吉田陽介 2023年9月23日(土) 8時0分
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日本を追い抜いて世界2位の経済大国になった中国で最近、日本経済について書かれた評論が出ている。写真は東京。
「日本はなぜ経済発展したか、興味があります」
10数年前、筆者が北京のある大学で担当した日本概況という授業で、学生に「日本のどんなことに興味があるか」というテーマでアンケートを行った時に、学生数人がこのように述べた。
筆者が北京での留学生活を始めた当時、日本の高度成長や日本製品に興味のある中国人が多かった。なぜなら、当時の中国は発展段階にあったため、生産力も日本ほどではなかった。だが、改革開放40年で、中国製品の質も上がり、キャッシュレス決済などの技術は日本を超えている。
日本を追い抜いて世界2位の経済大国になった中国で最近、日本経済について書かれた評論が出ている。
有名な政治経済問題作家の関不羽氏は「日本の『失われた30年』を基準にするのはちょっとおかしい」と題する記事を8月に発表し、ネット上で広まった。
記事は冒頭で、次のように述べた。
「『回復力の欠乏』『デフレ疲れ』という国内経済情勢が、将来的に中国経済が日本の『失われた30年』の二の舞になるのではないかと多くの論客を懸念させているが、考えすぎだ」
ドイツのある金融メディアは6月、中国が不動産や地方の財政状況といった要因により、日本が90年代に陥った「失われた10年」のような停滞期に入ろうとしていると指摘したが、関氏はこのような懸念を否定している。
関氏の記事は、日本の「失われた30年」について、これまで言われていた「常識」を覆したものといえる。
記事は、「経済発展が停滞していた時期に社会秩序が安定し、国民生活の質が大きく落ち込むことなく維持された」とし、「非常に得難い成果」と評価した。
その要因として、記事は次の三つの要因を挙げている。
第一に、しっかりとした経済的基盤だ。「失われた30年」は、金融改革や財政改革が遅々として進まず、政府の刺激策にもかかわらず経済が低迷を続けていたというイメージだが、記事は、「日本経済は1995年まで高い成長率を維持しており、停滞に陥った時も日本のGDPの総量は米国の7割に達しており、経済の量と質も、日本は間違いなく先進国だ」と述べ、日本の経済基盤は「しっかりしていた」と評価した。
第二に、良好な外部環境だ。記事は、日本が国際社会との協調によって経済発展を図ったことを評価し、「日本は『失われた30年』以前にグローバルシステムへの統合に成功しており、対外交流や国際経済協力の外部環境は良好だった」と述べた。
日本と国際社会の関わりの中でよく言及されるのは米国との貿易摩擦だ。記事は、「それは拡大することはなく、日米両国は多くの国際問題で緊密な協力を維持してきた」と日米関係の安定が日本経済の発展に大きな役割を果たしたとしており、「プラザ合意が日本を陥れた」という見方にも否定的態度で、日中両国の一部論調にありがちな「米国従属論」とは一線を画している。
第三に、健全で安定した国内の市場環境だ。記事は、戦後日本の市場環境は「全体的に安定している」と評価し、「政府と企業の高度な相互信頼、安定した政策期待、規範化した法治環境、十全な財産権保護などの基本的配置が完璧だ」として、「それらは経済停滞期に日本企業がさらに悪化することなく生き残ることを保証した」と述べた。
以上の三つの要因は、「世界でどれだけの国が再現できるだろうか」として、日本特有の優位性として評価している。
記事は最後に、「現在の中国の経済情勢は局面打開の道を模索しており、日本の経験と教訓を参考にすることができるが、日本と比較して、大したことないと思うことではない」と結んでいる。ここで筆者が言いたいのは、中国は日本の上述の三つの要素をまだ備えていないのに、日本の経験を完全に参考にするのは難しいということだ。
中国は改革開放40年で対外開放を進め、世界経済における中国のウェイトは高まっている。中国を取り巻く国際環境は改革開放前より良くなっている。
国内市場は市場経済に合致した経済制度の整備が進んでいるが、記事が挙げた日本の優位性である「規範化した法治環境」や「財産権の保護」は整ってきているが、まだ「完備」の域に達しているとはいえない。また、「政策期待の安定化」についても、現在さまざまな経済回復措置を講じて人々の期待の安定に努めている。
中国は「資源配置において市場に決定的な役割を果たさせる」ことを主眼に置き、市場競争を妨げるさまざまな要因を取り除こうとしている。法治社会づくりや諸政策・制度の規範化はその一環だ。
中国政府は7月に民営企業のさらなる発展を促す措置を打ち出し、民間セクター重視の姿勢を強調した。中国政府は「新しいタイプの政商関係」の構築を目標に掲げている。それは記事で挙げられた「政府と企業の高度な相互信頼」に似ている。
このように、中国は日本経済発展の三要素を築いている段階であるといえる。
今年に入ってから、経済関係の個人メディアが論じる日本経済は、「日本が復活した」というものが多い。彼らは日本の物価が上昇し始め、日経平均株価が上昇を続け、企業が従業員の賃上げを始め、不動産を購入する人が増え始めたという事実を描き、さらに日本の製造業が還流し、起業の波が起き始めたことを考察している。
以前の中国メディアの日本に関する論調は「停滞」「喪失」「活気がない」「希望がない」といったもので、日本と中国は「日が暮れて発展の道がなくなっている国」と「伸びゆく国」と比較して論じられていた。
筆者が2012年に中国のテレビ番組に出演した時、共演した中国人の日本問題専門家は、「日本は長期的に停滞して『低調(控え目)』になっていますが、中国は今、給料がどんどん上がるなど前に向かっています」と、「衰退している国」と「伸びている国」の構図で話していた。
これらの認識は、2010年に中国のGDPが日本を追い越してから、かつて好調だった日本の産業が徐々に色あせ、世界トップ500社にランクインする日本企業がますます少なくなる一方で、中国企業がますます多くなり、「日本の製造業神話が崩壊した」という見方が多くなった。そのため、「日本はすでに貧困大国に転落した」「日本のエンジニアが競って中国に来て職を求めている」と報じる中国メディアもあった。
だが、現在は状況が変わり、中国人は突然、日本の「復活」に気づいた。今は「日本にとって、また国運を左右するビッグチャンスが訪れているかもしれない」と言い切る個人メディアもある。
中国のエコノミスト、何帆氏は7月19日にWeChatに発表した記事で、中国人が米国、欧州経済に注目し、日本にはあまり関心を払わない理由として、「日本は1980年代末から90年代初めにかけてバブル崩壊を引き起こし、その後、失われた10年、20年、30年に入ったため、日本経済はとっくに駄目になったと思われているからだ」と述べた。
何氏はさらに、状況は常に変化するとして、「タイムスパンが十分に広がると、新たな経済の波が起こる。日本経済は昔とは少し変わってきたようだ」と述べ、日本経済に改めて注目する必要性を説いた。
中国人が日本経済に注目したのは、中国経済の現状と関わりがある。3年にわたるコロナ禍による経済不振で、今後の中国経済に対する人々の期待は以前ほどではなくなった。また、不動産業の不振や地方財政の悪化、若者の失業問題など課題が多い。日本は「失われた30年」の中で、財政、金融、雇用などの面で課題が多かったが、現在はある程度持ち直したため、日本に学ぼうという空気が出てきたのだろう。
今年に入ってから、日本企業を訪問した中国企業視察団が非常に多くなっているが、それは「日本に学ぶ」という中国国内の空気をある意味体現している。
中国政府は一貫して「外国の経験に学ぶが、やみくもに引き写さない」という態度をとっている。そのため、中国の一部主流メディアは慎重な姿勢を保っている。例えば、「21世紀経済報道」は社説で「日本経済の回復を理性的に見る」としている。中国メディアの言葉で、「理性的に見る」とは「やみくもに崇拝するな」という意味だ。
中国は世界2位の経済大国になっており、改革開放開始直後と違い、外国のものを「やみくもに崇拝」するようなことはないだろう。ただ、中国人、特に中国のエコノミストが日本経済に注目していることは、日中関係にとってプラスとなる。相手国に「全く無関心」という状況であれば、両国関係の改善は望めない。
現在、日中の政治関係が悪化しているが、経済面、文化面などを突破口にして「官(政府)」を動かすことが重要だと筆者は考える。
中国のエコノミストが日本経済を「再評価」したことは、両国関係改善に向けての中国側の一種の「シグナル」とも取れる。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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