日本僑報社 2023年2月25日(土) 22時30分
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2019年の国慶節、私は中国人の夫とともに、河南省鄭州市のとあるホテルで、結婚式の日を迎えた。資料写真。
早朝5時。花嫁の朝は早い。「そうだ、私は今日『花嫁さん』なんだ」。寝ぼけた頭が冴えていくにしたがって、だんだんと実感が湧いてきた。
2019年の国慶節、私は中国人の夫とともに、河南省鄭州市のとあるホテルで、結婚式の日を迎えた。普段日本で暮らす私たちは、この日のために中国へ来た。私は早朝から化粧、ヘアセット、着替え、撮影と大忙し。式は私の希望で中国式のものにしたため、衣装も、会場も、どこを見ても赤色だ。キリスト教式や日本式の神聖で厳粛な結婚式とは一味違い、華やかでおめでたい雰囲気が私は好きだ。真っ赤な布地にきらびやかな金色の装飾が美しい中国の花嫁衣裳「秀禾服」はずっしりと重く、鳳凰の形をした金色の冠も首を痛めそうなほど大きく重たかった。異国で味わう非日常感に、私は終始どきどきしっぱなしだった。
しかし、浮かれてばかりはいられない。結婚式自体が初めての経験で、ましてや中国の結婚式については全体の流れや細かな作法など知らないことだらけだ。例えば、新婦は入場から舞台に上がるまでの花道の途中で、燃えた火鉢をまたぐ。「新生活が火のように活気で溢れますように」という願いからだ。また、このように伝統的な結婚式では、司会者の言葉遣いも日常生活のそれとは異なる。司会者のどの言葉でどの動きをするのか、覚えるのに時間がかかった。前日に一通りリハーサルはしたものの、本番で間違えて恥をかくのではないかという不安が拭い切れない。
身支度を終え、まずはホテルから車で夫の実家に向かった。「早く子供に恵まれますように」という意味を込めて、棗、ピーナッツ、竜眼、蓮の実が入ったスープを口にするなど、いくつかの儀式を終え、再び車でホテルへ戻る。しかし式はまだ始まらない。部屋で待つ新婦を新郎が迎えにいくのだが、「大声で歌を歌う」「お金を渡す」など新婦側が出す様々な条件をクリアしなければ部屋に入れない。やっと部屋に入れたかと思うと、新婦の靴は部屋のどこかに隠されていて、新郎がそれを見つけ出さなければ新婦は出発できない。私はせっかくの化粧が崩れるほど笑い泣きしながら、「こんなにユニークで楽しい結婚式が他の国にあるだろうか?」とぼんやり考えた。
そんな賑やかな雰囲気から一転、お昼前から式が正式に始まった。入場の瞬間、会場を埋め尽くす来賓の多さとスポットライトの眩しさに、一瞬目がくらみそうになった。リハーサルの記憶を辿りながら、ミスなくこなすだけで精一杯だった。私にとって最大の難関は、新郎新婦がそれぞれ一分間相手への思いを述べるスピーチだ。大勢の前で、私にとっては第二外国語となる言語で、短いようで長い六十秒間、一人で話し続けなければならない。私は前日の夜、夫への感謝の気持ち、将来への期待などを前もって原稿にまとめ、実際に時間を計りながら読んで念入りに練習していた。それでも本番は緊張で声が震えた。何度も練習したはずのピンインや四声も、もしかしたらめちゃくちゃだったかもしれない。しかし、建前ではなく本音で話せた一分間だった。つたないながらも、言いたいことは全て伝えられた。気が付くと、私も夫も泣いていた。
式が終わり、今度は真っ赤なパーティードレスに着替え、「敬酒」に移った。新郎新婦がお酒を持って来賓の各テーブルを回る時間だ。式の最中は不安と緊張で気が回らなかったが、以前中国で会ったことのある夫の親戚や友人がたくさん来ていて、久しぶりに話すことができた。「結婚おめでとう!」「とっても綺麗だった!」「スピーチよかったよ!」などと口々に話しかけられるうちに、やっと緊張が解け、談笑を楽しむ余裕ができた。この日を迎えるまで、「日本人の花嫁なんて歓迎されるのだろうか?」という一抹の不安が心のどこかにあった。しかし笑顔と談笑の声に包まれた会場で、そんな不安は温かな幸福感に解かされていった。
中国で迎えたこの一日は、きっと一生忘れられない記憶になる。中国の成語でいうところの「入郷随俗」の貴重な体験だった。この結婚式を通して得た収穫が二つある。一つ目は、中国の文化風俗に対する理解が一段と深まったこと。二つ目は、自分で考えた中国語で自分の思いを伝えられ、自信がついたこと。さらに結婚式から1年後、私は浙江大学の大学院に入学し、現在に至るまで「中国学」を専攻し勉強している。中国をもっと深く理解したい、中国語力を極限まで高めてみたい、という思いからだ。
2022年の今年、日中国交正常化からちょうど50年を迎える。この意義ある1年を、私はやはり未来への期待感をもって迎えたい。たくさんの中国人と交流した今、私にとって中国は「隣国」であり「隣人」でもある。人と人との交流を通じて、海を隔てたこの「お隣さん」を正しく理解できる人が一人でも増えるよう願ってやまない。
■原題:中国で迎えた結婚式の日
■執筆者プロフィール:杉山 早紀(すぎやま さき)大学院生 1994年広島県生まれ、兵庫県神戸市育ち。同志社大学文学部在学中に中国語の美しさや中国文化に惹かれ、2016年に「日中友好大学生訪中団」の一員として初の訪中。大学卒業後京都の老舗お茶屋へ入社、海外事業部に所属し、上海や台湾へ複数回出張。2018年に河南省出身の中国人男性と入籍し、2019年に中国にて挙式。2020年からは浙江大学大学院にて中国学を専攻し、中日文学を専門として研究に励んでいる。
※本文は、第5回忘れられない中国滞在エピソード「驚きの連続だった中国滞在」(段躍中編、日本僑報社、2022年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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