<活発化する中国の外交攻勢>ウクライナ戦争で進展も=「世界平和」への新秩序づくり、加速か

八牧浩行    2023年4月1日(土) 11時0分

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欧州連合(EU)や欧州各国の首脳の中国への訪問が相次いでいる。写真は習近平国家主席は31日、北京の人民大会堂でスペインのサンチェス首相と会談した。

欧州連合(EU)や欧州各国の首脳の中国への訪問が相次いでいる。22年11月にドイツのショルツ首相、同12月にはEUのミシェル首脳会議常任議長が北京を訪れ、習近平国家主席と会談。23年3月にスペインのサンチェス首相が訪中したほか、マクロン仏大統領やEU委員長も4月中の訪中を表明している。米バイデン政権や日本の岸田政権も対中関係改善に動き出した。

日米欧、対中関係改善へ動く

ホワイトハウスのインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は3月30日の講演で、米政府はバイデン大統領が中国の習近平国家主席と新たに電話会談する用意があると言明した。キャンベル氏は「(中国との)対話ルートを維持する準備が整っており、これらのルートを開き続けるつもりだ」と強調した。キャンベル氏は台湾海峡と平和と安全の重要性にも触れ、信頼醸成と危機時の首脳同士の直接対話(ホットライン)をめぐる枠組みを米中両国が設けることが「責任ある対応」になると訴えた。

中国の李強首相は3月30日、経済問題などを討議する「ボアオ・アジアフォーラム」の年次総会で基調演説を行い、「一方的な制裁や新冷戦に反対する」と強調した。米国による対中輸出規制の強化や、ウクライナ侵攻に伴う西側諸国の対ロシア制裁を念頭に置いた発言とみられる。中国経済については「成長の勢いは強い」と先行きに自信を示した。李氏は3月中旬に首相に就任したばかり。新政府が景気回復を最優先課題に位置付ける中、実現には対外関係の「安定」が不可欠となる。

ボアオ・アジアフォーラム

中国首相「平和的方法で国家間の争いを解決」

李氏は演説で「アジアが発展するためには、混乱や戦争があってはならない」と訴えた。その上で、「一方的な経済制裁や新冷戦には反対し、平和的な方法で国家間の争いを解決していく」と表明した。経済対策としては、内需拡大を重視すると説明。経済成長を続けるため、外資の投資を歓迎する考えも示した。米銀の破綻などを受けて世界経済の先行きに不透明感が漂う中、「金融の安定を維持する」と強調した。

ボアオ会議は中国主導の国際会議で、スペインのサンチェス首相やシンガポールのリー・シェンロン首相、マレーシアのアンワル首相、国際機関トップらが出席。海外の要人を現地に多数招いて開催するのは2019年以来、4年ぶりとなった。スペインは次期EU議長国。サンチェス首相は、3月31日、北京で習近平国家主席と会談し、ロシアが侵攻を続けるウクライナをめぐる情勢などについて意見交換した。

会談後の記者会見でサンチェス首相は、習主席に対しロシアによる侵攻への懸念を伝えた上で、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談するよう求めたことを明らかにした。ウクライナ情勢をめぐり中国が2月に発表した停戦を呼びかける文書について、サンチェス氏は調停役としての中国への期待を示した。また、サンチェス氏はスペインと中国の関係について「相互主義に基づくバランスのとれた関係を推し進めたい」と述べ、両国の観光フォーラムを6月に開催することを明かした。

中国は欧州との関係改善を目指しており、「スペインとの包括的戦略パートナーシップを新たな段階に進めたい」(外交部報道官)と歓迎している。さらに欧州連合の報道官は3月24日、フォンデアライエン欧州委員長が4月初めに、フランスのマクロン大統領とともに中国を訪問すると明らかにした。習主席らと会談する予定だ。

ウクライナ大統領、習主席との対面会談を希望

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月24日、ロシアの全面侵攻から1年を迎えたのに合わせて首都キーウで記者会見し、中国がロシアとウクライナに停戦を促す文書を発表したことに理解を示し、「中国がロシアに武器を供与しないことを強く信じている」と言明。中国の習主席との会談を計画していると述べた。

AP通信によると、ゼレンスキー氏は3月下旬に前線近くの訪問先から首都に戻る電車内でインタビューに応じ、「(習主席と)キーウで会う用意がある」と対面での会談を希望した。


習氏は3月20~22日にモスクワを訪問しプーチン露大統領と会談。ロシアとの戦略的協力を強化する意向を表明する一方、プーチン氏にウクライナとの和平協議を促した。中国のシンクタンク幹部によると、ゼレンスキー大統領は「ロシアにとって、良くない訪問だった」との見方を示しているという。その理由として、中国がロシアに武器や弾薬を提供するとの発表がなかったことを挙げ、プーチン大統領が25日に同盟国で隣国のベラルーシへの戦術核兵器の配備を発表したことも「中国からの支援がないことに対し(国際社会からの)目をそらすためだった」と指摘した。

習氏は2月24日に「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」という12項目からなるウクライナ戦争の「和平案」を発表した。これ以上の戦火の拡大を抑制し、当事国が停戦に向けた対話を行うべきだというのが「和平案」の趣旨である。ウクライナをめぐる関係諸国の外交が活発化することを見越し、中国の和平への意志をアピールする思惑があるとの見方が有力だ。

ウクライナのクレバ外相は3月16日、中国の和平案を評価。米国の軍部トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は「ロシアもウクライナも軍事力によって目的を達成することはできない」との見方を示した。プーチン氏も本心は「停戦」に導いてほしいと中国高官は踏んでいる。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はゼレンスキー氏と習氏との対話を支持する考えを示した。

中国とウクライナは友好的

中国外交部の「中国とウクライナの関係」に関する資料には、政治関係、経済貿易関係、両国協力機構など、多方面にわたる緊密な友好関係が列挙されている。それら資料によると、中国とウクライナはいち早く1992年1月4日に国交樹立した。2001年に全面的な友好協力関係を結び、2011年には戦略的パートナーシップ関係を締結。友好関係を深めてきた。2013年12月5日には、「中国ウクライナ友好協力条約」を結んだ。すべての共同声明や協力関係締結の際、ウクライナは、台湾やウイグルやチベット問題などにおいても、常に中国の立場を支持し、台湾の独立に反対する立場を明確にしてきた。

ウクライナは中国の巨大インフラ構想「一帯一路」の加盟国でもあり、中国は巨額の投資をしてウクライナの穀物業などを育成。中国は最大の貿易相手国となっている。ウクライナとしては戦後復興に中国からの巨額の支援を期待しているという。

欧米の動きにつれて日本も動き出した。林芳正外相が4月1日から訪中するほか、自民党きっての親中派・二階俊博元幹事長が多くの経済関係者とともに訪中予定だ。中国人観光客の誘致を働き掛ける。

31日、馬英九氏は高速列車で長沙に移動

現在、台湾情勢をめぐり、蔡英文総統の米国訪問や、前総統・馬英久氏ら国民党関係者の訪中など、目まぐるしい動きが交錯している。こうした動きが一段落したら、「仕切り直し」で、劇的な変化があるかもしれない。中露首脳会談で頻出した「多極化」という言葉は、米国の一極支配的先進国価値観による秩序ではない世界のこと。中国がグローバルサウスを包含した世界新秩序を形成する一歩になるとの見方も強まっている。中国がイラン・サウジ和睦の仲介をしたことによって新秩序形成が加速されつつある。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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