中国新聞社 2023年5月14日(日) 16時30分
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中国の音楽界に大きく貢献してきた指揮者の曹鵬さん(写真)は今、97歳だ。今でもタクトを執りつづけているが、それだけではない。曹さんは自閉症の子らを支援する活動でも高く評価されている。
1925年12月に生まれた曹鵬さんは今、97歳だ。長年にわたり中国のトップクラスのオーケストラである上海交響楽団の音楽総監督兼首席指揮者などを務め、中国内外での多くのコンサートでタクトを振るなど、中国の音楽界に大きな貢献をしてきた人物だ。1995年には同楽団を去ったが今も活動を続けている。その一つが、音楽などを通じて自閉症の子どもや家族の状況を改善させる活動だ。中国メディアの中国新聞社はこのほど、曹鵬さんを取材して現状や心情を紹介する記事を掲載した。以下は同記事に若干の説明内容を追加するなどで再構成した文章だ。
曹鵬さんのご自宅にうかがうと、あごひげを生やした曹鵬さんが杖を持ってソファーにどっしりと座っていた。やさしさの中に威厳を感じた。曹鵬さんは最近になりねんざを2回した。その前には新型コロナウイルス感染症にかかった。今は養生中だ。それでもオーラを感じる。立ち上がると力強い足取りで歩き、杖が床を突く音がゴンゴンと響いた。「私はもう年なので、人の話を聞くのは苦手なんですけれど、不思議なことに、音楽を聴くと耳が逃げられなくなります」――。大きくて明瞭な話し方だった。
曹鵬さんは中国共産党の新四軍に参加して抗日戦争を戦った。中華人民共和国成立後は映画会社に付属するオーケストラを指揮して、作品数十本分の曲を指揮した。1955年から61年にかけてはモスクワ音楽学院に留学し、レオ・ギンズブルクに師事した。帰国してからは中国内外から注目される指揮者になった。上海交響楽団初の海外公演でも、曹鵬さんが指揮者を務めた。
曹鵬さんは70歳になった1995年に上海交響楽団を離れた。しかしそれ以降も、多くの人にオーケストラの魅力を伝えるために活動を続けてきた。80歳になった2005年には、娘の曹小夏さんの助けを借りて上海市交響楽団(SCSO)を創設した。この楽団は中国大陸初のアマチュアオーケストラで、さまざまな場所で公益目的の演奏を行うなど、社会奉仕を目的にしている。メンバーは医師、弁護士、公務員、学生など200人で、中には外国人もいる。
曹小夏さんは2008年に偶然に、自閉症になった人や家族の苦しさを知り、父親にSCSOが自閉症の人のためのチャリティーコンサートを開催することを提案した。小夏さんの提案には皆が賛同した。
その後、上海曹鵬音楽センターと上海市慈善基金会と共同で「天使知音サロン」と名づけたプロジェクトを立ち上げた。テーマは「自閉症の人を愛する」だ。曹小夏さんはこのプロジェクトの責任者になった。SCSOのメンバーはボランティアとして参加する。その最年長者は曹鵬さんだ。
「天使知音サロン」は当初、自閉症の子を持つ親のために演奏した。リラックスして日ごろのストレスを軽減してもらおうと考えたからだ。しかし、同席している自閉症の子は音楽が鳴るたびに騒いだり、壁に頭をぶつけてみたりしした。
その後、意外な状況が出現した。半年ほど経つと、自閉症の子が静かにするようになってきたのだ。曹鵬さん父娘は秘められた可能性を強く意識した。そして、自閉症の子らに打楽器演奏の基礎を教え、徐々に楽器演奏のレベルを高めていった。SCSO結成6周年の2011年には、SCSOのメンバーと共に自閉症の子らが初舞台を踏んで、人々を驚かした。
なお「天使知音サロン」の「知音」とは「共に音楽を知る」の意で、「一緒に音楽を聴けば、同じ気持ちを持つ」ということで、相手の心を完全に理解する最良の友を指すようになった言葉だ。自閉症の子にとって、曹鵬さんは「大好きな曹おじいちゃん」だ。子らは曹鵬さんに抱き着いてキスをしたり、曹鵬さんのひげを触ったりする。そんな時、曹鵬さんははいつも嬉しそうに微笑んでいる。
曹鵬さんは機会があれば子らと共にSCSOの舞台に経つ。海外ツアーも何度もした。子らの演奏レベルは上がっていった。
自閉症の症状は主に、コミュニケーション障害、趣味の狭窄、型にはまった反復行動だ。自閉症の子が集中力をつけることを助けるために、絵画を教えている公益団体もある。人はしばしば、絵画作品からその自閉症の子の内面を感じ取る。
曹鵬さんとそのチームの自閉症支援は、音楽分野だけでない。曹鵬さんによれば、文化や知識も学び、世界ともっとつながるようにしなければならない。
そこで、曹鵬さんらは「愛の授業」を設けた。専門の教師を招いて中国語や算数や英語、そろばん、美術などの教養をつけさせている。上海市内の玉仏寺も協力した。子らは寺に5日間泊まり込んで、書道や絵を練習した。
曹鵬さんらはまた、自閉症の子らがもっと社会に触れ、溶け込むようにするために、上海市青少年活動センターの1階に「愛珈琲」という名の社会生活を実践する拠点を設立した。自閉症の青少年がここで、機械を操作してコーヒー豆を挽いたり、コーヒーを持って「お客さん」に運んだりする。
その「お客さん」とは、事前に応募したボランティアだ。「愛珈琲」でのコーヒーは無料だ。ボランティアは自閉症の青少年の接客サービスを受けることで、社会の認知や理解を支援している。
自閉症児の際立った特徴は、特定分野について抜群の記憶力を発揮する場合があることだ。地図やルートに敏感で、素早く覚えられる場合も珍しくない。曹鵬さんのチームは自閉症の青少年を何度も地下鉄の駅に連れて行って、乗客に道案内をするボランティア作業をさせてきた。
また、自閉症の子は6年連続で「曹おじいさん」とSCSOのメンバーと共に養老院で慰問演奏をした。曹小夏さんは「さまざまな社会活動を通じて、本来は大切にされる必要があった子どもが他人を大切にするようになり、公益慈善のリレーボランティアにもなりました。このようにして、絶望に沈んでいた保護者が、希望を見出すようになりました」と語った。
曹鵬さんらの自閉所の子らを支援する活動は広がり続けている。活動を理解する企業も出てきた。金融会社の万向信託は、曹鵬さんらと共同で中国初の自閉症ケア慈善信託を設立した。目的は自閉症者を長期的に支援することで、収益はリハビリテーションや教育訓練、就業支援、監督保護などに役立てている。
曹鵬さんとその他10人は2023年2月、第1回「上海慈善賞」の慈善模範賞を受賞した。曹鵬さんは今も「愛のタクト」を振り続けている。曹鵬さんの行いは、この世に希望の火を灯すことを教えてくれる、我々にとってかけがえのない授業とも言える。(構成 / 如月隼人)
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