中国経済は今後も年5%程度の成長が可能―専門家が根拠を解説

中国新聞社    2023年9月11日(月) 10時40分

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北京大学光華管理学院の劉俏院長は、中国経済は今後も年5%程度の成長が可能と主張した。写真は中国経済の転換と底上げを図る狙いなどで開催された2023 中国国際サービス貿易交易会の様子。

中国経済の成長に、一時期ほどの勢いはない。しかし国家統計局が発表した2022年の国内総生産(GDP)成長率は3.0%と、日本の1.2%よりはかなり高い水準だ。そして気になるのは、中国経済の成長率がさらに低下して例えば日本並みになるのか、それとも現在と同水準を維持するか場合によっては再上昇するのか、ということだ。不確定要因が多いのは事実だが、中国経済に高度成長をもたらした要因と現状を分析すれば、かなりのことが見えて来る。北京大学光華管理学院の劉俏院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社に、中国経済の状況を説明し将来を予想する文章を寄稿した。以下は劉院長の文章の主要部分に若干の情報を追加するなどで再構成したものだ。

中国経済に高度成長をもたらしたのは「政府+市場」の方式

改革開放下の中国経済の高度成長の最大の特徴は、市場原理を導入しつつも、その背景には政府によるしっかりとした指導が存在した「政府+市場」の方式だった。例えば、政府はまず、その他の産業に決定的な影響を与えるノーダル・インダストリーと呼ばれる産業分野を見定めて育成した。ノーダル・インダストリーの各分野は自らが成長し、その結果として、技術の向上や刺激によって、周辺分野にも多くの市場プレーヤーを登場させた。経済全体に相乗効果がもたらされたわけだ。過去40年間の経済発展の最も重要な成果の一つは、1億7000万人の市場プレーヤーの出現だ。

中国政府は工業化のために必要な鉄道、高速道路、工業団地、通信網などへの投資を主導した。これらの分野は、社会全体が受け取るリターンの方が、投資者の受け取るリターンよりもはるかに大きい。もしも市場原理にだけまかせていたのでは、投資不足に直面する可能性があった。

経済成長にとって極めて重要な原動力が、全要素生産性(TFP)だ。TFPとは、資本や労働といった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因を指す。例えば技術進歩や生産の効率化などだ。TFPは直接計測することができないため、全体の変化からTFP以外の要因を控除した残差として推計される。

中国では改革開放の最初の30年間、TFPの成長率は4%前後を維持し、同期間のGDP成長率の40%近くに寄与していた。しかし、2010年に中国の製造業総生産額と付加価値額が米国を上回り、世界最大の製造業大国となった後にはTFPの成長率が低下し始めた。TFPの成長率は2%未満に低下し中国のGDP成長率も改革開放の最初の30年間の2桁台から、新型コロナウイルス感染症の発生直前には6%前後にまで低下した。

欧米諸国では近代化の過程で工業化が完了した後、年率2.5%前後のTFP成長率を維持できた国はない。従来の常識では、中国ではTFP成長率が2%未満に低下した後、欧米諸国と同じ生産性上昇の課題に直面し、GDP成長率はは3%-4%程度にとどまることになる。

TFP成長率の低下は、製造業を主力とする経済構造からサービス業主力へと移行するプロセスの末期に必然的に発生する。世界の主要先進国は工業化の完了後、例外なくこの段階を経てきた。米国の過去40年間のTFPの年平均成長率は約1%に低下し、直近の過去10年間では0.7%にも満たなかった。

しかし中国は、中国は工業化プロセスが終了した後も、TFPの上昇を促す一連の構造的要因を見出すことで、今後10年程度にわたってTFPの成長率を2.5%以上に維持して、中長期的にGDP成長率5%前後を達成し、2035年までにGDP総額と1人当たりGDPを2020年比で倍増させることが可能だ。

中国には高度成長が一段落した後もTFPを押し上げる原動力

中国がTFPの成長率を2.5%以上に維持する原動力には、以下の5点を挙げられる。

第一に、中国には「再工業化」による生産性上昇の余地がまだ大きい。米国ではオバマ政権やトランプ政権が、1970年代以降の「脱工業化の潮流」がもたらした経済の「空洞化」と失業率の上昇を補うために、ハイエンドの製造業を回復・発展させることに力を入れた。中国の「再工業化」も似ているが、5Gや6G、ビッグデータ、人工知能(AI)、ビッグモデルなどを通じて産業変革を推進してTFPの向上させる余地を出現させる「産業のデジタル化・スマート化」により重点が置かれている。

次に「新たなインフラ投資」、すなわち再工業化と人々の生活向上に必要なインフラ投資だ。「再工業化」のための「新インフラ」には、5G基地局、データセンター、クラウドコンピューティング設備などがある。中国ではさらに、旧市街の改修、賃貸住宅、都市公共施設など、人々の生活に密接に関わるインフラへの継続的な投資も必須だ。これらの分野は投資規模が大きく、さらに市場化することで民間資本を呼び込むことができれば、投資効率とTFPはさらに高まることになる。

中国がすでに工業大国であることも重要な要因だ。中国はすでに、工業の各分野が世界でもっとも完備している国だ。そして製造業によるGDPが全GDPに占める割合は、米国の11%をはるかに上回る27%だ。今後、中国は製造業GDPの全GDPに占める比率をGDPの23%程度に維持する必要がある。そして、新産業化の強力な推進と、製造力、品質力、航空宇宙力、輸送力を強化することはは、TFP向上のための余地をもたらすだろう。

第4点として、改革開放と高水準の社会主義市場経済体制の建設は、資源配分の効率化をもたらす。「徹底した改革」と「より高いレベルの開放」は、制度に裏打ちされた資源配分の空間を創出し、生産性の一層の向上が促進されることになる。

最後の第5点として、カーボンニュートラルの達成がある。世界全体でカーボンニュートラルの達成に必要な131兆ドル(約19京4000兆円)の投資が必要とされる。この金額によって単純計算すれば、中国でカーボンニュートラルを達成するために必要な投資規模は270兆元(約5400兆円)から300兆元(約6000兆円)だ。この数字は、中国は今後30年間で毎年GDPの約8%を投資することを意味する。

経済や社会全体に極めて強い影響を及ぼすノーダル・インダストリーだが、入れ替わりが発生することもある。例えば従来型の不動産業は、ノーダル・インダストリーとしての役割りを果たせなくなりつつある。不動産投資が落ち込めば、当然ながら経済にはマイナスの影響が及ぶ。しかし、カーボンニュートラルを実現するための莫大な投資は、不動産投資の低落を補って余りあるだろう。またカーボンニュートラルの実現には、技術革新も必須だ。このこともTFPの成長のための大きな力になるはずだ。経済成長をもたらす主たるエネルギー源と成長モデルが劇的に変化する時代が到来したことは間違いない。

これらにより、中国には今後も、TFPを押し上げる大きな力を持ち続けることが分かる。(構成 / 如月隼人



※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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