<巨竜を探る>習近平、周永康立件で「一石三鳥」狙う―江沢民らの「摘発自制」進言を一蹴、大胆改革断行へ

八牧浩行    2014年8月6日(水) 6時10分

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中国では1949年の建国以来と言われる大がかりな汚職・腐敗撲滅運動が展開されている。胡錦濤政権時代に最高指導部の党政治局常務委員を務めた周永康氏が「重大な規律違反」容疑で立件されることになった。写真は同氏。

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中国で1949年の建国以来と言われる大がかりな汚職・腐敗撲滅運動が展開されている。習近平氏が2012年11月に中国共産党の総書記に就任して以来、「虎もハエも叩く」の掛け声のもと、これまでに6万人以上の党員が処分された。胡錦濤政権時代に最高指導部の党政治局常務委員を務めた周永康氏が「重大な規律違反」容疑で立件されることになった。

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周氏は公安・司法分野のトップも務めたほか、有力国有企業の中国石油天然気集団(CNPC)のトップの経歴もあり、長らく石油産業の中心人物でもあった。従来、党政治局常任委員経験者は起訴されないとの不文律を破ってまでも断行されることになった背景には、いくつかの要因がある。まず中国国内の格差拡大と腐敗のまん延を放置できなくなったこと。共産党統治の正統性が問われていることに危機感を抱き、司法が及ばないとみられた周氏のような大物を失脚させることで、汚職一掃に真剣に取り組んでいるという強いメッセージを国民に送ることができると考えたようだ。中国国内のインターネット空間には、習国家主席による汚職追放キャンペーンを肯定するメッセージが溢れている。

今後、かつての薄煕来(元重慶市総書記)裁判のように、収賄、横領、権力乱用の訴求に対し、反論の機会を与えながら、腐敗撲滅に賭ける強い決意をアピールしていくことになろう。公判報道は国民大衆への格好の教宣材料となる。さらに周氏の子息や蓄財に励んだ者、石油閥の関係者に捜査が及ぶ可能性が大きい。

今回の「周失脚事件」は中国の党や政府の幹部に衝撃を与えている。中国社会では収賄や利益誘導がまん延しており、次は自分のところに司直の手が及ぶかもしれないと懸念する幹部は多いといわれる。党員は高級レストランで食事をしているところを目撃されたり、高価な時計を腕にはめていることをさとられたりすることも恐れている。

共産党や政府の役人が国家国民の利益より自己の利益を優先しているとの疑念を抱いている国民は多い。習氏は危機感を持ち、国民受けのする改革の荒療治に踏み切ったというわけである。

ただこのようなトップダウンによる改革手法は、党や政府の役人の間に不安と恐怖心を与える。今後は役人が改革を支持し、自ら改革するよう促し、改革運動機運を醸成させる必要があろう。

習氏の政敵は安閑とはしていられない。周永康氏はかつて習氏のライバルとみられていた薄熙来氏と親密だったため、摘発されたとの見方もある。薄氏は昨年、汚職で無期懲役が確定した。ほかの政敵とされる大物も今後、摘発の対象になるかもしれない。

 

◆既得権益者への攻撃続く

こうした既得権益者への攻撃は、習主席による抜本的な経済改革の前触れとの見方が有力。次は肥大化した国有企業の幹部を対象とした摘発キャンペーンが始まると見る向きも多い。習氏は汚職追放キャンペーンを、国有企業改革の起爆剤として利用するのではないか。

さらに、江沢民元国家主席ら保守長老を牽制し権力基盤を強化することも狙っているようだ。江、胡両氏は党の中核だった元幹部や有力者の家族に対する摘発を自制すべきだと進言したものの習氏はこれを一蹴したといわれている。国家主席や政治局常務委員経験者であっても摘発の例外としないことを示すことによって、政務や人事への介入を慎むよう警告する意味合いもあろう。

この腐敗撲滅運動、党幹部の綱紀粛正、格差拡大の温床になっている国有企業改革、政敵打倒による権力基盤強化の「一石三鳥」を狙ったもの。果たして思惑通りの展開となるか注目される。

<「巨竜を探る」その38>

<「巨竜を探る」は八牧浩行Record China社長・主筆によるコラム記事。著書に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」(あさ出版)など> 

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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