2023年の中国新エネルギー車市場は波乱の幕開け、BYD、テスラ、理想汽車が伸び、他社は苦戦

高野悠介    2023年2月24日(金) 10時0分

拡大

中国の2023年1月の自動車販売台数は164万9000台で、前年同月比35.0%減の大幅ダウンに終わった。うち新エネルギー車は6.3%減の40万8000台だった。写真はBYDの新エネ車「宋」。

中国汽車工業協会によれば、2023年1月の自動車販売台数は164万9000台で、前年同月比35.0%減の大幅ダウンに終わった。うち新エネルギー車(EV車、燃料電池車、PHEV)は6.3%減の40万8000台だった。春節休暇が早まった影響が大きく、正確な実態は1~2月トータルで考える必要がある。しかし、個々の数字を見ると、示唆に富むものばかりだ。その中から、いくつか具体的な車種を取り上げ、業界を展望してみよう。

■新エネルギー車…1月の販売ランキング

2022年12月31日、新エネルギー車の補助金制度が終了した。それに伴い、2023年の市場は波乱の幕開けとなった。1月の企業別の販売台数は下記の通り。

BYD…15万4200台、68.1%増

テスラ…6万6051台、10.3%増

理想汽車…1万5141台、23.6%増

埃安…1万0206台、36.3%減

蔚来汽車…8506台、11.9%減

哪吒汽車…6016台、45.4%減

小鵬汽車…5218台、59.6%減

AITO(問界)…4490台、445.6%増

上位3社とファーウェイ系AITOが数字を伸ばし、広州汽車系の埃安と理想以外は全滅だ。

車種別ランキングは、

宋(BYD)…4万9709台、139.9%増

海豚(BYD)…1万7582台、65.8%増

宏光MINI(上汽通用)…1万6416台、38.5%減

元PLUS(BYD)…1万4342台、617.1%増

秦(BYD)…1万4185台、46.6%減

Model Y(テスラ)…1万4185台、13.3%減

Model 3(テスラ)…1万2659台、323.7%増

漢(BYD)…1万1728台、8.3%減

唐(BYD)…8542台、3.4%減

理想L9(理想汽車)…7996台、前年実績なし

BYDがトップ10のうち6車種を占め、他社を圧している。

■BYD…ボリュームゾーン商品「宋」「海豚」

日本進出で話題となったBYDだが、中国市場でも勢いは止まらない。BYDは1995年に電池企業としてスタートし、自動車分野に進出したのは2003年だ。それから19年、2022年には中国最大の自動車メーカーに上り詰めた。同年の新エネルギー車の販売台数は前年比208.6%増の186万3494台。うち純EV車は前年比184.0%増の91万1140台、ハイブリッド車は同246.7%増の94万6239台だった。まだハイブリッド車の方が多く、伸び率も高いことには留意しておきたい。ハイブリッド車の代表が「宋」、純EV車の代表が「海豚」だ。

宋…2015年発売のコンパクトSUV。ガソリン車を含む全SUV車カテゴリーの中でもトップ。1.5Lエンジンプラス2モーターのプラグインハイブリッドで、電池のみでの航続距離は70キロメートル。価格は6万9800~14万9800元(約136万~292万円)。サイズは4565/1830/1703mm、ホイールベース2660㎜。サイズ、性能、価格のバランスがよく、買いやすい。

海豚…2021年8月発売、新世代のEV車シャシー、eプラットフォーム3.0を採用した最初のEV車。車型は小型ミニバン。価格は11万6800~13万6800元(約228万~267万円)。快速充電30分、航続距離420キロ、4125/1770/1570mm。ホイールベース2770㎜。

BYDは、ボリュームゾーンをがっちり抑え、台数を稼いでいた。さらに、日本に投入したATTO3(440万円)などの中高級ゾーンも充実の一途で、現状唯一のフルラインメーカーだ。新エネルギー車ナンバーワンの座は当面揺るぎそうにない。

■理想汽車…理想の高級車を追求

理想汽車は2015年7月に北京で李想氏により設立された。1981年生まれの「80後」ながら、すでにIT情報サービス「泡泡網」や自動車メディア「汽車之家」を創業した有名アントレプレナーだ。本社は北京、自社工場は北京と江蘇省・常州。2018年10月に初モデルの高級SUV「理想ONE」を34万9800元(約683万円)で発表し、翌年12月に納品を開始した。2020年7月に米国ナスダック市場に上場。2022年4月に理想ONEが累計販売5万台突破。2022年6月に理想L9、同年9月に理想L7、L8を発表した。いずれも高級車だ。

理想L9…理想のフラッグシップモデル、フルサイズの高級SUV。価格は45万9800元(約898万円)。5218/1998/1800mm、ホイールベース3105㎜。自社開発のシャシーとインテリジェント駆動システムを採用し、EV車の乗車体験を異次元レベルに引き上げた。

900万円もするL9だが、1カ月で8000台も販売する大成功を収めた。高級ゾーンをテリトリーと定めた理想の理想に一歩近付いた。

■外国勢…テスラ、トヨタの値下げ戦略

外国勢では値下げが相次いでいる。

テスラは、昨秋から値下げを繰り返し、現在Model Yは26万1900~36万1900元(約511万~707万円)、Model 3は22万9900~32万9900元(約449万~644万円)となった。この20万~30万元ゾーンではトップを死守するつもりだろう。

トヨタの電動SUV、bZ4Xは19万9800~28万7800元(約390万~562万円)、テスラのやや下のポジショニングで登場した。4690/1860/1650mm、ホイールベース2850㎜。航続距離400~615キロ。初めてe-TNGAを採用した重要な戦略車で、生産、販売とも従来からの合弁企業「広汽豊田」と「一汽豊田」が行う。昨年10月に販売をスタートし、22年11月~23年1月の3カ月の売上実績は広汽が2391台、一汽が1446台の計3837台と芳しくない。

そのため2月上旬、広汽豊田はタイムセールの実施を発表した。期間限定で3万元の値引き、2年間無利子ローンの提供、10万、20万キロ段階の電池品質保証、最大8000元の電池交換補助金などの内容だ。

テスラは攻めている印象だが、トヨタは不振により値下げに追い込まれたように見える。bZ4Xはイメージ的にも技術的にもアピール不足感が強い。BYDとトヨタの提携関係にも影響を与えるかもしれない。いずれにせよ、新エネルギー車の成長は低下しており、なりふり構わぬ販売競争が予想される。1年後の市場シェアは誰の予想とも異なるものになるだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携