日本僑報社 2023年7月1日(土) 19時0分
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「日本語だけでなく、英語、そして、中国語表記もあるぞ!」。写真は羽田空港。
初めて訪れた海外の国は日本でした。当時日本語を独学する高校生だった私は、飛行機を降りた瞬間、羽田空港のターミナルに書かれた文字にくぎ付けになりました。
「日本語だけでなく、英語、そして、中国語表記もあるぞ!」
外国であるにもかかわらず、中国語表記があることに新鮮さを覚え、日本語の「到着」に併記された中国語の“到達”が日本で撮った最初の写真になりました。日本の空港や駅、観光スポット、商店街、そして、ホテルでも中・日・英・韓の4カ国語の看板を見かけました。こうした多言語表記は、様々な国の言語で書かれた招待状のようなものだと私は考えています。
残念ながら、多言語表記には誤訳も数多く存在しています。「ペットボトル」が“寵物瓶子”と訳されているのを見ると、笑ってしまうかもしれませんが、動物のペットと誤解することは少ないでしょう。しかし、緊急時に「お忘れ物センター」が“忘記中心”と訳されているのを見たら、咄嗟に反応ができないのではないでしょうか。こうした表記の誤りを見つけると、それはまるで小さな「とげ」のように、旅行者のペースを乱す障害になるかもしれません。
では、なぜ、このような誤訳が生じるのでしょうか。最大の理由は、自動翻訳の過度な使用だと考えられます。自動翻訳は、社会で広く利用されており、収録語数は増加の一途を辿っています。しかし、単純な翻訳ではカバーできない言葉もあります。それは、場面や文脈に応じて、言葉を選んで使用しなければならない場面です。外国人の日本語学習者の場合、話したい内容に対応する日本語を知っていても、その意思を明確に表現できない状況もあります。
私自身、東京の浅草寺を訪れた際に、屋台の店主からリンゴを一個差し出され、親しげに“請吃”と中国語で言われたことがあります。私は、自動翻訳を参考に「いえ」とだけ言って、その場を離れました。後になって、初対面の人に対する丁寧な断りを表す場合は、「結構です」という方がより適切だと気づきました。自動翻訳の精度は高くなる一方ですが、使用者のレベルや母語ごとの考え方の違いによって、こうしたミスマッチが今後も生まれることは避けられないでしょう。
こうした「とげ」のような誤りは、深層学習の深化により、いつかは解消されるでしょう。しかし、多言語表記は、最終的にはその地域や国を代表する存在でもあるのです。日本語学習者としての私は、今後数年、十数年の状況をよりよくするための具体的な解決策に結びつけていきたいと考えています。
まず、ネイティブチェックはとても重要です。母語話者も含めた複数言語の話者による校正を行うことにより、誤りを回避することができます。また、誤りに対するフィードバックを受け付ける窓口を設け、明らかな誤訳に対して、修正を希望できるような窓口があってもよいでしょう。こうしたフィードバックと改善例は、言語景観に関する辞書やデータベースのような形で、広く社会で共有することにより、効率的な翻訳を行うことができます。
加えて、訳文を多言語化するだけでなく、外国人の習慣に合わせた但し書きのようなものもあると、旅行者としては気持ちよく過ごすことができます。例えば、トイレに「日本のトイレットペーパーは水溶性なので、ゴミ箱に入れる必要はありません」、レストランに「当店は冷たい水をお出ししています。お湯が必要な場合はお知らせください」という内容があれば、私たち中国人は、その場で自国と日本の文化の違いを理解することできます。結果として、日本の礼儀作法や習慣を知り、行動するための指南書としての役割も果たすでしょう。
中日国交正常化五十周年を迎えた今、ポストコロナの観光業が回復していく中で、私の解決策が、少しでもよりよい旅行の一助となることを心から期待しています。
■原題:よりよい多言語表記を実現するための解決案
■執筆者:張紀龍(北京第二外国語学院)
※本文は、第18回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集『日中「次の50年」――中国の若者たちが日本語で綴った提言』(段躍中編、日本僑報社、2022年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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