2022年12月に、21年開催の東京五輪大会にも出場した新体操の喜田純鈴（きた・すみれ）選手の現役引退が発表された。24年のパリ五輪大会でも出場と活躍が期待されていただけに、惜しむ声も強かった。この喜田選手を育てたのが、中国出身の劉宇コーチだ。香港メディアの亜洲週報はこのほど、劉宇コーチやその周囲を紹介する、毛峰東京支局長の署名入り記事を発表した。以下は、同記事の主要部分を再構成したものだ。

劉宇さんは河北省石家荘市出身だ。母親は幼稚園の園長で、歌や踊りが上手だ。父親は楽器演奏が趣味で、両親そろって芸術の天分がある。父方の祖父はロシア人の血をひいており、家族は皆、情熱的で楽観的な性格という。劉宇さんは7歳の時に新体操の専門チームに入った。応募者は200人で、わずか3人の合格者のうちの1人だった。9歳の時には新体操の国家チームに入り、1988年から90年まで連続して、中国国内大会の新体操ジュニア部門で優勝した。また、カナダや日本で行われた大会に出場して、金・銀・銅のメダルを獲得した。

劉宇さんによると、競技大会出場のために日本を訪れた際に、日本に対してよい印象を持った。現役引退後に香川県の関係者の厚意で招かれて、95年から日本で暮らすようになった。97年には香川県内でエンジェルRG日中新体操クラブを開設した。現在では岡山県と東京都でもクラブを開いている。東京都内では複数の場所で、3歳から18歳までの約200人が練習に励んでいる。中国系が2割ほどだが、残りは日本人だ。

劉宇さんは日本で100人以上の新体操の選手を発掘し、育成してきた。クラブの選手も全日本新体操クラブ大会の団体優勝、全日本団体ジュニア優勝、全日本個人選手権優勝などを成し遂げている。また、劉宇さんが育てた選手は数々の国際大会で優秀な成績を収めて日本の金看板となった。

劉宇さんは日本のメディアで、「鬼コーチ」であり、選手の訓練は軍隊にも劣らないと評されたことがある。しかし劉宇さんが20年以上にわたり一貫して抱いているのは、新体操に対する深い愛だ。だからこそ責任感も強く感じて、選手には厳格かつ諦めることなく訓練に取り組むことを求める。

劉宇さんついて特筆されるのは、東京五輪大会に出場した喜田純鈴選手を発掘して育てたことだ。劉宇さんによると、反応と運動のスピードが速いなど優れた才能を見出したのは、喜田選手が4歳の時だった。喜田選手の両親に新体操を学ぶべきと何度も勧めて、本格的に指導するようになった。

劉宇さんによると、喜田選手を育成することに精力を傾けたので、自分自身の息子の面倒を見ることも、「ほぼ断念」してしまったという。喜田選手は全日本大会で3度優勝し、東京五輪大会の選手にも選ばれるほどに成長した。

しかし喜田選手の五輪出場までの道は平たんではなかった。東京五輪出場の候補となった日本人選手は2017年から18年まで、ロシアで集中的に訓練を受けることになった。喜田選手はロシア人コーチが課した練習法や演技に適応できずに挫折し、成績は急激に悪化した。

この危機的状況にあって、劉宇さんは改めて喜田選手の個人コーチを務めることになった。2人は東京都内の国立スポーツ科学センターで合宿し、五輪候補のロシア人選手2人としのぎを削った。劉宇さんはロシア人コーチの古典的で「重厚肥大」型のトレーニング方法の弱点に気付いた。そこで、喜田選手には正統派だが見る人に楽しさを感じさせる現代的な演技の要素を強化させた。その結果、喜田選手は最終的に、五輪出場の切符を手に入れることができた。

劉宇さんは亜洲週刊の取材に対して「喜田純鈴さんは、日本代表として東京五輪の新体操決勝の舞台に登る夢を実現させた。喜田さんの努力が実ったわけであり、コーチである私が一貫して愛と責任を傾けてきた最高の結果だ」と語った。劉宇さんは、東京五輪の日本選手団の中で唯一の中国人コーチになったことを誇りに思い、これからも前進と精進を続けるとも述べた。

喜田さんは、4歳のときからずっと、劉先生の下で新体操を学んできて、最高の願いであり夢だった東京五輪に出場することができ、とても充実して幸せだったと説明した。

劉宇さんの姉の劉英さんは、ラテンダンスを専門としており、中国国内の大会で優勝したこともある。2人は「双冠姐妹花（ダブルチャンピオンの姉妹の花）」と呼ばれている。1月28日には初めて、教え子などが出演するダンスと新体操の合同発表公演を東京都内で行った。

出演した劉英さんの弟子の中には、チャチャチャを披露した浜田琉成さんと名塚舞衣さんのような、頭角を現しつつある若手の姿もあった。観客は日本人も中国人も、ラテンダンスの陽気で情熱的、あるいは優雅で美しいダンスに陶然とした。

新体操を学ぶ劉宇さんの弟子はそれぞれが、さまざまな難度の新体操の演技を披露した。その中には、喜田さんの姿もあった。観客は新体操の魅力を改めて強く感じ、絶賛を惜しまなかった。（翻訳・編集/如月隼人）