高野悠介 2023年10月24日(火) 5時0分
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中国ではスタートアップ、スマホメーカー、さらには自動車メーカーなどが半導体の自社開発に乗り出している。写真は比亜迪半導体の公式サイトより。
半導体の生産は東アジアに偏りすぎたため、その調整と最先端技術の囲い込みが始まっている。欧米各国は巨額の予算を計上し、半導体産業の誘致と育成に力を入れている。米国の制裁を受ける中国にとっては、そうした動きは死活問題だ。そこで従来メーカーの他、スタートアップ、スマホメーカー、さらには自動車メーカーなどが半導体の自社開発に乗り出している。
ここでは自動車メーカーを取り上げる。EV(電気自動車)への電力配給に欠かせないパワー半導体や、画像処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)など、各社それぞれの切り口で研究開発を競っている。
新興4~5社で構成される「造車新勢力」の1つ、蔚来汽車は自社開発の自動車用SoC(System On Chip)の開発に成功した。
蔚来汽車は2014年設立。創業者の李斌(リー・ビン)氏は北京大学在学中の1996年に北京南極科技というサービスプロバイダーの先駆的企業を創業した。2000年に自動車メディア「易車網」を創業し、2010年にニューヨーク市場に上場するという大成功を収める。李斌氏は2018年までCEOを務めた。蔚来汽車はその間の2014年に立ち上げたが、こちらも2018年にニューヨーク市場への上場に成功した。2022年の販売台数は12万3000台、売り上げは492億6700万元(約9853億円)で、造車新勢力と呼ばれるグループではトップだ。ただし赤字からの脱却はまだ実現していない。
その蔚来が9月末、自社開発のLiDAR(レーザー光を使ったリモートセンシング)制御用SoC「NX6031」を量産すると発表した。開発チームには800人が在籍しているが、主力の外国製品と比較して、電力消費は50%減、処理スピードは30%増、処理能力は毎秒800万回を達成したという。
これにより、自動運転の基幹デバイスであるLiDARのコスト管理が可能となった。それだけの話だが、業界関係者は、これは蔚来の競争力に大きく貢献すると見ている。LiDARのコストは高額のため、このSoCは全体のコストパフォーマンスに影響すること、そしてこの研究自体が車の安全性能向上に寄与することを評価しているのだ。今回の開発成功により、蔚来が造車新勢力グループから一歩抜け出せるかどうか。
領克(LYNK&CO)は国産新型半導体を新モデルに実装した。領克は吉利汽車とボルボが提携して生まれた高級ブランドで、2016年から新車の開発に取りかかり、2017年に「領克01」と「領克03」を発表。2023年9月に純電動の中型SUV「領克08」を発売した。価格は20万8800~28万8000元(約418万~576万円)で、最も競争の厳しいクラスだ。
この新型車に中国生産初の7nmチップ「龍鷹1号」が搭載された。これは吉利グループ傘下の億咖通科技(ECARX)と安謀中国(アーム・チャイナ)の合弁企業、湖北芯擎科技が開発した。つまり、ボルボとアームの技術が絡んでいるのだ。2021年末から300人以上のエンジニアが開発を進め、2022年末に量産体制を構築し、ついに実装にこぎつけた。
「龍鷹1号」は自動運転を担うGPUとそのオペレーションシステムに組み込まれる。性能は、現在一般に使用され、高性能車載チップのベンチマークモデルである米クアルコムのSnapdragon8155と同等という。代替製品の開発に成功したということだろう。
BYD(比亜迪)には2004年設立の半導体子会社「比亜迪半導体」がある。主にパワー半導体、制御用IC、光電半導体などを研究開発し、生産販売まで行っている。自動車メーカーはもとより、工業、家電・電子製品、新エネルギーなど他業種へも供給している。
最重要はもちろん自動車分野だ。最新の報道によると、IGBT(パワー半導体に適するトランジスタ)、SiC(パワー半導体材料のシリコンカーバイド)など高水準の最新パワー半導体製品を開発している。すでに開発、応用の技術蓄積が進み、半導体の設計、ウエハー製造、パッケージング、動作やアプリケーションなどの各種テストまで、独自のサプライチェーンを形成した。今年6月には、2億1400万元(約42億8000万円)を投じ、SiCウエハーの生産能力を1.5倍、年産1万8000枚に引き上げる計画を発表した。さらに、追加投資により、4インチウエハーでは世界水準の生産設備になるという。また、IGBTの国内シェア(2023年1~7月)は38%に達し、2位の独インフィニオン・テクノロジーズの16%を大きく上回る。
このようにみると、BYDは頭1つ以上抜けている。電池メーカー出自で、今や車載電池シェア世界2位を誇る。それに加え、車載半導体でもパワー半導体を中心に国内の覇権を握ろうとしている。電池、半導体、完成車それぞれに強みを持つ企業は他に類を見ない。比亜迪半導体はBYD以外の自動車メーカーにもパワー半導体の供給を開始し、株式上場も秒読みに入った。
これに対し、蔚来と領克は自動運転の実現に向けたCPU、GPUシステムの自前構築を目指しているようだ。BYDは自動運転にはあまり熱心ではない。創業者の王伝福(ワン・チュアンフー)氏は以前、「自動運転はナンセンス」とこき下ろしたことがある。従って、競合他社にとっては狙いどころだ。しかし、スマホ用のロジック半導体ほどの投資は必要ないとはいえ、たかが300~800人の陣容で本当に競争力のあるSoCが開発できるのだろうか。その答えはここ2~3年で明らかになるだろう。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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