山崎真二 2023年6月27日(火) 7時0分
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先ごろ、中国がキューバで通信傍受施設建設を計画しているとの衝撃的報道があったが、その背景を探ると、近年の両国の緊密な関係が浮かび上がる。資料写真。
先ごろ、中国がキューバで通信傍受施設建設を計画しているとの衝撃的報道があったが、その背景を探ると、近年の両国の緊密な関係が浮かび上がる。
この報道は最初、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が伝え、その後複数の米有力メディアが後追いした。中国がキューバに数十億ドルを支払って通信傍受施設を建設することで双方の基本合意が成立したという内容だ。WSJはさらに中国がキューバで新たな軍事訓練施設を設置する交渉を進めているとも報じた。1962年の「キューバ危機」を想起させるようなニュースだけに米メディアが大々的にショッキングな形で報道したのも無理はない。
だが、過去30年以上、中国がキューバ進出に力を入れ、緊密な関係を築いてきたことを知れば驚くにはあたらない。冷戦時代には総じて関係が疎遠だったキューバに中国が積極的に接近を図るようになったのは1991年の旧ソ連崩壊後からだ。1993年と2001年に故江沢民国家主席、2008年に胡錦濤前国家主席、2014年に習近平国家主席がそれぞれハバナを訪問した。この間、投資保証協定はじめ各種の協定が結ばれ、中国からの投資や両国間の貿易が急増する。
中国・キューバ関係が一層緊密になる転機となったのは2018年にキューバが「一帯一路」協力覚書に調印し、事実上参加を決めたこと。これ以後、キューバのインフラ、通信、エネルギー、農業、観光など多くの分野で中国の進出が本格化する。昨年11月にはディアスカネル・キューバ大統領が訪中し、習近平主席と会談、両国関係はさらに格上げされ、蜜月時代といわれるまでになった。中国の進出に関しては米国とキューバの関係も大いに影響している。
オバマ政権時代の2015年、米国が約半世紀ぶりにキューバとの外交関係を再開したものの、トランプ前政権が強硬路線に転じ、両国関係は逆戻り。バイデン政権は昨年5月、対キューバ経済制裁を一部緩和したとはいえ、関係改善は遅々として進んでいない。このような米国のキューバ対応が中国の大幅進出を許した面は否定できない。
加えてキューバ側の事情もある。最大の援助国だった旧ソ連を失い、その後、ロシアからの支援が細々と続いたものの、全般にキューバ経済は低迷状態。そうした中、中国の経済支援はノドから手が出るほど欲しかったことは間違いない。
「中国とキューバの関係がさまざまな分野で進展した結果、ちょう報活動や軍事面でも協力するようになったのは自然の流れ」(米国有力シンクタンクのキューバ研究者)との指摘もある。今回のWSJなどの報道で突如、両国の軍事的結び付きが浮上したような印象があるが、中国の対キューバ支援が経済分野から軍事面に拡大したのは数年前からとの見方が中南米専門家の間では有力だ。
実際、ホワイトハウス当局者も一部米メディアに「中国が2019年にキューバの情報収集施設を増強していたとの記録がある」と述べている。さらに注目すべきは、中国の支援が軍事面にも及んでいるのは中南米でキューバだけではないという点だ。
中国がベネズエラの反米左派政権に経済支援に加え、これまでに6億ドル以上の大量の兵器を供給したほか、ペルー、ボリビア、エクアドルにも軍用機や軍事車両などを輸出していることが確認されている。アルゼンチン南部パタゴニア地方には中国の「宇宙探査研究センター」が建設され、同センターは2018年から稼働を開始しており、軍事利用への転用説がしきりに流れる。米国のお膝元である中南米で中国の影響力が増大しつつあることは今後、国際情勢を見る上でも重要なファクターになるだろう。
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
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