高野悠介 2023年10月10日(火) 6時0分
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中国メディアはテスラ、トヨタ、BYDを新たなビッグ3と見なし、経営指標を比較しつつ、BYDの今後に焦点を当てている。写真はBYD車。
2023年の世界自動車メーカーの時価総額は1位がテスラ、2位がトヨタで、3位はフォルクスワーゲン、BYD、ベトナムのビンファストが入れ替わった。中国メディアはテスラ、トヨタ、BYDを新たなビッグ3と見なし、経営指標を比較しつつ、BYDの今後に焦点を当てている。
世界販売台数(2021年/2022年/2023年上半期)を見てみよう。
BYD 74.0万台/186.9万台/125.6万台
テスラ 93.6万台/131.4万台/88.9万台
トヨタ 961.5万台/960.0万台/493.8万台
BYDは勢いよく数字を伸ばし、テスラを凌駕した。しかしトヨタの台数は別格だ。中国最大の自動車メーカー、上海汽車集団はグループで530万台、トヨタの55%ほどだ。昨年BYDが中国最大の自動車メーカーになったと報じられたが、これは例えば上海汽車傘下の上汽大衆(VW)や上汽車通用(GM)などとの対比で単一メーカーとして販売台数が最大になったという意味だ。
利益率(2021年/2022年/2023年上半期)
BYD 17.4%/20.4%/20.7%
テスラ 29.3%/28.5%/18.0%
トヨタ 16.6%/15.2%/17.8%
平均単価(2021年/2022年/2023年上半期、人民元)
BYD 15.2万元/17.4万元/16.6万元
テスラ 34.8万元/37.5万元/31.1万元
トヨタ 18.6万元/18.0万元/19.5万元
テスラの利益率、平均単価は今年に入り急落した。2022年に戦略的値下げを繰り返した影響だ。しかし平均単価は600万円で、依然としてダントツだ。トヨタは1000万台規模で、変動は相殺され、平均単価は動きにくい。しかし中国メディアは、この規模にありながら、毎年安定した利益率を維持することこそトヨタの真骨頂だと高く評価している。
BYDは2020年の平均単価が13万元で、ここ3年は毎年1万元ペースで着実に伸ばしているが、今年上半期に反落した。
研究開発費とその経費率(2021年/2022年/人民元、パーセンテージ)
BYD 80億元/187億元/3.7%/4.4%
テスラ 179億元/212億元/4.8%/3.8%
トヨタ692億元/634億元/3.6%/3.3%
BYDの研究開発費は2倍以上に大きく増加し、テスラに迫っている。パーセンテージは各社あまり変わらない。
テスラの研究開発項目は自動運転や人工智能など高付加価値分野ばかりだ。独自のスーパーコンピューター「Dojo」と、それに使用するチップを開発している。車載電池の技術開発は外部サプライヤーに任せ、生産能力の確保に集中する。
トヨタは内燃機関時代から続く巨大な研究開発グループがあり、その維持に莫大なコストがかかる。しかしそれらの経費は直接の研究成果、新しい競争力に結びついていないと、中国メディアはここでは辛口評価だ。
BYDは完成車のみで利益を上げているわけではなく、特徴は独自の垂直統合モデルにある。原料から完成車までのサプライチェーン全体を内製化した。そのため電池、半導体、部品など多くの事業セグメントと子会社を持つ。注目は、CATLに次ぐ世界2位の規模を持つ車載電池事業だ。電池はテスラにもトヨタにも供給している。
利益率(営業利益率/販売・一般管理費/投資収益率/株主に帰属する利益率)
BYD 5.3%/6.8%/-0.1%/4.2%
テスラ 10.5%/4.7 %/1.5%/10.8%
トヨタ 10.6%/10.30%/5.8%/12.4%
営業利益率はテスラとトヨタが10%強で横並び、BYDはその半分。目立つのはテスラの管理費の低さ、トヨタの投資収益率の高さだ。テスラは今年4月の上海モーターショーの出展を余裕で見送った。宣伝広告費をかけない印象が強い。
トヨタの管理経費はテスラの2倍だ。それでも利益率があまり変わらないのは、巨額の投資収益があるからだ。トヨタの投資収益は、60%が株式保有のリターン、40%が金融商品と為替収益だ。世界各地の合弁子会社の財務諸表は連結しておらず、海外からの利益は投資収益に計上されている。これに対し、BYDにはCO2排出権取引の他に業績に影響するような投資収益はない。
今後、収益性を上げる方向性は平均単価の引き上げと海外進出だ。
BYDの販売増はローエンドモデル「海鴎」のヒットに依存している。2023年上半期に平均単価が反落した原因だ。「騰勢」「方程豹」「仰望」などのハイエンドモデルを続々投入したものの、まだ収益には結実していない。多くのブランドをどう管理するのか、トヨタのような経験がない。製品ライン間の競合が多くなり、ベストセラー車は誕生しにくく、平均単価20万元(約400万円)の壁は厚いとみられる。
国内市場は制覇した。すでにトヨタ中国(一汽豊田+広汽豊田)、テスラ中国を上回っている。ただし海外では販売シェア35%の中国市場と違い、新エネルギー車の普及率は低い。そのため日本や東南アジア市場への新規参入当初は急成長するかもしれない。しかしこのハネムーンが終了した後はどうなるか。
また、電池などの自前サプライチェーンは諸刃の剣だ。多額の利益をもたらすこともあれば、コストセンターでもある。現実に資本負債比率の上昇を招き、現状では財務上の負担となっている。
しかし、拡大の余地は大きい。国内でハイエンド商品が売れ、海外進出も着実にこなしていけば、新ビッグ3の地位は確保できそうだ。この1年ではっきりするだろう。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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