国境越える黄砂、中国は世界規模の砂漠化にどう対処しているのか―専門家が現状紹介

中国新聞社    2023年5月9日(火) 17時30分

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日本にも飛来する黄砂の発生源は、中国の内陸北部からモンゴル、さらには中央アジアに連なる砂漠地帯だ。写真は中国甘粛省内の民勤県での、砂漠の緑化作業。

日本では春になると時折、中国大陸から黄砂が飛来する。その正体は極めて細かい土の粒子なので、室内まで土ぼこりっぽくなったりする。干している洗濯物はもちろん、車両や建物も汚れる。しかし、中国の北部地域では、もっとひどい。土の粒子による健康被害も多発する。視界が悪化して交通に支障が出ることも珍しくない。黄砂の直接の原因になるのは、中国北部内陸部やモンゴルで発生する砂塵(さじん)嵐と呼ばれる現象だ。植生に乏しくて乾燥した大地が強風にさらされることにより、土の粒子が大量に吹き上げられる。砂塵嵐の発生場所では、吸い込んだ土の粒子を気道に詰まらせて、人や家畜が死ぬ場合もあるという。中国林業科学研究員の首席科学者として、土地の状態保持や砂漠化の防止を手掛けてきた盧キ博士(「キ」は王へんに「奇」)はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、砂塵嵐の現状や対策、さらに砂漠化防止策について説明した。以下は盧博士の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。なお、盧博士への取材は2023年4月に行われた。

中国は長期にわたり砂漠化を抑止

今年の黄砂現象は過去20年間の3月初頭から4月末までの平均回数の7.8回を、すでに上回っている。これには、主に3つの原因がある。まず、春の寒気の活動が活発であることだ。次に、3月前半の気温上昇が比較的早く、大気の状態を不安定にした。次に、22年の植物が成長する時期に、砂塵嵐の発生地における降水が例年よりも1割から4割も少なかった。今年になってからも降水量が平年よりも2割から5割少なく、植生の回復が遅れて表土がむき出し状態だった場所が広い。

砂塵嵐の多発はもちろん、砂漠化に関係している。中国は砂漠化対策でかなり大きな実績を残してきた。16年から20年を対象期間とした第13次5カ年計画中は特に顕著で、累計1097万8000ヘクタールで砂漠化防止と緑化推進を行った。「2022年中国国土緑化状況公報」によると、中国は同年通年で383万ヘクタールの造林、321万4000ヘクタールの草種改良、184万7300ヘクタールの砂漠化石漠化土地の整備を実施した。このような事業の結果、森林面積は2億3100万ヘクタール、森林被覆率は24.02%に達した。

中国は2000年以降も、一連の生態修復プロジェクトを続けている。中国は全世界の緑で、面積にして25%分を貢献した。国連総会が15年に採択した、30年までの実現を目指す「持続可能な開発のための2030アジェンダ」も、中国では順調に推移している。特に劣化した土地の修復では、状況が極めて顕著に改善されている。

黄砂防止に「特効薬」なし、自然現象なので完全に消滅させることも不能

黄砂は中国北西部、モンゴル南部のゴビ地帯、中央アジアの砂漠地帯一帯の、乾燥して植生が少ないという自然環境によってもたらされる。しかしこれらの地域の土地の状況は、長年に渡る人の活動で悪化した側面も大きい。

中国政府は1978年に、「三北防護林プロジェクト」を承認した。「三北」とは黒竜江、遼寧、吉林の中国東北地方と、北京や天津、河北などを中心とする華北地方、陝西省から新疆ウイグル自治区にかけての西北地方を指す。

「三北防護林プロジェクト」の開始は同年11月で、終了は2050年を予定している。しかしこのプロジェクトは黄砂防止の「特効薬」ではない。砂漠化した広大な地域に比べれば植樹面積は小さい。砂塵嵐が発生すれば土の微粒子は1000メートル以上の上空にまで巻き上げられるが、高さが数メートルから十数メートルの樹木で遮ることができるのは、比較的粗い砂粒だけだ。つまり「三北防護林」が黄砂現象を抑える効果は極めて限定的だ。

ただし、「三北防護林プロジェクト」によって、現地の生態環境は確実に改善される。即効性のある特効薬ではなく、長期にわたって服用することで体質そのものを改善できる薬のようなものと考えればよい。

黄砂現象は昔からある。中国では近年、黄砂現象の回数が以前に比べれば減少しているが、消滅することはない。中国の約170万平方キロの砂漠化した土地のうち、改めて植生を出現させられる土地は約50万平方キロだ。これらの土地については改善を加速すべきだ。その他の120万平方キロメートル以上は主に原生砂漠なので、砂漠や荒れ地としての保護と修復を主とすべきだ。

黄砂は自然現象であり、天然の砂漠が存在する以上、黄砂が消滅することはまず考えられない。黄砂現象が存在することを客観的に受け入れねばならない。しかし、土地の砂漠化は防止することができ、植生を回復させることもできる。砂漠化した土地に植生を回復させることは、黄砂現象の回数を減らし、黄砂現象が発生しても強さを抑えるために有効な手段だ。

中国では砂漠化が抑制される傾向があるが、今も「任重くして道遠し」の状態だ。中国国土の4分の1程度が今も砂漠だ。取り組まねばならない土地は、実に広大だ。そして、対策が後手に回るほど、難度は高くなる。さらに、土地状態の改善に逆行する人の活動は、今もなお存在する。

砂漠化防止は全人類にとっての課題、国際的な協力が不可欠

砂漠は国境を越えて存在するし、黄砂現象も国境を越えてもたらされる。砂漠化の防止や土地の改善、さらには黄砂現象の抑制には、国際協力がどうしても必要だ。中国の習近平国家主席は2022年11月にとモンゴルのフレルスフ大統領大統領と会談した際に、「モンゴルと共に、中国とモンゴルの砂漠化防止協力センターを設立したい」と申し入れた。

両国は今後、同センターの建設を手を携えて推進しする。同センターは砂漠化防止のための科学技術サポート、政策決定支援、シンクタンクサービスを提供することになる。

砂漠化防止は全人類に共通する課題だ。砂漠化は今なお世界の環境問題と発展の大きな障害であり、生態の安全と経済や社会の持続可能な発展を深刻に脅かしている。世界の砂漠化対策ではまず、議定書を制定してあらゆる国が約束を守るようにせねばならない。議定書には、各国の成果を測定する客観的な「目盛り」も盛り込まねばならない。また全世界を覆う観測網を構築して、土地の状況変化を把握できるようにせねばならない。一方で、原生の砂漠では本来の姿を維持させねばならない。そのためには「自然砂漠遺産リスト」の策定も必要だ。これらを通じて、全世界が行動することで30年には「砂漠化進行ゼロ」を実現させねばならない。(構成 / 如月隼人



※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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