中国のクラウド市場でアリババやテンセントなど巨頭同士の争い、行政や企業のDX化も急進

高野悠介    2023年3月24日(金) 21時0分

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中国のクラウドサービス業界は、巨頭同士がせめぎ合い、行政や企業のDXは加速している。写真は阿里雲。

中国のクラウドサービス業界は、巨頭同士がせめぎ合い、行政や企業のDXは加速している。以下、その現場を見ていこう。

IaaS…DXの担い手

一般にクラウドサービスは、以下のように分類される。

IaaS(Infrastructure as a Service)=ネットワークなどのITインフラをサービスとして提供

PaaS(Platform as a Service)=アプリケーション実行用のプラットフォーム機能をサービスとして提供

SaaS(Software as a Service)= スマホアプリなど既に出来上がったソフトウェア機能をサービスとして提供

米国のIT調査会社Gartnerによれば、2021年の世界市場規模は3307億ドル、2022年は4947億ドルで、2023年は5920億ドルと予想されている。2021年の構成は、IaaSが916億ドル、PaaSが869億ドル、SaaSが1522億ドル。中心は企業や行政のDXに貢献するIaaSだ。

LaaSランキング…米国と中国

別の米国調査会社IDCがIaaSの世界シェアを発表している。

1位 アマゾン 353億8000万ドル 38.9%

2位 マイクロソフト 191億5300万ドル 21.1%

3位 アリババ 86億7900万ドル 9.6%

4位 グーグル 64億3600万ドル 7.1%

5位 ファーウェイ 41億9000万ドル 4.6%

6位 テンセント 25億4400万ドル 2.8%

中国のデータは華経産業研究院が出している。それによると、2021年の中国国内LaaS市場規模は前年比80、4%増の1614億7000万元(約233億ドル)だった。

ランキングは以下の通り。

1位 阿里雲(アリババ) 34.3%

2位 天翼雲(中国電信) 14.0%

3位 騰訊雲(テンセント) 11.2%

4位 華為雲(ファーウェイ) 10、0%

5位 移動雲(中国移動) 8.4%

その他 22.1%

上位3クラウドの活動を見ていこう。

阿里雲…O2Oデータを他社へ

阿里雲は2009年設立。2009年は双11(11月11日独身の日セール)スタートの年だ。双11のGMV(流通取引総額)は同年の5000万元から、2021年には5403億元と12年で1万倍以上に驚異的成長を遂げた。そのシステムを支えたのが阿里雲だ。また、鉄道の発券システム12306の運用や中国煙草総公司との提携など基幹産業のDXも担った。

民間企業では、G-Shockのカシオに採用されている。これまで同社のマーケティングは顧客の社会的属性と経験にのみ基づいていた。しかし目まぐるしく変化する現代では、効率的なデータ駆動型マーケティングが必要だ。阿里雲にはクラウドコンピューティングとAIの基盤があり、動的、リアルタイムのオムニチャネル(オンライン、オフラインの境界を融解)を構築できた。それによって顧客をマルチ視点から分析できるようになり、顧客の好みや行動によって異なるビジネスシナリオを提案した。中国ネット通販とO2Oスーパー「盒馬鮮生」で蓄積したデータが説得力を発揮した。

天翼雲…西安市のスマート交通システム

天翼雲は2009年、通信3大キャリア(中国移動、中国電信、中国聯通)の1つ、中国電信のクラウド部門の発展形。日本ならauに近い立ち位置の企業だ。2017年の青島成都を皮切りに、クラウドサービスの全国展開を始めた。

西安市の交通警察に採用されている。西安は渋滞解消を目的に、ドライバーと交通警察の間に情報の懸け橋となるスマートプラットフォームを導入した。信号無視などの運転状況、減点の有無まで確認できる優れものだ。ただし大量の画像処理が必要で、トラフィックのキャパシティーとセキュリティーの懸念があった。そのためプラットフォームをクラウドへ移行することに決め、天翼雲が選ばれた。

これによって、さまざまなプラットフォームの統合管理と調整が容易となり、バックアップやフリーズの問題も回避できるようになった。今後、西安市警察と天翼雲はシミュレーションを繰り返し、各プラットフォームの連携精度を高めていく。さらに交通サービスからあらゆる行政サービスへ展開し、スマートシティー建設をサポートする。

騰訊雲…大銀行のシステム改革

テンセントは2010年、起業家向けにクラウドサービスを開始した。2013年には騰訊雲としてオープンプラットフォームを開設。2014年に上海、香港にデータセンターを開設、2015年に北米データセンターを開設、2016年にシンガポールデータセンターを開設。2020年、コロナ禍に際し、トータルソリューション「微応急」を開発し、16億の「健康コード」を発行、封じ込め政策に貢献した。

興業銀行に採用されている。興業銀行は中国銀行ランキング8位で、国有5大銀行(工商、農業、中国、建設、交通)に次ぐクラスだ。1988年に認可された中国初の株式制商業銀行だ。興業銀行のユーザー数は8000万を超え、モバイルバンキング、コアシステム共に負荷が限界に達し、国産化と分散化が急務となっていた。

そこで、テンセントクラウドは分散型データベースソリューションを提案した。これにより、大規模なハードウエア構成によるリソースの浪費から脱し、リソースを仮想化、最適化することができた。銀行業界に特化した分散型データベースプラットフォーム構築に成功したのだ。銀行全体の監視、運用、保守など、トータルコストコントロールが容易となった。

アジア・太平洋市場…阿里雲がトップ

上記はそれぞれのクラウドが成功事例として紹介した一部だ。これらを見る限り、中国の行政、企業、金融機関のDXは順調に進んでいるように見える。国内巨頭同士の競争効果は大きい。阿里雲はアジア太平洋市場では25.6%のシェアを握り、トップだ。日本市場のシェアはアマゾンとマイクロソフトで過半数を超え、3位は富士通だが、同社はアジア太平洋のランキングには登場しない。日本でも国内勢の奮起と競争はDXを加速させるはずだ。今後に期待したい。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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