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河南省で出土した8000年前の「奇跡の笛」―所蔵する博物館の専門家が説明

中国新聞社    2023年7月23日(日) 20時30分

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河南博物院は、8000年前に作られた骨製の笛を多数所蔵している。中には、位置を厳密に決めた7つの指穴がある笛もある。世界を見渡しても、まさに「奇跡の笛」と言える逸品という。

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笛という楽器を考えてみよう。中国や日本で伝統的に使われてきた笛は、竹などで作った管に開けた穴を指で閉じたり開いたりして音程を作る。近代ヨーロッパで作られた「メカニズム搭載」のフルートに比べれば「原始的」にも見えてしまうのだが、指で直接に穴を押さえる笛にも、大変な知恵が込められている。民族音楽学界では、人類が笛を作ったきっかけは、竹などの管に風が吹き込むと音が出る場合があることに気付いたことと考えられている。しかし管1本では音の高さが一つに固定される。管の長さが違えば音の高さが違うことに気付いた人類の祖先は、長短さまざまな長さの管をまとめて、それぞれの管を吹き分けることで、旋律を奏でられるようにした。パンフルートなどと呼ばれる笛の誕生だ。そして長い年月を経た末に、1本の管でも、側面に穴を開けて指で押さえれば、さまざまな高さの音を出せることに気付いた。縦笛の誕生だ。

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世界では新石器時代の遺跡から、骨で作った笛が出土している。ただし、指穴が2つあるいは3つのものが多く、非常に単純な旋律しか吹くことができなかったはずだ。ところが中国では、8000年前の遺跡から、指穴が7つもある笛が出土した。しかも指穴の位置は精密に定められており、「音階」を演奏することが可能だ。出土場所から「賈湖骨笛」と呼ばれるこの笛は、中国だけでなく世界の音楽史にとって重要な意味を持つ。考古学の専門家である河南博物院の馬蕭林河南博物院院長はこのほど、中国新聞社の取材に応じて、この賈湖骨笛について説明した。以下は馬院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。


強い愛着を感じて大切に扱っていたことが判明

馬賈湖骨笛は1987年に、河南省舞陽県の賈湖遺跡から出土した。この遺跡からは数千点の文化財が出土した。うち40点以上は骨笛だ。

特に興味深いのはM282の番号が付けられた墓からほぼ同時に出土した2本の骨笛だ。いずれも、埋葬された人物の左大腿骨と平行する位置関係で見つかった。このことは、笛が腰につける携行物だったことを物語る。笛は出土した時点で折れて3部分に分かれていた。しかし切断箇所はかつては、きちんと継がれていたことが分かった。つまり、これらの笛はいったん破損してから修繕されたわけだ。そのことから、持ち主がこれらの笛に強い愛着を持ち大切に扱っていたことがうかがえる。

M282は男性2人の合葬墓だ。研究の結果、賈湖骨笛の所有者の多くは壮年の男性だったことが分かった。笛の持ち主は生前、呪術師や祭司、あるいは集落の首長など、特殊な地位の人物だったと推定されている。

楽器として使える笛の製作には高度な技術が必要

賈湖遺跡では主に稲作農業が行われていた。賈湖は当時の稲の生産地の北限だった。稲作は南方由来だが、賈湖遺跡の人々の文化には北方の影響が強かった。人々は豚と犬を飼いならし、亀甲の刻符を持ち、酒を醸して専用の盃で飲んだ。それ以外にも特殊な形の骨器などがあり、原始的な宗教が出現していたことが分かる。骨笛は宗教活動における、人が神と意思疎通するための重要な法器だったと考えられる。物質面でも精神面でも、賈湖の文化は同時代の文化の中で最も先進的だった。

最も重要な賈湖骨笛の長さは23.6センチで、7つの指穴がある。指穴の位置は極めて正確に定められている。笛を作るためには、まず基準音を定めねばならない。そして、すべての指穴を、基準音に対して正しい音の高さが出る場所に開けねばならない。例えば基準音をドの音とすれば、ソの音を出せる指穴の位置を定め、レを出せる指穴を定め、ラを出せる指穴の位置を定め、といった具合に指穴の位置を決めていく。

骨管は内径が一定でないために指穴の位置を決めるのは困難だ。当時の人は最初に決めた7つの穴のそばを切り込むことで補正していた。穴の周囲の痕跡から、補正を何度も繰り返して、求めるの高さを得られるように微調整したことが分かっている。

欧州の音楽は1オクターブ内で基本的に7つの音を使う。中国の伝統音楽の旋律は多くの場合に5音を使うので五音音階などと呼ばれる。ただし、7音を使う曲もある。音楽史学界では、中国で七音音階が登場した経緯については論争が続いていた。西洋からもたらされたと言う説もあった。賈湖骨笛などの考古学的発見により、中国人の祖先は8000年以上前から七音音階を使っていたことが証明された。

全世界を見れば、先史時代の骨笛の出土は極端に珍しいことではない。例えば1994年には、ドイツ南部の洞窟で今から3万5000年ほど前の白鳥の足の骨でできた3つの指穴がある笛が発見された。それ以外にも、1万年以上前の骨笛は何点か出土している。つまり賈湖骨笛よりも前に作られた笛は存在する。しかしいずれも、指穴が3つ程度しかない。それらの笛を吹いても、きちんとした旋律を演奏することはできない。賈湖骨笛は中国だけでなく、世界で現在発見されている旋律が演奏可能な笛の中で、最も早い時期に作られたものだ。そのため「世界最古の吹奏楽器」とも言われている。

また、海外で発見された古い時代の骨笛は欠損がひどく、特定の遺跡から1本だけが見つかったような状況で、本当に笛として用いられたかどうかは、今も議論がある。

賈湖骨笛は対照的に、一つの遺跡から大量に出土しており、しかも1000年以上にわたり進化しつづけたことが分かった。最初期は2つ穴の笛だったが、笛の数は増えていった。しかも、穴の位置を微調整している。楽器として用いられたことは明白だ。

同じ材料で「骨笛」を作るのは現在の技術でも困難

賈湖骨笛はタンチョウの尺骨で作られた。鳥類の場合、尺骨とは翼を構成する長い骨だ。タンチョウの骨の外側は硬いが中空だ。骨は比較的もろい。そのため、穴を開けるのは比較的楽だ。

とは言え、正確な位置に穴を開けるのは極めて困難だ。説明が繰り返しになるが、賈湖骨笛の奏者や製作者、あるいは両方を兼任した人らは、さまざまな高さの音が出せるだけでよいと考えていたのではない。まず人がしっかりとした音感を持ち、その音感に合致して演奏できる笛を求めた。正確な計算や法則の追求などで経験を深く積んだ上で、最終的に「楽器」を作り出した。


科学技術が急速に発展した今でも、きちんとした骨笛を作ることは容易ではない。河南博物院はこの8000年以上前の賈湖骨笛を再現するための専門チームを作ったが、復元にはなんと10年以上の時間を要した。

チームは研究活動を通じて、骨笛の製作に適したツルの骨が極めて稀少であることを知った。何度も骨笛の製作に失敗し、2018年になってようやく、骨笛の製作によく適したツルの骨の標本を入手できた。貴重な骨を無駄にしないために、製作プランを改めて練り上げた。そこから賈湖骨笛の複製を完成するまでに、2年間もかかった。試験した結果、この賈湖骨笛の複製は、若干の欠点があるものの、音の高さと音色は博物院が所蔵する本物の賈湖骨笛に十分に近いことが分かった。 (構成 / 如月隼人

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