安定志向の中国人学生が注目する会社とは?

吉田陽介    2023年6月21日(水) 7時30分

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中国の2023年度の大学卒業生は前年同期比82万人増の1158万人に達し、過去最高を更新する見通しだ。

大学を卒業したらすぐ失業者に?厳しさを増す大学生の就職

中国では、6月は卒業シーズンだ。勤務先の大学のキャンパスを歩いていると、卒業生と思しき学生が記念撮影する姿をよく見かける。彼らを見ると、素直におめでとうと言いたくなる一方で、これからどうするんだろうと思ってしまう。

筆者も中国の大学院を卒業する前は、就職先がなく、進路未定のまま卒業式を迎えた経験がある。「大学を卒業したら、私たちは失業者」という冗談が大学生の間でよく知られているが、筆者も当時はまさにそうだった。日本でも報道されているように、中国の今の大学卒業生の就職は筆者が大学院を卒業した2006年よりも厳しいので、彼らのプレッシャーは計り知れない。

大学生の就職難の背景には、コロナ禍が引き起こした経済不振も一因だが、大学卒業生の増加も大きい。中国教育部の統計によると、中国の2023年度の大学卒業生は前年同期比82万人増の1158万人に達し、過去最高を更新する見通しだ。以前は、大学生は「エリート」であり、卒業後は「良い仕事」が約束された。大学生本人も、親や親戚の期待を一身に背負い、大企業入社や公務員になることを夢見て勉強に勤しんだ。だが、今は大学生の「価値」が低下傾向にあり、学部卒では仕事が見つからないという時代になってきている。そのため、大学院進学を選ぶ学生も珍しくなくなった。

大学生は時流に乗った業種がお好き?

大学卒業生はどんな仕事をしたいと考えているのか。これまでのように、国有企業や公務員志望なのか。

大手情報サイト「猟聘網」が5月に発表した「2023期大学卒業生就職データ報告」(以下、「報告」と略)は、新卒者の猟聘での検索行動を集計したものだ。

2022年度新卒生の人気業界トップ5は、エネルギー・化学工業・環境保護、医療・健康、自動車、機械・製造、電子・通信・半導体で、そのうちエネルギー・化学工業・環境保護は前年同期比の増加率が42.30%だった。世界的に低炭素環境保護が提唱され、カーボンニュートラルやカーボンピークの実現に向けた取り組みが進む中、エネルギー、化学、環境の重要性が高まったことが背景にある。トップ5業界のうち、新卒採用の平均年収が最も高かったのは電子、通信、半導体で18万8300元だった。

では、2023年度新卒の場合はどうか。同年度卒業生の人気業界トップ3はテクニカルサポート、科学研究者、ライブコマースで、増加率は前年同期比133.75%、130.85%、104.93%だった。テクニカルサポートはアフターサービスで重要な役割を果たしており、ユーザーの企業に対する評価に大きく影響するため、ニーズが大きく増えている。現在、中国は科学技術の「自立・自強」を国の重要戦略としているため、科学研究者へのニーズは大きい。

また、インターネットが「生活インフラ」となっているため、インフルエンサーも人気を集めている。実店舗よりもネットショッピングを利用する中国人が少なくないため、ライブコマースは中国人の消費促進において中心的役割を果たしており、人気インフルエンサーになれば高収入も夢ではないことから、若者に人気を集めている。

新卒採用の平均年収が最も高かったのは科学研究者の27万1100元で、シミュレーションアプリエンジニアの24万8000元、半導体技術エンジニアの24万1400元がそれに続いた。

このことから、中国の大学卒業生は、国の戦略に合っている業界、今流行していて当面は「食いっぱぐれのない」業界を目指す傾向にある。

では、具体的にどんな会社が大学卒業生に人気なのか。「報告」にある新卒者の検索件数に占める割合ランキングを見ると、BYD比亜迪)、ファーウェイ(華為)が新卒者に最も人気があり、有名大学の学生は新エネ車(NEV)メーカーに最も関心を持っている。一方で、数年前は新卒者に人気だった大手インターネット企業は業界の不振からくる大規模リストラなどの影響もあり、今年度はあまり人気がない。

「猟招聘」によると、中国国内の985/211大学とそれ以外の大学、海外の大学のいずれも、ファーウェイ、BYDの2社に大きな関心を示しているという。

中国メディアによると、大学新卒者、特に有名大学の学生の間でBYDが人気なのは、NEV業界の好況と関係がある一方、BYDが人材の採用で新卒者に相対的に多くのポストを提供しているからだという。

また、前出の中国メディアによると、BYDの王伝福会長は3月29日、投資家交流会で、今後2~3年は「人海戦術」をとり、大量の研究開発者を使って「破壊的」世代交代の能力を維持すると直言した。BYDによると、同社には現在6万人のエンジニアがおり、今年はさらに3万人のエンジニアを採用する予定で、そのうち60%が修士・博士卒業生で、700~800人が清華大学北京大学といった名門大学出身者だという。

BYDのほか、蔚来や小鵬などの新エネ車メーカーも国内985/211大学の新卒者検索キーワードトップ100にランクインした。

「報告」によると、新エネルギー業界の2023年度新卒者向けの採用ポストは前年同期比93.90%増で、増加幅はAIビッグモデル業界に次いで、18の新業界の中で2位となった。

海外の大学の卒業生は外国語と海外事情に通じているという強みがあり、外資系企業の検索に重点を置いており、シーメンス、ロレアル、テスラ、P&Gなどの外資系企業をよく検索している。

専門は二の次、安定を求める大学生

また「報告」は、今の大学卒業生は「安定志向」だと指摘する。今年度の卒業生が就職活動において重視することトップ4は、「給与・福利厚生」(85.76%)、「安定性・安心感」(66.67%)、「通勤距離・時間」(40.91%)、「勤務先の都市が自分に合っているか」(35.76%)だった。

10数年前、別の大学で教えていた時、どんな仕事をしたいか学生に聞いたところ、「給料が高い仕事」「自分の価値を示せる仕事」と答えた学生が多かった。「大学を卒業したばかりの君にどれほどの価値があるのか」とツッコミたくなったが、彼らのいわんとしているのは、自分が勉強したことを仕事に生かせることだろう。

これまでの学生の「基準」だった「自分の専攻との関連性」は10位で、13.33%だった。安定的に収入が得られるなら、専門と多少違ってもいいと学生らは考えているようだ。

また、新卒生が行きたい企業タイプのトップ2は中央・国有企業(45.15%)、政府機関・事業体(26.97%)で、安定的に高収入が得られる就職先がなおも根強い人気を誇っている。

このように、学生が「安定性」や「安心感」を求めているのは、アフターコロナの経済がどうなるか、今後またコロナの大規模な再燃があるかわからないためだ。以前は、明日は今日よりも良くなるというムードが漂う中で、まずはどんな仕事でもいいからやって、何年か後に転職しようという学生が少なくなかった。

今の学生の中には、「一生懸命就職活動したのに、また転職活動をするのはつらい」と考えている人もいるようだ。そのため、専門が違っていても、安定した職を得ることを重視しているのだろう。

今年度の卒業生が希望の進路につくことを祈りたい。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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