。社会全体の生産力は大きく向上した。長信宮灯は美術品、工芸品としても大きな価値があり、しかも室内空気の汚染の問題を軽減した。まさに、科学技術と美術、工芸、環境思想が高いレベルで結合した器具だ。

興味深いことに、長信宮灯は漢代の「環境配慮型」の照明器具として唯一の存在ではない。例えば、江蘇省揚州市甘泉漢墓から出土した銀の象眼による模様を施した牛型の燭台も、牛の背の上に燭台がつけられているが、やはり煙は誘導されて、牛の体内に導かれる。山西省朔州市の平朔漢墓から出土した前漢時代の雁魚銅灯も、煙は魚や雁の首を通って中空の雁の体内に導かれる。これらは、中国では漢代に、室内の空気の汚染を防ぐ照明器具がすでに盛んに作られていたことを示している。

長信宮灯は作られてから2000年以上が経過した現在、改めて注目されるようになった。2022年に開催された北京冬季五輪でも、聖火をギリシャから北京に運ぶ際に用いられた容器のデザインの一部も、長信宮灯を参考にした。「長信」の文字の意味を借りて、光と希望を求める人々のあこがれを象徴する意味合いもあった。

長信宮灯は中国漢代の青銅製照明器具の最高水準を示すものであり、技術によって環境を改善するという、現代社会にとって欠かすことのできない理念を象徴する存在でもある。(構成 / 如月隼人




※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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