BYDが猛スピードで世界トップ10入り、一体どの車が売れているのか

高野悠介    2023年11月25日(土) 7時0分

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BYDの勢いが止まらない。2023年上半期の世界販売台数は125万台に上り、初のトップ10入りを果たした。写真はBYDの元PLUS。

BYD比亜迪)の勢いが止まらない。2023年上半期の世界販売台数は125万台に上り、初のトップ10入りを果たした。第3四半期にはスズキを抜き、世界9位とさらに1歩進めた。次のターゲットは8位のフォード、7位のホンダだ。ここ3年の売り上げは、2021年は73万台、2022年は187万台、2023年1~10月は237万台。今年はすでに前年実績を大きくクリアし、3年で約4倍になる見込みだ。この脅威的な躍進の秘密は何か、ここでは主力車種の分析から探ってみよう。

ブランド構成は「BYD」「方程豹」「騰勢」「仰望」

BYDの10月の単月売上は前年同期比38.3%増の30万1833台で、月販30万台を超えたのは初めて。プラグインハイブリッド車(PHEV)は18.6%増の13万5590台、純EVは60.4%増の16万5505台だった。ほとんどPHEVとEVだ。

ブランド構成は、社名と同じ「BYD」、新規の「方程豹」、高級ブランドでベンツ合弁の「騰勢(DENZA)」、単独で始めた「仰望(ヤンワン)」の4つだ。

主力のBYDブランドは王朝シリーズと海洋シリーズに分かれる。王朝シリーズの10月の販売台数は13万台で、「秦」「宋」「唐」「漢」「元」という中国歴代王朝名を冠している。

海洋シリーズの10月の販売台数は15万1749台で、王朝より少し多い。こちらは「海豚」「海豹」「海鴎」「駆逐艦」「巡洋艦」「海獅」と海にちなむ車名が並ぶ。

共にほぼ全ての市場セグメントをカバーしている。技術的背景は同じでも、それぞれ独立して運用されているという。

新ブランドの方程豹は、1号車「豹5」が近々出荷される。先進テクノロジーを満載したプロ好みの個性派ブランドだ。

騰勢は、主要4車種で10月に1万1500台を販売した。仰望は、1号車「U8」の納車が始まったばかりだ。

王朝シリーズ

秦はコンパクトセダン、宋はコンパクトSUV、唐は中型SUV、漢は中大型セダン、元は小型SUVだ。このうち秦、宋、元の10月の販売台数が4万台を超えた。ちなみに日本市場へ導入された「ATTO3」は「元PLUS」の海外名だ。

最主力の秦はPHEVのみだったが、今年4月にEVが追加された。売上トップの「秦PLUS」は全長/全幅/全高が4765/1837/495mm、ホイールベースが2715mmで、日本では中型セダンの大きさだ。1.5Lエンジン110psとモーター197psの組み合わせ。癖のないおとなしめのエクステリアだが、高性能と手頃な価格設定で数量を稼いでいる。価格は10万7800~14万7800元(約215万6000~295万6000円)。

今後の注目株は上海成都のモーターショーで話題となったSUV「宋L」だ。宋のコンセプトはファミリーユースのスタイリッシュな都市型SUVだが、宋Lは躍動感のある若者向けスタイルを取り入れた。EV専用で4840/1950/1560mm、ホイールベース2930mmとかなり大きい。年内発売予定で22万~28万元(約440万~560万円)。BYDの最新eプラットフォーム3.0車体とバッテリーの一体化技術、最新の運転支援技術が用いられている。

海洋シリーズ

海豚と海鴎はコンパクト、海豹は中型セダン、海獅は中型SUV、駆逐艦は中型セダン、巡洋艦は中型SUV。

コンパクトの海鴎が快調に飛ばしている。「新世代の主力代歩車」いわば下駄代わりのスクーターというコンセプトで4月に登場した。10月の販売台数は4万3000台で、発売7カ月で18万台を突破した。3780/1715/1540mm、ホイールベース2500mmで、価格は7万3800元~8万9800元(約147万6000~179万6000円)。同じコンパクトの海豚より一回り小さい。シャープで現代的なエクステリアでまとめた。

今後の注目株は海豹DM-i、オーソドックスなセダンのPHEVだ。多くのユーザーに選ばれる高い完成度を目指す。PHEV専用の1.5Lエンジンを備え、モーターのみ最大航続距離は200キロ。4980/1890/1495mm、ホイールベース2900mmで、価格は17万6800元~24万6800元(約353万6000~493万6000円)。

高級ブランド「騰勢」「仰望」

騰勢は2010年にベンツとの合弁により誕生したラグジュアリーな新エネルギー車ブランドだ。2014年に純EV「DENZA」、2016年に「DENZA400」、2019年に「DENZA X」を発売した。2022年にはMPV「D7」「D9」を発売、高級トレーラーハウスをイメージしたという。2023年にSUV「N7」「N8」を発売。平均価格42万元(約840万円)の豪華MPV「D9」が健闘している。BBA(BMW、ベンツ、アウディ)からの乗り換え組が相次いでいる。

仰望「U8」は、その場での方向転換、水上走行など、超絶技術が採用された。ラグジュアリー版とオフロード版があり、先行販売のラグジュアリー版は109万8000元(約2196万円)からと高額だ。スーパーカーに近い。

新ブランドの方程豹は今年6月に発表され、個性派の新しい顧客体験を提供する。1号車「豹5」はオフロード車を新エネルギー時代に導くナビゲーターを担う新コンセプトのSUVとなる。動力はPHEVで、想定価格は30万~40万元(約600万~800万円)。

成功の要因は開発速度

コンパクトの海豚、ベーシックセダンの秦で数量を稼ぎ、中型SUV、さらには高級車、新コンセプト車へと陣容を拡大している。その一方、PHEVも最新モデルを開発し、EVに抵抗のある層を取り込んでいる。車種構成や販売戦略に疎漏はないように見える。

中国メディアは、BYDは独自サプライチェーンを高度に管理することで、研究開発サイクルの短さと販売効率の高さを実現していると指摘した。今後は輸出に注力するフェーズに入るが、日本市場に進出したATTO3は試乗記を見る限りおおむね好評だ。しかし、ヒットにつなげるにはプラスアルファが必要だろう。EV未開の地、日本市場攻略のために、どこまで手を加えるつもりだろうか。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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