池上萬奈 2023年2月7日(火) 23時30分
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第二次世界大戦で、日本がポツダム宣言を受け入れて終戦となったことはよく知られているが、受諾の遅れが日本に広島、長崎の原爆投下や沖縄戦など市民の致命的な惨劇につながった事実は重い。資料写真。
第二次世界大戦で、日本がポツダム宣言を受け入れて終戦となったことはよく知られているが、受諾の遅れが日本に広島、長崎の原爆投下や沖縄戦など市民の致命的な惨劇につながった事実は重い。
果たしてポツダム宣言の全文を読んだ人はどのぐらいいるのだろう。第一次世界大戦で負けたドイツに課した多額の賠償が第二次世界大戦を生み出したという観点から、ポツダム宣言では、日本に多額の賠償を課すことはなかった。そして日本が受諾し、民主主義政権が誕生した後には、明るい希望が持てる内容になっていたのだ。
ポツダム宣言は、1945年7月26日ベルリン郊外のポツダムで米国トルーマン、英国チャーチルとアトリー、ソ連スターリンによって、米・英・中華民国の名前で発せられた日本に対する降伏要求の最終宣言である。ソ連は対日宣戦布告をした8月8日に名前を連ねた。
13条から成り立っている文を簡潔な内容にして紹介したい。
1条 我ら米大統領、中華民国主席及び英首相は、日本にこの戦争を終結する機会を与えることで意見が一致した。
2条 米英中の巨大な陸海空軍をさらに数倍増強し、日本に最後の打撃を加える体制を整えた。日本が抵抗を終止するまでこの軍事力を持ち続ける。
3条 ドイツの無益かつ無意義な抵抗の結果は、明白な先例である。現在、日本に対する軍事力は、ナチスに対して適用した力に比べ計り知れないほど強大なもので、最高度に使用すれば日本軍は完全に壊滅し、日本国土は完全な破壊となる。
4条 軍国主義者によって引き続き統制されるべきか、または理性の経路を踏むのか、日本が決断する時期が到来している。
5条 我らは以下の条件を要求する。
6条 軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和、安全、正義の新秩序が生じえない。日本国民を欺瞞し世界征服をしようとした勢力を永久に除去しなくてはならない。
7条 そのような新秩序ができ、日本の戦争遂行能力が粉砕されたと我らが確証するまでは、連合国が指定した日本領域内の諸地点は占領される。
8条 カイロ宣言(1943年の日本の戦後処理に関する基本方針)の条項は履行されるべきで、日本の主権は本州、北海道、九州、四国と我らが決定する諸小島に限定される。
9条 日本の軍隊は、完全に武装解除された後に、各自の家庭に戻り平和で生産的な生活をする機会を得る。
10条 我らは、日本人を奴隷化したり国を滅亡させたりするつもりはない。しかし、戦争犯罪人に対しては厳重な処罰を行う。日本政府は、民主主義を復活強化し、言論、宗教、思想の自由、並びに基本的人権の尊重を確立しなくてはならない。
11条 日本は、再軍備ができるような産業を除き、経済復興のための産業を維持できる。将来、日本は世界貿易への参加が許される。
12条 以上の目的が達成され、日本国民の意思に従って、平和的で責任ある政府が樹立された時には、連合国占領軍は直ちに日本より撤退する。
13条 我らは、日本政府が直ちに全軍隊の無条件降伏を宣言することを要求する。これに従わなければ日本は迅速且つ完全な壊滅となるだけだ。
以上のような内容をもって日本に速やかな降伏を求めたが、鈴木貫太郎首相の「黙殺する」という表明を拒絶と捉え、8月6日に広島、9日に長崎への原爆投下、また日本時間9日未明、ソ連が中立条約を破棄して満州国への侵攻を開始した。このような状況を目の当たりにした日本は、9日の御前会議で「国体の護持」を条件に受諾を決定し翌日連合国に伝える。それに対する回答は、日本の政体は日本国民の自由に表明する意思のもとに決定され、国家統治の権限は連合軍最高司令官に従属するというものであった。そして14日の御前会議における天皇の決断で受諾することになる。
この日米間の戦闘によってアメリカ軍約9万人が亡くなり、負傷者は約23万人と言われている。1977年の厚生省の資料によると、太平洋戦争によって日本の軍人軍属約230万人、戦災死者数約80万人、計約310万人の尊い命が失われた。ポツダム宣言には「経済復興のための産業を維持できる。将来、日本は世界貿易への参加が許される」との融和的な表現も盛り込まれている。宣言を受諾していなかったら、その数はどうなっていたのであろう。
さらに踏み込んで、1945年7月にポツダム宣言が出された時点で受諾していたら、原爆投下もソ連の参戦による満州開拓民の悲劇もなかったのでは?無辜の民や多くの兵士の命を救うために、戦争指導者は現実を直視し「歴史の教訓」とすべきであろう。停戦合意は待ったなしである。「侵攻継続」「徹底抗戦」を命じたままの為政者の責任は甚大だ。
■筆者プロフィール:池上萬奈
慶應義塾大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)、前・慶應義塾大学法学部非常勤講師 現・立正大学法学部非常勤講師。著書に『エネルギー資源と日本外交—化石燃料政策の変容を通して 1945-2021』(芙蓉書房)等。
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